第38話
翌朝。
食事の後に、皆が訓練場に集められた。
訓練場を貸し切りにしてもらい、船員も全員立入禁止。
マサヒデ達は車座に座って、
「昨夜の3人は排斥派と分かりました。で、あの3人がクレールさんやイザベルさんでなく私を狙ってきた理由も見当がつきました。確実な証拠はないですが、まずこれだ、という理由があります」
クレールが手を挙げ、
「はい! その理由とは!」
「マツさんの身元が誰かから排斥派に流されたんです。つまり、私は魔王の義理の息子だって事が、排斥派に知られた訳です。そりゃ私を狙いますよね。まさに親玉ってわけです」
「な、なるほど!」
「しかも、魔王様には正式に許しを得ていない。まだ仮の、許しを得ていない婚約状態って訳で、魔王様という強力な保護はない。腕は多少は立つが所詮は人族で、頑丈な魔族と違って当たれば死ぬ。実に狙いやすいですね」
ふん、とアルマダが笑って、
「多少腕が立つって嫌味ですか?」
「違いますよ。でですね。この排斥派が凄く面倒です」
カオルが目を据わらせて手を挙げる。
「ご主人様。既にあの3人の口は割らせました。彼の者達の知っている潜伏場所は全て聞き出してあります。仲間は始末しましょうか」
「・・・場合によっては、お願いします」
「え?」「は!?」
マサヒデの返事を聞き、クレールとシズクが驚く。
始末なんて絶対駄目! と言ってきたマサヒデが・・・
「ま、今ではないです。出来る限り、こっちから手出しはしない方が良いですよ。面倒ですが、返り討ちにしてこいつには敵わないと思わせるのが良い。シズクさんと同じ。殺さずぶっ飛ばして、来なくなるまで待つ」
「ご主人様。なぜそちらの方が良いのでしょうか。お聞かせ下さい」
「教会は排斥派の行動を黙認していると聞きました。派閥争いなどはしていないわけです。そこで排斥派を派手に始末なんてしてしまうと、教会が敵に回りかねません。これは絶対に避けないといけない」
「なるほど」
「たとえ教会が敵に回らなくても、排斥派はこの首都だけでなく、世界中にいるんです。いくらでも援軍が来るわけです。余計に厄介になりますからね。殺すのは最小限です」
ぴく、とアルマダの眉が動いた。
殺すのは最小限。つまり必要ならば斬る。マサヒデの腹は決まったのだ。
「カオルさんには、ちょっと面倒な仕事を頼むかもしれませんが・・・」
「お任せ下さい」
す、とカオルが頭を下げた。
「もうひとつあります。戦わずして逃げる。さっさと魔の国に行ってしまえば、排斥派はいません」
んん! とシズクが不満そうな顔をして、
「逃げるう? まじで言ってんの?」
「ええ。これもひとつの手です。で、魔王様の所に行って、マツさんとの結婚のお話をする。許してもらえばそこで世界中に知れ渡る。私には魔王様という強力な後ろ盾が出来る。排斥派は下手に手出し出来ない」
「んー」
「反対されたらされたで、私は魔王様と何の関係もなくなり、特に排斥派の目が向けられる事はなくなる」
「んんー!」
「で。私はどっちを選ぶか。私はここに残って道場巡りを楽しみ、闇討ちを返り討ちにして点数を稼ぎ、排斥派をぶっ飛ばしたい。皆さんはどうですか。さっさと魔の国に行きたい方はいますか?」
アルマダが軽く手を挙げ、
「ちょっと待って下さい。あなた、ただぶっ飛ばしたいから残るって訳ではないですね? カオルさんに何か頼むって言うんですから」
「そうです」
「それを聞いてから、決を採りましょう」
「ううむ・・・」
マサヒデが小さく唸って腕を組み、こき、こき、と首を鳴らす。
「まずは陛下にお尋ねして、マツさんの素性を知っている者を教えてもらいます」
「ふむ」
「で。その中から排斥派を見つけます」
「それで? とっくに情報は流れてますよ。どうするんです」
「まず、間違いだったと再度情報を流してもらいますが・・・排斥派だという確かな証があるなら、そうですね・・・排斥派の方々は即位前の陛下を散々襲ったそうですし・・・そんな方が陛下の側にいたら、ね・・・と、私は思いますが・・・」
「・・・」
「政に首を突っ込むのは、ゴキカブリが顔に飛んでくるよりも嫌ですが・・・私は、陛下も王子も人として好きになってしまったんですよ。排斥派の方々がおられますと、あれですから・・・まあ、探るだけ探って、情報を流して頂いて、証を掴みましたら、後は陛下のご判断、ですけども・・・」
マサヒデがカオルを見る。これはマサヒデが本気の立ち会いの時の目。冷たい目。
