表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
晩餐会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/105

第34話


「やっとこの首都に来てくれたな」


「は! あ、はい!」


 マサヒデが慌てて「がちゃん!」と食器を鳴らし、テーブルに額をこすりつける。


「はははは!」「おほほほ!」「ふ、ふふ」「ぷ・・・」


 国王のテーブルの皆が笑う。


「ふふふ。顔を上げよ。いちいち頭を下げておっては、なにも食えぬぞ」


「はい!」


 マサヒデが顔を上げると、額が赤くなっていた。

 くすくすと王女が笑っている。


「これまでのトミヤス殿の手紙は楽しく読ませて頂いたが、オリネオに着く前の話も聞きたい。良いかな」


「勿論です!」


「ははは! そう気張らんで良い! 今宵の主役はトミヤス殿である」


 国王が立ち上がって、にこにこしながら、


「さあさあ、皆の者! 剣で名高いトミヤス殿のお話が聞けるぞ! 聞きたい者は皆こちらへ参れ!」


 おお、と声が上がって、ざわざわと貴族達が寄って来る。


(ひええー!)


 マサヒデが肩を竦めて身を縮こまらせる。

 ちらちらとテーブルを見る。

 にこにこ笑っているのはクレールだけ。流石にイザベルも固い顔をしている。

 カオルは近づいてくる貴族達に笑顔を向けているが、目は鋭い。

 ラディもシズクも大きな身体を小さくしている。


 ざわざわ・・・ざわざわ・・・


「え、ええと、どこから話せば良いでしょうか!」


 ふ、と国王が笑い、


「そうさな。トミヤス殿が剣を始めたきっかけは? やはりお父上に握らさらたか」


「いえ・・・握らされたのかどうかは分かりません。私の一番古い記憶は、自分の手が木刀を持っている所で・・・」


 マサヒデが両手を出して見つめる。


「後ろに、父上と母上がいました。振り向いて顔は見たのですが、どんな顔をしていたかは、はっきりとは分かりません。門弟の皆さんもいました。皆が、私に何か言っていたのですが・・・はっきり覚えているのは、木刀を握った手です」


「それ程に幼い頃からか・・・ううむ」


「気付いた頃には木刀を振り、稽古を抜け出しては、トモヤと・・・あ、そこのごつい」


 マサヒデが隣のテーブルのトモヤを指差すと、トモヤが白い顔でマサヒデを見る。


「あれは、私と同じ村の出で。あのトモヤと、村を走り回り、川に石を投げたり、釣りをしたり、山に遊びに行ったり・・・将棋をしては負けて飴やまんじゅうを奢らされたりと、そんな生活をしておりました」


「ほう。絵に書いたような村の子供、という感じであるな」


「はい。正直に申しまして、それまでは遊び半分で稽古をしておりました。そして、そちらのアルマダさんが・・・アルマダ=ハワード。あれは10になるかならないかの頃でしょうか。道場に来たのです」


「ふむ。そして、好敵手となったか」


「いえ。来たばかりのアルマダさんは、下から数えて何番目でした。私はその頃には、同じ年頃の門弟では一番でしたが、あ、自慢に聞こえてしまうでしょうか」


「ほう! ハワード殿にもそのような時代があったか! 下から数えてな!」


 くすくすと貴族たちが笑い、アルマダが苦笑して、


「マサヒデさん、やめて下さいよ」


 と、手を振る。


「はっきり言って、目にも入っていない、みたいな感じでした。ですけど、アルマダさんは凄く真面目だったんです。私達が遊びに行ったり昼寝していた時も、ずっと木刀を振ったり、剣術だとか、兵法の本を読んでいたり。本当に努力家というか、剣術に真っ直ぐというか・・・上手く言えませんが」


「恥ずかしいからやめて下さい」


「ふふふ」


 国王が笑い、貴族達も笑う。


「陛下に隠し事は出来ませんから、話します。それで、アルマダさんが凄く真面目で、下から何番目だったのが、いつの間にか上から何番目。そして何年かしたら・・・正直に言って、私は、アルマダさんに嫉妬していました。あんなに弱かったのに。そして、何度か手を合わせるようになって、このままでは負けると自覚しました。そして尊敬するようになりました。その時、私の剣術の稽古が始まったんです。それまで私の剣術はただの棒振り遊びだったんです」


「うむ」


 国王が頷き、周りの貴族達も真面目な顔で頷く。


「アルマダさんが居なかったら、今の私はなかったでしょうか。そして高弟になってしばらくして、こんな若造が招聘のお話まで頂きました。そのすぐ後、勇者になるか、天下一になるまで帰るな、と道場を叩き出されて、まずはオリネオの町へと」


「なるほどな。時にトミヤス殿。聞きたい事がある」


「は! 何でしょうか!」


「なぜ招聘の話を断った。道場をこの首都に開く気はなかったか」


 は? とマサヒデは不思議そうな顔をして、


「いえ・・・何と言いましょうか、まだまだ弱いのに人を教えたりとか、そこまで思い上がりは。道場では父上もおりましたから、教える事は出来ましたが」


「オリネオでは冒険者達に教えておったそうではないか」


 マサヒデは首を振り、


「いえ。あれは教える体で教えてもらっていたんです」


「というと」


「私の剣は所詮は道場の剣で、実戦の剣ではないと分かっていたからです。冒険者さん達は、確かにこう、何と言うか・・・剣の技術と言いましょうか、それはない方も多いですけど、中には何人も人を斬っている方もいます。戦の術は私よりも遥かに上です。私が喉から手が出る程に欲しかったのは、その戦の術。実戦で使う術。それがなければ、いくら道場剣術が出来ても、実戦ではすぐ死ぬだろうな、と」


