第33話
案内の男について行き、長い廊下を歩き、突き当り。
ドアの向こうから声が聞こえる。
「こちらです! 席へは内膳正がご案内致します!」
がちゃ、と男がドアを開ける。
一歩入ってマサヒデが固まった。
「・・・」
この部屋は何畳あるのだ!?
一番奥がよく見えない。
もの凄く長いテーブルが奥までずっと伸びており、そこここに何人かの派手な服を着た者達が固まってグラスを持って喋っているのが見える。和装も洋装も見える。
「マサヒデさん」
アルマダに声を掛けられ、は! としてマサヒデが中に入る。
続いて、皆も入ってくる。
席はどこだろう・・・何とかが案内してくれるというが、待っていれば良いのか?
マサヒデ達を見る視線を感じる。
ちら、ちら、と周りを見ていると、燕尾服を着た上品な男が歩いて来た。
「マサヒデ=トミヤス様ですね」
「はい」
「まず、招待状と帯剣許可証を」
「はい」
これが内膳正なる者だろうか?
皆が封筒を取り出し、男がひとつひとつ確認していく。
「お待たせ致しました。では席にご案内致します。皆様こちらへ」
すっとクレールがさり気なく出てマサヒデの隣に並ぶ。
「マサヒデ様! 楽しみですね!」
「え、ええー! 勿論!」
クレールを見ると、にこにこした笑顔をマサヒデに向けている。
マサヒデも笑みを返したが、顔が引きつっているのが自分でも分かった。
どきどきどき・・・
内膳正? はどんどん奥に進んで行く。
横のクレールが誰かに手を振った。
あ、とマサヒデももそちらに顔を向け、頭を下げる。
アルマダも向こうを向いて軽く会釈している。
こちらからは顔が見えないが、パーティーの時の輝く笑顔を作っているのだろう。
そうこうしながらどんどん歩いて行くと、奥のテーブルが見えてきた。
大きな丸テーブル。
横に小さな丸テーブルがふたつ。
(小さい方が)
待て。
ではあの大きなテーブルは誰達のテーブルだ?
まさか・・・まさか・・・まさか!?
いや! そんな事はありえない!
どきん! どきん! と鼓動が脈打つ。
心臓が口から出そう、とはまさにこの事。
目眩がしてきたのは気のせいか?
「トミヤス様御一行はこちらへ」
ぴ、と指揮棒のような物で内膳正がテーブルを指す。
「・・・」
大きなテーブルの隣・・・
「ハワード様御一行はこちらへ」
「ありがとうございます」
アルマダはさらりと返事をして、奥に座る。
すたすたとマサヒデも歩いて、アルマダに近い所に座る。
「アルマダさん」
クレールがマサヒデの横に座り、皆も緊張で顔を白くして座っていく。
白くないのは青黒い鬼の肌のシズクだけ。
「アルマダさん」
マサヒデが小声で呼び掛けるのを無視して、アルマダが給仕からウェルカムドリンクを取り、軽く一口飲み、
「何ですか」
「無視しないで下さいよ」
「あなたも落ち着きなさい。いや、円テーブルを用意してくれたのはありがたい」
「そのテーブルですよ。あの大きなテーブル」
は、とアルマダが息をつく。
「分かってますよ・・・」
「やっ! やっぱり・・・」
「そうですよ。私も心臓が破れそうです。堪えてるんです」
ぐい! とウェルカムドリンクを飲み干し、アルマダがもう1杯取る。
「あなた、一度お話ししてるんでしょう。せめて私より落ち着いて下さい」
「おかわり下さい!」
クレールの声で、は! とマサヒデがクレールの方を向いた。
クレールはウェルカムドリンクを一気に飲んで、もう1杯。
一番落ち着いている。流石だ・・・
「さ、マサヒデ様も」
「はい」
くぴ、と一口。全然味が分からない。
「クレールさん。私もう駄目です。緊張で胸が張り裂けそうで」
「ですよね! 私も早く会いたくてどきどきしてます!」
クレールがにっこり笑う。
通じない!
