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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
晩餐会

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第31話


 マサヒデとラディが海を見ていると、誰かが港の入口の方から近付いてきた。


(おや)


 明らかな殺気が向けられた。これはまずい。


「ラディさん、中に」


 マサヒデが返事も聞かず、ラディの手を引っ掴んで駆け出す。よたっと前にのめったラディを、転ばないようにぐっと引っ張り上げ、


「あ、あ」


「走って!」


「はい!」


 ばたばたと2人が走って貨物室の中に入って行く。奥の階段から、カオルが駆け下りてくる。カオルがラディを見て貨物の大きな箱の裏を指差し、


「箱の後ろに!」


「はい!」


 ラディが奥に走って箱の後ろに隠れ、カオルがマサヒデの隣に立つ。笠を被った3人の男がずかずかと貨物室に入って来たので、船員が慌てて駆け寄り、


「何をしている! 勝手に」


 左の男がすらりと剣を抜き、船員の喉元に突き付けた。


「はっ・・・」


 言葉を詰まらせ、船員が仰け反る。

 これは勇者祭の者ではない。下手を打てばあの船員が斬られる。迂闊に動けない。

 先頭の男が少し笠を上げ、


「マサヒデ=トミヤスか」


「そうだと言ったら」


「斬る」


「違うと言ったら」


「見られた以上は斬らねばならん」


 ふ、とマサヒデが鼻で笑って、


「どっちにしても斬るんですか」


「・・・」


 木刀を取りに行く余裕などない。船内に入れたら何人斬られるか分からない。

 警備兵が気付いて駆け込んできたら、あの船員が斬られる。

 急いでここで仕留めなければ!


(ご主人様)


(船員さん)


(は)


 とは言ったものの、マサヒデからもカオルからも、船員に剣を突き付けた者への間合いが少し遠い。剣先はぴたりと顎の下。あれでは手裏剣を抜く前に突き殺される。


 マサヒデがカオルの前に手を出した。


「カオルさんは下がって下さい」


 そう言って、ちら、とカオルの懐に目をやる。

 マサヒデが腕を伸ばしたので、紋服の広い袖が垂れて、カオルの首辺りから下が隠れる。


「しかし!」


 言いながら、カオルが懐からそっと棒手裏剣を抜き、目で頷いた。


「下がるんです」


「・・・分かりました」


 カオルが頭を下げながら一歩引いた。頭を下げて引いたので完全に隠れた。


(し)


 小さくカオルが合図した瞬間、マサヒデが跳び込んで先頭の男の水月に刀の柄頭を思い切り打ち込んだ。目の隅に左の男の手に棒手裏剣が刺さったのが見えた。

 右の男に踏み込み、腕を押さえる。剣が半分抜かれた所で止まった。


「ち!」


 舌打ちして下がろうとした男の足を踏みつける。

 動きを止められ、う! と男が目を見開き、少し仰け反った。

 鞘ごと抜いた脇差で、顎の付け根と首の隙間の筋を切り上げるように強く打つ。男は一瞬喪失し、かくっと膝を落とした。あっと顔を上げた所に、顎に思い切り踵を入れる。

 ばたん! と大きな音を立てて男が後ろに転がった。倒れた音が貨物室に響く。


(よし)


 横を見ると、水月に思い切り打ち込んだ男は、正座して手の甲を付いて首を垂らしている。これは完全に喪失している。

 カオルは船員に剣を突き付けた男の後ろで首に鉄線を巻いている。鉄線からは血が垂れていて、今にも首が切られそうだ。


 マサヒデは鞘ごと抜いた脇差を持ったまま男の前に歩いて行き、足元に落ちている剣を軽く蹴って離した。


「あなた、誰です」


「・・・」


「巻かれている鉄線、分かりますよね」


 マサヒデが鉄線に沿って、つっと指で撫で、男の目の前に立てた。指先にはっきり血が着いている。


「もう一度聞きます。あなた、誰です」


「・・・」


 男は歯を食いしばったまま。口を割るようには全く見えない。

 マサヒデは懐紙を出して指に着いた血を拭き、


「そうですか」


 ごす! と音が響き、脇差のこじりがめり込んだ。同時に、すっとカオルが鉄線を首から離す。ばたりと男は倒れた。

 マサヒデは尻もちをついた船員の方を向いて、


「大丈夫ですか? 怪我は」


 は! と船員が顔を上げ、慌てて立ち上がった。


「いや! 大丈夫、大丈夫です! ありがとうございました!」


「すみませんでした。これは私が悪かった。船にこんな輩を呼び込んでしまって」


 ふう、と船員が息をつき、


「これが勇者祭の相手ですか・・・先日のレストランの話も聞きましたが」


 マサヒデが険しい目で小さく首を振り、


「いや。違います。勇者祭なら、一般人に手を掛けたら失格、即牢屋行きですよ。こいつ、私達の後にあなたも殺そうとしてました。見られた以上は斬る、ってそういう事です。目撃者は残さないって。あれ、どう見ても脅しじゃなかったですよ」


