第39話
レストランで弁当を作ってもらい、本日はオノダ一剣流の道場へ。
アルマダがうきうきしながら馬を進める。
「楽しみですねえ!」
「ええ」
「ヤダ先生は凄くお人柄も良い方らしいですよ!」
「ええ」
「どんな方なんでしょうね!」
「楽しみですね」
船を出てからずっとこの調子。後ろでカオルとイザベルが苦笑いしている。
途中で弁当を食べ、一般居住区。
一般居住区とは言っても、職人区とは違い、長屋ではなく綺麗な一軒家が並ぶ。
「ん?」
「あれっ?」
マサヒデとアルマダが同時に声を上げた。
居住区にふさわしくない、鎧を着て剣を着けた者、槍を持つ者。
「あれ、犬族の方ですね。勇者祭の方ですかね? なんでこんな所に?」
「はて・・・」
向こうもこちらに気付いたが、ささっと道を開け、並んで小さく頭を下げる。
貴族と間違えた・・・わけはない。
ぽく、ぽく、ぽく・・・
馬を進めて行き、アルマダが前で止めて馬を下りる。
「ちょっと失礼」
「ははっ!」
「あなた方」
さ! と槍が出されたが、がちん! とアルマダが鎧の脇で挟んでしまった。
はあ、と溜め息をついて、
「もう少し場所を選びなさい・・・バレバレですよ」
槍をぐっと横に押されて崩れたと見えた。流石に獣人族と人族では力が違う。
が、挟んだ槍を腕をくるんと回して外に開きながら握り、すぱっと縦に剣を抜いて落とす。
「げ!?」
犬族の男は手元で槍が斬られてしまい、残った柄を投げつけて、ぱ! と塀の上に飛び上がる。アルマダはひょいと投げられた柄を避けて、
「おお! 流石に獣人族! 身体能力が・・・」
ぶん! もう一人の犬族の足元にアルマダの手元に残った槍が突き刺さり、びくっと身体が止まる。
「身体能力が違いますね。ふふふ」
「くそっ! あっ!?」
ばかかか・・・がつん!
馬車の後ろから走ってきた騎士のランスが犬族の男の鎧を横から引っ掛けるようにして上に突き上げる。ランスの先から落ちた男が馬に踏まれ「ぐ!」と声を上げた。
「おおう」
アルマダが顔をしかめて横を向く。もう一人の男を騎士達がランスを向けて囲む。
倒れた男の口から血が流れている。内蔵をやられたか。
アルマダは無視して囲まれた男の方に歩いて行き、じっと男を見る。
「ここでは目立ちすぎですよ」
すかん!
アルマダの剣が落ちて、男の鎧だけがぱかっと割れた。
「げっ!?」
「それもたった2人で」
すかん!
剣のベルトが斬られ、がちゃ、と音を立てて地に落ちる。
「どうします。やるならこの者達は引かせましょう。1対1で」
「いや・・・」
がらん、と剣を落とし、
「降参」
「結構。あなた、魔術は」
「使えます」
「お仲間を治癒して下さい。多分、馬に踏まれて内蔵潰されましたよ」
「は、はい!」
慌てて駆け寄って、馬に踏まれた男を治癒する。
「生きてます?」
す、と男が首に指を当て、
「あ! はい。生きてます」
「起こして下さい。やるなら、彼が剣を持つまで待ちます」
待つとは言った。言ったが・・・
無駄な時間を! 早く一剣流の道場に行きたいのに!
いらいらいら・・・
「おい。ほら、起きろよ」
「全く。まだ起きないんですか? では刺して」
「お待ち下さい! ちょっと! ちょっとだけ! おい! おい!」
ゆさゆさ。
「は! あ・・・」
「やりますか? やるなら剣を拾いなさい。待ちます」
「やるって、何を」
「私と殺し合いです! やるんですか!?」
は! と男が顔色を変え、
「い、いえ! あれです、ええと、降参!」
「ち・・・刺してさっさと行けば良かった」
すらりと剣を納めて、アルマダが馬を進めて行く。
マサヒデが2人に馬で近付いて行き、
「すみません。普段はあんなではないんです。一剣流の道場に行きたいって逸ってて。申し訳ありませんでした」
「いえ・・・お邪魔してすみませんでした」
マサヒデも馬を歩かせ、アルマダを追った。
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そしてオノダ一剣流道場前。
がつーん! がきん!
