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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第三章 晩餐会

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第29話


 シルバー・プリンセス号、訓練場。


 明後日の晩餐会に向けて打ち合わせ。

 皆が持って行く得物だが、大きな物は無理ということで、ここは収まった。

 次は一番の問題。忍。


「カオルさん」


「は」


「あなた・・・何を持って行きます? いや、持って行っても良いですけど、バレずに済ませられます?」


 は? とカオルが首を傾げて、


「大丈夫かと思いますが。イザベル様。私から不審な臭いなど致しましょうか?」


「え・・・」


 すんすん、とイザベルが鼻を鳴らす。何も臭わないが・・・


「いえ。特に何も臭いませぬが」


 カオルが立ち上がって、手を左右に広げ、


「さ、イザベル様。私から不審な物をお探し下さい。魔王軍仕込みのボディチェックを念入りに頼みます」


「はあ」


 イザベルが立ち上がり、ぱんぱん、ぱんぱん、と服を叩いたり、身体を触ったり。帯の中に手を入れたり、襟の裏を調べたり、入念に足の方も調べていく。

 先程まで稽古をしていたし、今は何も持っていないのか?


「特に何も・・・」


「いいえ。この通り何かが」


 カオルが懐に手を入れて、いくつもの小袋、紙包み、小さな壺、鉄線、鎖分銅、撒菱・・・とぞろぞろ並べていく。他にも並べていき、最後にことりとミナミ新型拳銃を置き、


「おや、拳銃まで。イザベル様、これは危険では」


「・・・」


 皆が驚きを通り越して呆れた顔で並べられた武器、道具を見る。こんなにたくさんの物を、一体どこに入れているのだ・・・?

 クレールが小さく手を挙げて、


「あの、質問なんですけど」


「隠し方は機密です」


「いえ、そうではなくて、そんなに持ってて重くないですか?」


 ん? とカオルが首を傾げる。


「そう重くもないです。着込みも奥方様に軽くして頂き、持てる量が増えました」


 カオルがちゃりっと鎖分銅と拳銃を取り、


「まあ、重いのはこのふたつと、変装ですね」


「変装? 今も誰かに変装出来ますか?」


「勿論です」


 ばさりと服を上に投げるとメイド姿。

 ぱっと投げた服を受け取り、メイド服が上に投げられるとマサヒデ。

 また内弟子姿に戻り、くるっと手に取った服を丸めて懐に入れる。


「この通り、いつでもご主人様の影武者に。メイド服は王宮の物に合わせて仕立て直しておきました」


 目を丸くする皆を見て、マサヒデが苦笑する。

 カオルが置いた紙包みを取って、ひらひら、と軽く動かし、


「イザベル様、これは猛毒ですよ。人族なら指先でひとつまみの量で1分かからず死に至る・・・臭いませんか? いや、臭ってしまっては流石のイザベル様でも危険かも・・・ふふふ。試しに嗅いでみますか?」


 イザベルが顔の前で手を振る。


「いえ。それは遠慮致します」


 ふ、とマサヒデが笑い、


「イザベルさんの目をくぐり抜けられましたね。普通の騎士さんや兵隊さんなら大丈夫と分かりました。さて。では相手が同じ忍であっても、バレませんか?」


「む・・・」


「お城の中です。そういう方、居ると思いません? カオルさん、そういう物を持って行くつもりなら、先に養成所か情報省に連絡入れて、城中の忍の方に連絡してもらっておきなさい。あなたが毒なんか持って捕まると、私達全員が捕まりますよ」


「は」


 次にマサヒデはクレールの方を向いて、


「次はクレールさんです」


「わ、私は毒なんて持ってませんよ!?」


「違いますよ。一緒に来ている忍の皆さんです。私は城の警備がどのくらいか知りませんが、入れないことはないと思います。でも、もし見つかったら厄介な事になりませんか? 会場には陛下も来るんですから、凄腕の方が必ずどこかに居ますよ」


 はて? とクレールは首を傾げて、


「外で待たせておけば良いだけですよ。この国の城内は安全でしょうし」


 んん? とマサヒデが怪訝な顔をする。


「一緒に居なくても良いんですか?」


「ええ。安全だって分かってますから。別に、お城から何か盗みたいとか、情報を探りにというわけでもないですし」


 そこで、あ、とマサヒデが気付いた。

 そうだ。クレールは魔の国で3本の指に入る大貴族の出。

 どこに言っても国賓待遇が普通。

 城でのパーティーなど慣れたものではないか・・・


「余計な心配でした。お城なんて、クレールさんには慣れたものですか」


「まあ、慣れるという程でもないですけど・・・でも、この国の国王陛下にはよくしてもらっておりますし、ご挨拶には良い機会です。賢いお方と聞いておりますから、楽しみですね!」


