第37話
「これをもって今宵の晩餐会は閉会とする! 皆、楽しんでくれたであろうか! 土産も用意した! こちらも是非楽しんで頂きたい! それでは、良い夜を!」
国王のシメの挨拶が終わり、ざわざわと貴族達が去って行く。
これで終わった。やっと終わった。夢のような時間であった・・・
「トミヤス殿」
国王の声で、びくっとマサヒデが肩をすくめた。
「は! はい!」
「どうした。呆けた顔をして。酔いが回ったか?」
「いえ・・・その、私のような平民が、お城で・・・夢みたいだと・・・」
「そうか。ふふふ」
国王が歩いてきて、ぱん、と軽くマサヒデの頭をはたいた。
「まさしく夢のようであったな。私も楽しい時間を過ごせた。謁見の間ではこうはいかんぞ」
「はい!」
「ははははは! 今日は酔うたわ!」
笑いながら国王が下がって行く。すれ違いにかつかつと靴を鳴らして王子も歩いてくる。
「・・・」
この王子は貫禄がありすぎる。マサヒデが目を逸らしそうになるのを我慢していると、にやりと王子が笑い、
「トミヤス殿。父も、母も、私も、妹も。この場には来れなかったが、他の弟や妹も。我々家族は、トミヤス殿の手紙を楽しみに待っておる。皆で何度も読み返す。民の暮らし、トミヤス殿の剣の稽古、ただ日常の事。全てが楽しく、学びとなる」
「はい」
「父上が人前であれ程に声を上げて笑う事は、滅多にない。しばらくこのウキョウに滞在するのであろう。次の手紙を楽しみにしておる」
「はい」
「ふふふ。私の事をどう書くのかな。実に楽しみだ」
ぱん、と軽くマサヒデの頭をはたき、王子も下がって行った。
次に王妃と王女が来て、マサヒデの前で礼をした。
マサヒデも立ち上がり、頭を下げる。
「お話、楽しく聞かせて頂きました。また機会がございましたら」
「トミヤス様。私は口説いてくれませんの?」
「はあっ!?」
「うふふ。冗談です。でも、魔王様のご親戚になるのも、やぶさかではありませんの。それも剣の達人だなんて! 絵物語の主人公みたいですもの。それではまた」
くすくす笑いながら、2人も下がって行った。
アルマダがマサヒデの肩に手を置き、
「さ、マサヒデさん。帰りましょう。待ってる人がいます。3人も」
は! とマサヒデが顔を上げた。
3人と聞き、カオルとラディもマサヒデに顔を向ける。
「そうでしたね・・・皆さん、急ぎましょう」
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マサヒデ達がシルバー・プリンセス号に戻ったのは、子の正刻(0時)頃。
時間も時間。ぴりぴりと気を配りながら貨物室に入って行く。
1間(約1.8m)程空けて、3人の男が縛り上げられ、頭に袋を被せられて座らせている。
前ではサムが椅子に座り、1尺半(約45cm)程の、短く切られた太い縄を持って「ぱちん、ぱちん」と手に当てている。
イザベルがそれを見て、
「マサヒデ様・・・泥棒でしょうか?」
「ええ。あの3人は私の命を盗みに入ってきました」
「え!?」
「まずは馬を」
「は!」
皆が馬を下り、馬房に入れて、サムの所に歩いていく。馬車からもクレール達が降りてきて、何だ何だと歩いてくる。
「サムさん、すみません。こんな時間まで」
「いえ、大丈夫です。しかし、こいつらはもしや」
「ええ。お察しの通りだと思いますが・・・カオルさん」
「は」
「この人達の身元が分かるような物、ありましたか」
「ございます」
カオルが男の後ろに回り、首飾りを外して持って来る。
「これです」
皆が覗き込んで、
「あ」「げー・・・」「ちっ!」
クレールが驚き、シズクはうんざりして、イザベルが顔をしかめる。
やはり、とアルマダが頷く。
「この3人は魔族排斥派の危険分子、という奴ですか」
「めんどくせえーなあー! またぶっ飛ばさなきゃいけないのかよおー・・・」
シズクがうんざりした声を上げる。マサヒデがシズクを見て、
「シズクさん、ぶっ飛ばすって何です。以前にやり合った事があるんですか」
「あるよ。前に首都に居た時」
「へえ・・・もう20年も前でしたよね。居たんですか」
「居た居た! 魔族の危険分子めー! っていきなり斬り掛かってきてさ。殺しちゃいけないし、でも斬り掛かってくるし。超面倒。お前が黒幕か! とか訳分かんない事言ってさ。ちょっと人が少ないな、って道だとこいつら出てくんのさ」
「ふうん・・・命知らずですね」
「ねー。マサちゃんとかハワード様くらいじゃないと、鬼族斬れるわけねえじゃん。でもそんな凄い奴なんていなかったよ。けー! 勢い良かったの最初だけだったもんねー! ぶっ飛ばしてたらそのうち来なくなったんだ。だせーだせー!」