「ふうむ。皆の者、聞いたか? 将来騎士や近衛にと息子に道場に行かせておる者は? この話、聞かせておいて損はなかろう」


 質問されるまま、マサヒデの話は続く。


 300人と組手を行った話。

 仲間との出会い。

 火付盗賊改と殺しの捜査。

 愛馬、黒嵐との出会い。

 捨てられた貴族の屋敷で、初めて人を斬った時。

 父の師、アブソルート流のコヒョウエ=シュウサン。

 コヒョウエの息子、ジロウとの立ち会い。

 イザベルとの出会い。

 イザベルの父、リチャードの会見。

 サカバヤシ流次代宗家、ジンノジョウとの立ち会い・・・


「そして、オリネオを出て、こちらに来まして。この首都に来てからも、初日から闇討ちに。ここは人が多いですから、外に出ればいつ、という感じですけど・・・」


 は! とマサヒデが顔を変えて手を振って、


「ああっ! 治安が悪いとか、そういう事ではないです! 闇討ちするような人は、人が多ければどこにでもいますし、そもそも勇者祭の相手じゃなければ何もしない一般人・・・というのもおかしいですけど、只の腕自慢の人なんですから。中には達人もいるんです」


「うむ」


「それに、ここにはたくさんの道場があって、凄く楽しみなんです。あ、道場破りなんかしませんよ。技術交流です。色んな道場を尋ねて、お話を聞いたり、出来たら教えをもらったりしてとか。もう楽しみで楽しみで、凄く嬉しいんです」


 マサヒデが嬉しそうな顔をすると、国王も笑顔で頷いた。


「そうか。ここに来て嬉しいか。うむ。そう言ってもらえると私も嬉しい」


「そして、今夜はお招きまで頂いて、こうして陛下や皆様とお会いする事が出来ました。陛下、お招き下さって、本当に感謝のしようもありません」


 ぐ、とマサヒデが頭を下げると、笑顔で話を聞いていた王子らしき男がマサヒデに声を掛けた。


「トミヤス殿。宜しいか」


「あ、は、はい! 何でしょうか!」


「まず名乗ろう。第一王子、コウ=ヒラマツである」


 太い眉と鋭い目。王子というよりも、軍人のようだ。イザベルの父に近い雰囲気を感じるが、重苦しい威圧感ではなく、圧倒させるような感じ。国王とも違うが、これも威厳というものだろう。


「マサヒデ=トミヤスです!」


「うむ・・・」


 王子が顎に手を当てて、にやりと笑い、


「父上への感謝の気持ちを見せて頂きたいのだが」


「は、私で出来る事であれば」


 ぎく、とアルマダが目を向けた。

 キノト侯爵の名に目を取られてうっかりしていた。この王子は刀剣が趣味・・・


「ふふ。私は世間では刀剣狂いと揶揄される程の刀好き。この中にも陰口を叩いておろうな。ふふふ」


 マサヒデの腰の辺りを指差し、


「その腰の大小を見せて頂けぬであろうか。それをもって、感謝の気持ちの代わりとしたいが」


「あ、そんな事でしたら」


 マサヒデが立ち上がって、するすると下緒を解いて、名刀匠ホルニの脇差と雲切丸を抜く。恐る恐る王子の席に歩いて行き、刃の方を自分に向けて差し出す。


(駄目ですってー!)(マサヒデさん!)


 クレールとアルマダが笑顔を向けつつ、心の中で叫ぶ。


(しまった!?)


 差し出した所で、マサヒデもぎくっとした。

 刀剣狂い・・・万が一、この刀がコウアンの作とバレたら!?

 いや『コウアンの作だ』であれば、個人蔵の重要刀剣とかで済む。かもしれない。


 だが、国宝・酒天切コウアンの兄弟刀とバレたら・・・

 間違いなく文科省に取り上げられる!


「では拝見」


 王子はまず脇差を取り、


「これが噂の埋もれた名刀匠、ホルニの作であるか」


「はい・・・」


 王子は、ぴっとハンカチを口に咥え、作法通りに刃を上に向け、縦に抜く。

 シャンデリアの光を浴び、きらきらと沸が冴えて輝き、王子が目を見開く。


 王子が立ち上がり、周りに見せるようにゆっくりと左右に持って行く。

 おお! と周りの貴族達からも声が上がる。


 ゆっくりと横に向け、立て、また横に。

 うんうん、と何度も頷き、慎重に鞘に納めてマサヒデに返し、口のハンカチを取る。


「見事だ! 見るだけでは分からぬであろうが、持った時のバランスの良さはまるで重さを感じさせぬ。実戦重視のような分厚く反りも少ない作りでありながら、何故かこの脇差には美しさしか見えぬ! これぞまさに名刀である!」


「ありがとうございます」


 ぱちぱちぱち、と拍手が上がった。

 国王も満足げに頷いている。


「ではその刀を見せて頂こう。虎を頭から尾まで両断したという刀。楽しみだ」


「は!」


 返事はしたが、マサヒデの心中はまるで首に剃刀をいくつも当てられているように緊張している。もしバレたら!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