第29話
シルバー・プリンセス号、訓練場。
明後日の晩餐会に向けて打ち合わせ。
皆が持って行く得物だが、大きな物は無理ということで、ここは収まった。
次は一番の問題。忍。
「カオルさん」
「は」
「あなた・・・何を持って行きます? いや、持って行っても良いですけど、バレずに済ませられます?」
は? とカオルが首を傾げて、
「大丈夫かと思いますが。イザベル様。私から不審な臭いなど致しましょうか?」
「え・・・」
すんすん、とイザベルが鼻を鳴らす。何も臭わないが・・・
「いえ。特に何も臭いませぬが」
カオルが立ち上がって、手を左右に広げ、
「さ、イザベル様。私から不審な物をお探し下さい。魔王軍仕込みのボディチェックを念入りに頼みます」
「はあ」
イザベルが立ち上がり、ぱんぱん、ぱんぱん、と服を叩いたり、身体を触ったり。帯の中に手を入れたり、襟の裏を調べたり、入念に足の方も調べていく。
先程まで稽古をしていたし、今は何も持っていないのか?
「特に何も・・・」
「いいえ。この通り何かが」
カオルが懐に手を入れて、いくつもの小袋、紙包み、小さな壺、鉄線、鎖分銅、撒菱・・・とぞろぞろ並べていく。他にも並べていき、最後にことりとミナミ新型拳銃を置き、
「おや、拳銃まで。イザベル様、これは危険では」
「・・・」
皆が驚きを通り越して呆れた顔で並べられた武器、道具を見る。こんなにたくさんの物を、一体どこに入れているのだ・・・?
クレールが小さく手を挙げて、
「あの、質問なんですけど」
「隠し方は機密です」
「いえ、そうではなくて、そんなに持ってて重くないですか?」
ん? とカオルが首を傾げる。
「そう重くもないです。着込みも奥方様に軽くして頂き、持てる量が増えました」
カオルがちゃりっと鎖分銅と拳銃を取り、
「まあ、重いのはこのふたつと、変装ですね」
「変装? 今も誰かに変装出来ますか?」
「勿論です」
ばさりと服を上に投げるとメイド姿。
ぱっと投げた服を受け取り、メイド服が上に投げられるとマサヒデ。
また内弟子姿に戻り、くるっと手に取った服を丸めて懐に入れる。
「この通り、いつでもご主人様の影武者に。メイド服は王宮の物に合わせて仕立て直しておきました」
目を丸くする皆を見て、マサヒデが苦笑する。
カオルが置いた紙包みを取って、ひらひら、と軽く動かし、
「イザベル様、これは猛毒ですよ。人族なら指先でひとつまみの量で1分かからず死に至る・・・臭いませんか? いや、臭ってしまっては流石のイザベル様でも危険かも・・・ふふふ。試しに嗅いでみますか?」
イザベルが顔の前で手を振る。
「いえ。それは遠慮致します」
ふ、とマサヒデが笑い、
「イザベルさんの目をくぐり抜けられましたね。普通の騎士さんや兵隊さんなら大丈夫と分かりました。さて。では相手が同じ忍であっても、バレませんか?」
「む・・・」
「お城の中です。そういう方、居ると思いません? カオルさん、そういう物を持って行くつもりなら、先に養成所か情報省に連絡入れて、城中の忍の方に連絡してもらっておきなさい。あなたが毒なんか持って捕まると、私達全員が捕まりますよ」
「は」
次にマサヒデはクレールの方を向いて、
「次はクレールさんです」
「わ、私は毒なんて持ってませんよ!?」
「違いますよ。一緒に来ている忍の皆さんです。私は城の警備がどのくらいか知りませんが、入れないことはないと思います。でも、もし見つかったら厄介な事になりませんか? 会場には陛下も来るんですから、凄腕の方が必ずどこかに居ますよ」
はて? とクレールは首を傾げて、
「外で待たせておけば良いだけですよ。この国の城内は安全でしょうし」
んん? とマサヒデが怪訝な顔をする。
「一緒に居なくても良いんですか?」
「ええ。安全だって分かってますから。別に、お城から何か盗みたいとか、情報を探りにというわけでもないですし」
そこで、あ、とマサヒデが気付いた。
そうだ。クレールは魔の国で3本の指に入る大貴族の出。
どこに言っても国賓待遇が普通。
城でのパーティーなど慣れたものではないか・・・
「余計な心配でした。お城なんて、クレールさんには慣れたものですか」
「まあ、慣れるという程でもないですけど・・・でも、この国の国王陛下にはよくしてもらっておりますし、ご挨拶には良い機会です。賢いお方と聞いておりますから、楽しみですね!」
「じゃ、忍の皆さんも大丈夫ですか」