木剣の音が響いてくる。
「おお・・・ここが! ちょっと、鎧脱ぐの手伝って下さい」
騎士のリーが馬から降りてきて、風呂敷を広げ、アルマダの鎧を脱がせて置く。
「よし・・・鎧、頼みますよ」
「はい」
今回は皆も稽古用の木刀、木剣を持って来た。馬車から降ろして、各々の得物を持つ。
アルマダが目を輝かせて、三傅流宗家のフギからもらった紹介状を出し、うむ! と頷いて、玄関を開ける。マサヒデも苦笑してアルマダの後ろに並ぶ。三傅流の道場より遥かに小さいが、稽古の音を聞くだけでここは本物だと分かる。
「失礼致します!」
撃ち合う音が止んで、少ししてさらりと戸が空いて、髪を中分けにした男が顔を拭きながら出て来た。正座して、頭を下げる。
「オノダ一剣流道場です。本日は見学でしょうか」
「トミヤス流、アルマダ=ハワードです。三傅流のフギ先生より紹介状を預かっております。ご見学、お許しを頂けましょうか」
「おお、フギ先生の・・・失礼します」
男が紹介状を受け取り、封を開いて、うん、うん、と頷く。
アルマダの後ろのマサヒデを見て、
「トミヤス流。ご高名は聞き及んでおります。そちらがマサヒデ=トミヤス様」
「はい」
「ううむ! トミヤス流の2枚看板が! これはヤダ先生も喜びましょう! 少々お待ちを」
「はい」
さ、と戸を開けて、少しして男が戻って来た。
「ささ、お上がり下さい。ヤダ先生が喜んでおります」
ぱあ、とアルマダの顔が明るくなり、
「おお! ありがとうございます! それでは!」
にこにこしながら上がっていくアルマダの後ろに、マサヒデ達がぞろぞろと続く。
クレールとラディは見学、と道場の隅。
さささ、とアルマダとマサヒデを前に、皆が正座して座る。
「トミヤス流! アルマダ=ハワードです!」
「トミヤス流、マサヒデ=トミヤスです」
「トミヤス流見習い、マサヒデ=トミヤス様内弟子、カオル=サダマキです」
「トミヤス流見習い! マサヒデ=トミヤス様家臣! イザベル=エッセン=ファッテンベルクであります!」
「我流のシズクです!」
挨拶の順に、ば! ば! ば! と皆が頭を下げる。
宗家ユウゾウ=ヤダ。頭は禿げ上がっているが、まだ40代後半から50代前半といった所であろうか。心身ともに漲っていて、技も磨かれ、まさに剣客の絶頂期、という感じだ。
ヤダが頭を下げ、
「オノダ一剣流、ユウゾウ=ヤダです。高名なトミヤス流の皆様にご足労頂き、感謝致します」
「恐縮です!」
「剣を使うのは、ハワード様。ファッテンベルク様」
「は!」
「は!」
「此度は一手ご指南を、とありましたが実は道場破りである、とか? ははは!」
「そのような!」
「とんでもない!」
む、とヤダが笑顔で深く頷き、
「されば一手お教え致します。これは最初に教える一剣流の基本にして奥義。これが出来れば入門して半刻でも免許皆伝としております。こちらは刀でも使えるもの。トミヤス殿、サダマキ殿にもお教え致しますので、是非」
「ありがとうございます」
「ご指南、宜しくお願い致します」
マサヒデとカオルが頭を下げる。
ヤダがにやりと笑って、
「トミヤス流と一剣流、ふたつの免許を持てましょうかな。ではハワード様。立って私の前に」
「は!」
アルマダがヤダの前に立つ。
ヤダの顔がぎゅっと引き締まった。
「ま、練習のお手本ですので・・・互いに当たらぬように」
すう、とヤダが振り被ってゆっくりと落としていく。
アルマダの鼻先を落ち、腰の高さでぎりぎり。
「ハワード様もご確認を」
すう、とアルマダが振り被ってゆっくりと落としていく。
ヤダの鼻先を落ち、腰の高さでぎりぎり。
双方当たらない事を確認して、ヤダが頷く。
「結構。では、撃ち込んでみて下さい」
「は! 参ります!」
しゅ!
アルマダの木剣が振られた。
ヤダの木剣も振られた。
互いの木剣が当たったかのように見えた。
「如何」
アルマダが目を見開いて、止まったヤダの木剣を見つめる。
アルマダの木剣は横に逸れて、ヤダの膝辺りの高さまで落とされてしまった。
ヤダの木剣は真っ直ぐ落ち、腰の高さで止まっている。
弾いたのではなかった。だが、アルマダの剣は横に逸れてしまった。
マサヒデ達も驚いて2人の木剣を見る。
「これが当流の基本、そして奥義、擦り落とし。出来れば免許皆伝と致しましょう」
見ていた4人には分からなかった。
が、アルマダには手に伝わった感覚で何をされたか理解は出来た。
理解は出来たが、これが出来るか!?
つつ・・・とアルマダの額を冷や汗が垂れていく。