「じゃ、忍の皆さんも大丈夫ですか」


 ふう、とマサヒデが息をつき、天井を見上げ、


「どんな人が来るでしょうか・・・私から見たら、天上人ばかりなんでしょうね」


 カオルが首を傾げて少し考え、


「陛下が参られますし、全員ではないでしょうが、ご家族も参られるかと。此度は私的なパーティーになります。各省庁の大臣など列席、というような場にはならないでしょうが、クレール様がおられますから、外務省、農水省。イザベル様がおられますから、防衛省か陸海軍の将官。これらは来られるかもしれません」


 アルマダが腕を組み、


「いやあ、外務省は必ず来ると思いますよ。というか、大規模なものになるんじゃないですか? 貴族がわんさか。マサヒデさんの今の立場、魔王様の義理の息子なんですよ。奥方は魔王の娘なんですから・・・それを知っている人は一部でしょうが、その一部はほぼ全員来るでしょう」


 マサヒデがうんざりした顔で、


「うへえ! 勘弁してほしいですね・・・」


 アルマダが渋い顔で首を振る。


「失敗しましたね。オカ様にざっと何人で、誰が来るかって聞いておくべきでした。使い、急いで出しますか? 相手を知っておくに越したことはない」


 む、とクレールが頷いて、


「そうですね。そうしましょう」


 ぱん! と手を叩くと、訓練場の隅で腕立てをしていた船員が歩いて来た。クレール配下の忍の変装だ。クレールの横に座り、


「御用は」


「手紙を書きます。封筒、手紙、ペンとインク。最上級の物を」


「は」


 船員姿の忍が早足で訓練場を出て行く。


「マサヒデ様」


「ん、何でしょう?」


「王宮の印を持ってきて下さい。私達が触って良い物ではありませんから」


「ああ。はい。すぐ持ってきます」


 マサヒデも立ち上がって訓練場を出て行った。アルマダは出て行くマサヒデの背中を見送り、


「表向き、陛下はマサヒデさんのファンで、クレール様やイザベル様も一緒にいるし、みたいな感じになるでしょうね。参加者は皆マサヒデさんのファンで会いたかったんです、みたいに報道されるでしょう。まさか魔王様の義理の息子だ、なんて口が裂けても言えない」


 クレールが額に手を置いて首を振り、


「はあ・・・報道ですか。頭が痛いです」


「王宮内、政治家貴族達からも大人気。マサヒデさん、明後日の晩餐会で首都中に知られますよ。国外にも・・・読売の一面は国王陛下、マサヒデ=トミヤスと晩餐会。会見にご満悦。こんな感じでしょうね」


「・・・」


「有名税ですよ。クレール様、あなたもこの税金を重くしてるんです」


「ハワード様もですよね」


「ま、そうですが。私は最後までマサヒデさんと一緒に行くって決めてますからね。マサヒデさんが税金が重くて嫌だと言ってもついていきます」


「ご友人だからですか?」


 アルマダがにやりと笑った。


「それもありますがね。私は確信してるんですよ」


「何を?」


「マサヒデさんは剣聖になります。絶対。300人組手をやっていた時、見てて確信しました」


 アルマダがカオルを見て、


「あなたとの試合の時です」


「あの立ち会い」


 思い出して、カオルの背が少し冷たくなった。


 完全な死角から無音で跳んで切り下ろしたが、互いの剣が交差したと思った瞬間、カオルの小太刀はマサヒデの後ろに滑って行き、着地した時には鼻先にマサヒデの木刀の切先がつけられていた。


「別に称号授与の式典に列席したいってわけではないですが・・・何と言いましょうかね。あ、今剣聖になったな、という瞬間に立ち会いたいんですよ。だから、この勇者祭の旅が終わって、道場に戻る事になっても、私はマサヒデさんにくっついて行きます。カゲミツ様も剣聖になったのはまだ20を超えてすぐですから・・・遠くはないと思います」


 むん! とクレールが拳を握る。


「親子揃って剣聖! 凄いですね!」


「ええ。凄いです」


 トモヤがふん、と鼻を鳴らし、


「マサヒデが剣聖のう。ワシには剣術は分からんが、ちとカゲミツ様とは差がありすぎんか? 5年、10年とかかりそうじゃが」


「10年でもまだ26です。その頃にはなりますよ。剣聖としては破格の若さです。剣聖同士だって、強い弱いはあるんです。10年。カゲミツ様に届かなくても、剣聖の称号にはとっくに届いてるはずです」


「ほうかのう」


「そうです」


 トモヤにはぴんとこない感じだが、アルマダはとっくの昔に確信している。

 マサヒデは剣聖になる。称号をもらわずとも、十分な腕になっている。

 きっと、カゲミツも超える。

 だが、自分も・・・ぐ、とアルマダが拳を握った。


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