ふう、とマサヒデが息をつき、天井を見上げ、
「どんな人が来るでしょうか・・・私から見たら、天上人ばかりなんでしょうね」
カオルが首を傾げて少し考え、
「陛下が参られますし、全員ではないでしょうが、ご家族も参られるかと。此度は私的なパーティーになります。各省庁の大臣など列席、というような場にはならないでしょうが、クレール様がおられますから、外務省、農水省。イザベル様がおられますから、防衛省か陸海軍の将官。これらは来られるかもしれません」
アルマダが腕を組み、
「いやあ、外務省は必ず来ると思いますよ。というか、大規模なものになるんじゃないですか? 貴族がわんさか。マサヒデさんの今の立場、魔王様の義理の息子なんですよ。奥方は魔王の娘なんですから・・・それを知っている人は一部でしょうが、その一部はほぼ全員来るでしょう」
マサヒデがうんざりした顔で、
「うへえ! 勘弁してほしいですね・・・」
アルマダが渋い顔で首を振る。
「失敗しましたね。オカ様にざっと何人で、誰が来るかって聞いておくべきでした。使い、急いで出しますか? 相手を知っておくに越したことはない」
む、とクレールが頷いて、
「そうですね。そうしましょう」
ぱん! と手を叩くと、訓練場の隅で腕立てをしていた船員が歩いて来た。クレール配下の忍の変装だ。クレールの横に座り、
「御用は」
「手紙を書きます。封筒、手紙、ペンとインク。最上級の物を」
「は」
船員姿の忍が早足で訓練場を出て行く。
「マサヒデ様」
「ん、何でしょう?」
「王宮の印を持ってきて下さい。私達が触って良い物ではありませんから」
「ああ。はい。すぐ持ってきます」
マサヒデも立ち上がって訓練場を出て行った。アルマダは出て行くマサヒデの背中を見送り、
「表向き、陛下はマサヒデさんのファンで、クレール様やイザベル様も一緒にいるし、みたいな感じになるでしょうね。参加者は皆マサヒデさんのファンで会いたかったんです、みたいに報道されるでしょう。まさか魔王様の義理の息子だ、なんて口が裂けても言えない」
クレールが額に手を置いて首を振り、
「はあ・・・報道ですか。頭が痛いです」
「王宮内、政治家貴族達からも大人気。マサヒデさん、明後日の晩餐会で首都中に知られますよ。国外にも・・・読売の一面は国王陛下、マサヒデ=トミヤスと晩餐会。会見にご満悦。こんな感じでしょうね」
「・・・」
「有名税ですよ。クレール様、あなたもこの税金を重くしてるんです」
「ハワード様もですよね」
「ま、そうですが。私は最後までマサヒデさんと一緒に行くって決めてますからね。マサヒデさんが税金が重くて嫌だと言ってもついていきます」
「ご友人だからですか?」
アルマダがにやりと笑った。
「それもありますがね。私は確信してるんですよ」
「何を?」
「マサヒデさんは剣聖になります。絶対。300人組手をやっていた時、見てて確信しました」
アルマダがカオルを見て、
「あなたとの試合の時です」
「あの立ち会い」
思い出して、カオルの背が少し冷たくなった。
完全な死角から無音で跳んで切り下ろしたが、互いの剣が交差したと思った瞬間、カオルの小太刀はマサヒデの後ろに滑って行き、着地した時には鼻先にマサヒデの木刀の切先がつけられていた。
「別に称号授与の式典に列席したいってわけではないですが・・・何と言いましょうかね。あ、今剣聖になったな、という瞬間に立ち会いたいんですよ。だから、この勇者祭の旅が終わって、道場に戻る事になっても、私はマサヒデさんにくっついて行きます。カゲミツ様も剣聖になったのはまだ20を超えてすぐですから・・・遠くはないと思います」
むん! とクレールが拳を握る。
「親子揃って剣聖! 凄いですね!」
「ええ。凄いです」
トモヤがふん、と鼻を鳴らし、
「マサヒデが剣聖のう。ワシには剣術は分からんが、ちとカゲミツ様とは差がありすぎんか? 5年、10年とかかりそうじゃが」
「10年でもまだ26です。その頃にはなりますよ。剣聖としては破格の若さです。剣聖同士だって、強い弱いはあるんです。10年。カゲミツ様に届かなくても、剣聖の称号にはとっくに届いてるはずです」
「ほうかのう」
「そうです」
トモヤにはぴんとこない感じだが、アルマダはとっくの昔に確信している。
マサヒデは剣聖になる。称号をもらわずとも、十分な腕になっている。
きっと、カゲミツも超える。
だが、自分も・・・ぐ、とアルマダが拳を握った。