「なんてこった・・・」


 後ろの喪失している3人を見る。


「何者でしょうかね」


「すぐ警備兵を呼びます」


「いや、ちょっと待って下さい」


「は」


「こいつらがなぜ私を殺しに来たのか、誰に雇われたかが知りたい。この船にも最初から無理矢理乗り込んでくるつもりだったんでしょう。警備兵に渡すのは後です。仲間がいるかもしれませんから、口を割らせた方が良い。ロープ持ってきて下さい」


「分かりました」


 船員が走っていく。

 カオルが男達の持ち物をぱぱぱ、と調べていく。

 マサヒデが貨物室の奥の方を向き、


「ラディさーん! もう平気でーす!」


 声を上げると、恐る恐るといった感じでラディが箱の裏から顔を出した。


「む」


 カオルが小さく声を上げ、マサヒデがカオルの方を向いた。

 着込みの下から、首飾りが出てくる。紋章・・・どこぞの貴族か?


「ロープです!」


 船員が走って来た。


「ありがとうございます。カオルさんに」


「はい!」


 船員がカオルにロープを渡すと、カオルがくるくると手足を縛る。

 口にも噛ませて、頭の後ろできゅっと縛ると、奥から別の船員が走ってきた。


「何の騒ぎだ!」


 走って来て、マサヒデ達の側に立つ。これは船員ではない。クレールの護衛の忍の変装だ。


「こいつらは」


「誰か分かりませんが、私を殺しに来ました」


 マサヒデが横の殺されそうになった船員を見て、


「こちらもあわやという所で。目撃者諸共のつもりだったようです」


「何ですって!?」


「勇者祭の者ではないです。口を割らせたいですが、今は時間がない。城に呼ばれてますからね・・・もうすぐ出発ですから・・・」


 マサヒデは顔をしかめて貨物室を見回し、


「皆に心配をかけたくありません。急いで空いた箱にでも放り込みましょう。私達が出たら・・・1人づつ、間を開けて、どこかに縛り付けておいてもらえますか。しばらく目は覚まさないと思いますから」


「分かりました! 空いてる箱はどれだ!?」


「私についてきて下さい!」


 船員が男を担ぎ上げる。

 マサヒデと忍も気を失った男を1人ずつ担ぎ上げて、船員についていき、箱に入れる。血が着いた懐紙も丸めて放り込む。

 少し遅れて、カオルが小走りに走って来た。手に持った麻袋から、剣が見えている。この男達の持ち物だろう。カオルが箱の奥に隠すように置いた。

 船員がばたんと蓋を閉め、


「ふう、とんでもない奴らですね。目撃者諸共、皆殺しのつもりだったとは」


 船員に扮した忍が頷いて、


「トミヤス様、お留守の間は私に任せて下さい。目を離さず見張ります」


「ありがとうございます。逃げると見えたら、躊躇わず斬りなさい。正当防衛には十分ですから平気です。もし船内に入ると被害が出るかも・・・あ、そうだ」


 マサヒデは船員を見て、


「船長に断って、サムさんを呼んで一緒に見てて下さい。あの人、元軍人ですから、こういうのの扱いは知ってるはずです」


「分かりました」


 船員は落ち着いたのか、歩いて階段に向かっていく。


「さすが、落ち着いてますね」


「船内では走るのは禁止ですから。先程は慌てて走ってしまいましたが・・・マサヒデ様、大変申し訳ございませんでした」


 忍が頭を下げる。


「いえ、今は皆が準備でばたばたしていますからね。あなた達もこの広い船内で回っているんですから、仕方ないですよ。警備隊や港の周りにも人を回してるでしょう」


「はい」


「いくらあなた達が超一流とはいえ、さすがに人手不足ですよ。仕方がないです」


「仕方がないでは済まされない失態でした。死人を出す所でしたから・・・マサヒデ様、助かりました」


「なんて事ないです。武術家として旅に出た以上、こうなるって覚悟はとっくにしてましたからね。今までが平和すぎ」


 かん、かん、かん、と誰かが階段を下りて来た。


「む・・・では、頼みます」


「は」


 後ろを向くと、ラディが拳銃を握って縮こまっている。


「ラディさん。もう平気ですから、それしまって下さい」


「あ、あ、ははい」


 ラディが安全装置をかけて、ごそごそっと懐に拳銃をしまい、きょろきょろと周りを見る。マサヒデはラディの肩に手を置き、口に指を当て、


「ラディさん。皆さんには話さないで下さいね。帰ってからです」


「はい」


 階段の方を見ると、アルマダがにこにこしながら騎士達と下りて来た。

 騎士達も今日は鎧ではなくスーツだ。

 マサヒデが笑顔で手を挙げると、アルマダも手を振った。


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