アルマダが腕を組んで3人を見下ろし、
「彼らの持ち物は」
サムが立ち上がって、袋を持って来る。
「ハワード様、こちらです」
「ふむ」
袋を開けて中から持ち物を出して並べていく。
剣、ナイフ、財布、棒手裏剣・・・大した物はない。
アルマダがひとつひとつ手に取り、軽く振ったり、剣と剣をぶつけてみたり。
魔術が籠められたような得物はないし、質も使えなくはないという程度。
「こんな適当な装備で私達に? ちょっと信じられませんが・・・」
「アルマダさん。ちょっと引っ掛かってる事があります」
「何か」
「この人達、まず私を狙ってきましたよ。クレールさん、シズクさんではなく。最初に、マサヒデ=トミヤスか? って尋ねてきました。この船にレイシクランはいるのか、とかではなく」
「ふむ。マサヒデさんを名指しで・・・親玉とでも見られているのでしょうか」
「もうひとつ。首都には他にも魔族の方々がたくさんいるではありませんか。なのに、なぜ私達なんでしょう」
「・・・」
「まあ、クレールさんやイザベルさんが狙われるのは分かりますよ。有名貴族ですし。でも、私は平民ですよ。多少は顔は売れてますけど、私を殺した所で何かありますかね? 政治や宗教に影響が出るとは思えません。せいぜい読売を数日騒がせる程度では」
シズクが鼻を鳴らし、
「マサちゃん。こいつらに理由なんてねーって。私だって何もしてないのに襲いかかって来たんだぞ」
「ふむ」
本当にそうだろうか?
であれば、町中の魔族が被害にあうはずだ。
アルマダが難しい顔を上げ、
「違います。何か理由があるはずです。でなければ、町中の魔族が襲われてますよ」
やはりアルマダも同じ考えのようだ。
「アルマダさん、私、やはり親玉みたいに思われてるんですかね。私を始末すれば、魔族の大貴族が町から出て行く、みたいに」
「今の所、思い浮かぶのはそれくらいですが・・・やれやれ。親玉ですか」
は! とアルマダが顔を上げ、ちょいちょい、とマサヒデを指で呼んで離れていく。
マサヒデがアルマダについて行くと、アルマダが周りを見て、小声で囁く。
(キノト公爵のお話、覚えてますか。貴族が情報を流す)
(はい)
アルマダがマサヒデを指差し、
(あなたが魔王の義理の息子だって情報が流されたんです。そうです。親玉ですよ)
(・・・)
(人族でありながら魔王の姫を娶った。排斥派から見たら人族全体の裏切り者です。そりゃあ、マサヒデさんが最優先で狙われるに決まってますよ)
(なるほど。納得です)
(後は誰が流したかです。マツ様が魔王の姫だって事を知っている者は少ない)
(どう探しましょう)
(陛下に聞くのが早いし確実ですが、その少ない者から尻尾を掴むのは難しいですよ。あのキノト公爵が掴めないんですから。見つからなければここを出るしかないです)
マサヒデが縛られた3人を見て、
(口を割らせてこの町の排斥派を全員痛めつけていくとか)
(それ、教会全体を敵に回しかねませんよ。こちらから攻めるのは避けた方が良い)
(では、情報を流した者を見つけた後はどうするんです。もう流れた後ですよ)
(む)
(教会、世界中にあるんでしょう? 排斥派も。ここ、港があるんです。排斥派も通信は使うでしょうし。この話、世界のどこまで広まったか分かりませんよ。詰みですよ、これ。やるしかない)
アルマダが頭を抱える。
「くそ・・・」
「いっその事、陛下にお願いして盛大にお祝いでもしてもらいますか? 堂々と世界中に知らせてやれば良いと思いますがね。そうすれば逆に手も出しづらいでしょう」
「それは駄目です」
「何故です」
「駄目というか、無理です。あなた、まだ魔王様に謁見して正式にお許しを得てないんですから。断られる可能性もあるんですよ。それを勝手にお祝いだなんて・・・世界に知らせるなら、魔の国から、魔王様のお立ち会いの下でなければ・・・」
「・・・」
「ここを出ますか。それも手です。急いで魔の国へ向かう。魔の国に入れば排斥派はいない。予定していた米衆連合国は教会が強い。米衆連合へは渡らず、クレール様に護衛艦を用意して頂き、海から米衆連合を回ってそのまま魔の国へ行く。排斥派の事を考えればこれがベストですよ」
「ううむ・・・」
「道場巡りは帰ってからでも出来ます。どうします」
マサヒデが腕を組んで天を仰ぐ。
どうしたら・・・
「一晩、考えさせて下さい。明日、皆の意見も聞きましょう」
「分かりました」