ラディ。シズク。二人共、ウェルカムドリンクを取りはしたが、口に運ばず白い顔でじっとグラスを見つめている。
カオル。
緊張はしているようだが、目をちらりちらりと会場内に向けている。これは陛下が、という緊張ではない。先程襲われたばかりの緊張に違いない。
イザベル。
これも緊張はしているが、くいっ、くいっ、とウェルカムドリンクを飲んでいる。
「イザベルさん?」
「は!」
「あの、緊張してます?」
「勿論です」
「私、もう逃げたいです」
す、とカオルがマサヒデに目を向けて、
「ご主人様。ショウゴ=キノト先生とはお話せずともよろしいので」
「・・・」
「そろそろ腹を決めて下さい。すぐに陛下が御成になります。開会のご挨拶。乾杯の後は、お話を聞きたいとぞろぞろ集まってきますが、陛下とこのような事がありました、あのような事がありました、どう思われた、こう思った、とお話ししていて下さい。囲まれましょうが、陛下とお話していれば、誰も邪魔はしません」
「はい・・・」
ぐ! とウェルカムドリンクを飲み干し、たん! とグラスを置く。
「もう1杯」
とグラスを給仕に戻した時、どおん! と太鼓が鳴った。
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どおん! どおん! どんどんどんどん・・・どどん!
がたがた、とアルマダやクレールが立ち上がって、慌ててマサヒデも立ち上がる。
「日輪国国王陛下! ノブヨシ=ヒラマツ王! おなあーりーい!」
は、と気付けば、向こうにドアがある。騎士も立っている。
騎士の反対側に立つ軍服の男がドアを開け、ぴし! と敬礼。
すっとドアの向こうから、厳しい男が出てくる。
王。国王陛下。
マツと結婚した際に通信で話した、あの国王。
ちらりとマサヒデを見て、一瞬だけ笑ったように見えたが、すぐに毅然としたものに戻った。
給仕が皆の前に盃を並べて酒を注いでいく。
王の隣に美しい紫のドレスを着た女が並ぶ。
反対側に、これまた厳しい顔の30前後に見える男が並ぶ。あれは王子だろうか?
その隣に、マサヒデよりも年上と見える女が並ぶ。あれは王女?
しーんとだだっ広い広間が静まった。
「日輪国国王! ノブヨシである! 皆の者、今宵の晩餐会によくぞ参られた! 歓迎致す!」
す、す、す、と皆が頭を下げ、マサヒデも頭を下げた。
「手元の盃をご覧頂きたい! 今宵の主賓のお一人には魔の国のフォン=レイシクラン公爵家の方にお運び頂いた! ワインなど恥ずかしくて出せたものではない! よって、国内でもこれはとされる酒を用意した! さあ、盃を取られよ!」
皆が盃を取る。国王はゆっくりと左右を見て、深く頷き、自分も盃を取った。
「今宵を楽しんで頂きたい! それでは、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ぐ、と盃の酒を飲んで、は! と気付いた。
クレールも飲み干して、驚いた顔でマサヒデを見上げる。
これは三浦酒天で出される酒ではないか!
おお、これは、なんと、と驚く声があちこちから上がる。
声を聞き、驚く顔を見て、国王がにやりと笑う。
「はっはっは! 驚いて頂けたであろうか! こちらはレイシクランお墨付き、シライ領ヤセキ村の酒蔵で作られた田舎の安酒! なんと1升で銀貨3枚もせぬ酒よ! 如何であったろうか!」
国王が盃を横に出すと、給仕が酒を注ぐ。
会場の皆の盃にも酒が注がれる。
国王は盃を挙げ、
「この国もここまでの酒が造れるようになった! 私はこれぞ民が富んできた、国が富んできた証ではないかと考える! これも皆の尽力あってこそ! 今宵は民の成功を祝い、皆の尽力に感謝して、好きなだけ呑んでもらいたい! 酒は他にもある! 民は成功しておるのだ! さあ! 酒を進めてくれ!」
おお! と声が上がり、皆が盃を傾ける。
国王がマサヒデを見て口の片端を上げてにやっと笑い、ぐっと盃を空けた。