「場合によっては、カオルさんの出番も・・・出来ますか? カオルさんはこの国の政府の人間ですが」
「相手によりますが」
「クレールさん。これは勇者祭とは一切関係ないので、忍の方々のご助力を願うかもしれませんが・・・それは他国の政府に手を出すという事です。ま、場合によっては、ですが。どうですかね。無理強いはしません」
クレールが凄く困った、という顔で、下を向く。
「う、ううん・・・いけないと思いますけど、その、バ、バレなければ・・・」
マサヒデはにやりと笑って、顎に手を当てる。
「アルマダさん。これって、あれですよね。テロリストってやつですよね」
「ええ。そうです。そして、あなたのやろうとしていることは、政治上、とても好ましくない。反対側の意見もあるから議会というものが成立する。全員がいつも賛成では議会ではない。しかも、特定の宗教を認めないと言う宗教差別にもあたります。ですが・・・」
アルマダもにやりと笑う。
「反対派の意見が、ただの魔族差別からくる意見である、というのはどうですかね。問題の教会にだって、普通に魔族の受け入れをしている所はあるんです。私は種族の差別というのが大嫌いなんですよ」
ぱん! とマサヒデが手を叩き、
「ふふふ。では、テロリストになりたくない方は手を挙げて下さい。魔の国に送っても良いですし、ここで勇者祭をやめ、私達との付き合いをやめ、帰って頂いても良いです。何なら、外にいる警備兵の方に私を政治犯だと通報して頂いても結構です。私は敵として見ませんし、恨みもしません。しかもかなりの報酬が出るでしょう」
マサヒデはラディを見て、
「ラディさん。どうします。あなたは私の家族でもないし、魔族でもないです。政治犯になりますか?」
「王子は良い方ですから、私はマサヒデさんに賛成です」
「あれ。ラディさんも王子が好きですか」
くい、とラディが眼鏡を上げ、
「はい。王子は刀を見る目があります」
「・・・そうですか。トモヤ、どうする」
トモヤは退屈そうな顔を上げ、
「はあん? 要は悪代官の成敗じゃろうが。ちっとくらい悪さしても許してもらえるわ。あの8代王でも、勝手に人の家に上がっておるのじゃぞ。ほれ、カオル殿やクレール様の忍はあれじゃ、御庭番衆じゃ! わははは!」
はあっ! とクレールが目を輝かせ、
「お、御庭番衆ですか! うちの者が御庭番衆! うわあ・・・」
「のう。8代王はやっぱりアルマダ殿か? マサヒデは首切り十郎じゃの。銅貨6枚は用意しておけよ。ワシは火消しで良いぞ。法被は買ってくれ」
マサヒデが騎士達に目を向ける。
「皆さん、どうします。政治犯、やりますか」
騎士4人がにやにや笑って顔を見合わせる。
「マサヒデ殿。我らも今は騎士とはいえ、元は無頼の傭兵のような者でして・・・なあ?」
「ふふふ」
「ま! それなりに」
「ですかね。色々と、裏も表もという訳で」
「テロリスト! 国家反逆罪! ふふふ。たとえ捕まったとしても、ちんけな傭兵がこんな華を咲かせられるとなりますと・・・いやはや。胸が踊りますな」
「ははは! 胸が踊りますか! で、聞くまでもないですが」
マサヒデは笑って膝を「ぱしん!」と叩き、シズク、イザベルを見る。
「そんな楽しそうな事、やるに決まってんでしょ!」
「マサヒデ様! どこまでもお供致します!」
マサヒデがにやっと笑って腕を組む。
「決まりましたね。今日から私達はテロリストです。ではテロリストの第一歩」
マサヒデが懐から封筒を出す。
「サクマさん。これを陛下に。お返事も頂いてきてもらえますか」
「ふふふ。お返事の中にターゲットがいる、と」
「ええ。一体誰が私の秘密を漏らしたのやら・・・噂を広めてくれたお陰で、私は人気者。きちんと礼はしませんとね」
「これはこれは。お高いお礼になりそうですね」
「ま・・・貴族のお方に安い物を贈るのは失礼ですから。お高い物を」
「くくく・・・」
にやにや笑うマサヒデとサクマを見て、トモヤが呆れて溜め息をつく。
「のう、マサヒデ。お主らの方が悪代官のようじゃぞ」
「何を言う。俺達は正義の味方だ。おお、そうだ。扇子を買ってこよう。正義と一筆書いておかねば」
「ははは! 代わりに殺とでも書いておけばどうじゃ!」
「お! トモヤ、それはそれで良いな。見た瞬間、ぞくっとするやもしれん」
これからマサヒデ達はテロリスト。
この事も陛下への手紙に書いておくべきか?
そんな事を考えて、ふ、とマサヒデが笑った。
その手紙を見て、陛下や王子はどれだけ驚くだろう・・・




