第28話
シルバー・プリンセス号。
国王からの使いが帰り、マサヒデ達がタラップを上がる。訓練場には遠回りになるが、船の中の廊下まで歩いて・・・
「ご主人様」
ぎく! として、ばっとイザベルが振り向く。いつの間にか最後尾のイザベルの後ろにカオルがいた。
「カオル殿!? いつの間に!?」
「はて、ずっとおりましたが・・・ふふふ。イザベル様にも全く気取られぬとは。忍の術も腕が鈍っておらず、安心しました」
「御冗談はおやめ下さい。ずっとおられたのですか」
「はい」
マサヒデが歩きながら振り向き、
「カオルさん、あのオカさんて人、知ってます?」
「はい」
「役職とかでなく、人物的にどういう方でしょう」
カオルは少し考え、
「一言で言えば知恵者です。一を聞いて十を知る。忍耐強く、仕事に忠実で何事にも何者にも常に公平」
「へえ。良い人そうですね。皆から尊敬されてるんでしょうね」
「いえ。敵は少なからずおります。むしろ多いです。現国王が王位について・・・丁度1年程でしょうか。暗殺未遂がありました」
「え!?」
「王宮内にはいくつか派閥があります。頭が回り、王の側近、常に公平。各派閥から見れば、そのような人物は邪魔です。どの派閥も自分達の意見を優遇する者を王の側近に置きたい。しかしオカ殿は公平。そして味方に引き入れる事も出来ない・・・というわけで、どの派閥からも」
やれやれ、とアルマダが両手を軽く挙げ、
「これだから政治って嫌ですよね。うちは政治に関わってなくて良かった」
「ふふ。あのオカ殿も、最初は仕事に不満があったそうです」
「派閥の相手が面倒とか?」
「いえ。陛下の頭が回るので、自分が意見を述べられない。本当に名前通りの取次役でしかない、と愚痴をこぼしたそうで」
「ははは!」
「ですが、これは自分から主として意見を述べんとする姿勢から生まれた不満であった。そこで補佐に徹しようと姿勢を改めた時、王から意見を求められるようになり、自然と自分から意見も述べられるようになり、仕事が出来るようになった。自分は分をわきまえていなかった、と。そして今に至ります」
ほう、とアルマダが関心した声を上げ、
「なるほど。しっかり自分を見て自分で改められる方。お偉方には珍しい」
ふ、とカオルも皮肉に笑って、
「はい。それゆえ敵も多い。世には自分を見られない方が多いですから」
「ははは!」
「重要書類なども扱う仕事柄、家族や友人ともほとんど会わず、孤独に過ごしておられます。暗殺未遂の後は常に護衛が付くようになりましたが、彼らともほとんど口をきくこともないそうです」
先程の綺羅びやかな鎧の騎士2人。あれが護衛か。
常に一緒にいる彼らとも口をきかない、真面目だが孤独な側近のトップ。
「普段から喋るのは陛下とだけですか」
アルマダが頷き、
「でしょうね。でも、オカ様は最後に言ってましたよね。何かあれば自分に連絡しろ、出来る限り対応しようって」
「ええ。ありがたい事です」
「マサヒデさんは気に入られたようですね。きっと、役人でも貴族でもないからでしょう」
「そうですかね?」
くす、とクレールが笑って、
「いつも陛下のお側におられる方ですよ。マサヒデ様のお手紙も読んでらっしゃるのでは? それでお気に入りになりました! ですよ」
「ええっ・・・それはちょっと、恥ずかしいというか・・・ううむ」
「お手紙って、どこまで書いてお送りしたんですか?」
マサヒデがちらっと後ろを向いて、
「イザベルさんが来た所までは送ってありますよ。いざ勝負! 勝てば大名誉! 負けたら弟子入り! 得しかない! ははは!」
う、とイザベルが気まずい顔で下を向く。マサヒデがにやにやして、
「いきなり手を握られて骨を砕かれたとか」
「・・・」
「シズクさんと蒸し風呂勝負で倒れたとか」
「・・・」
くす、とクレールが笑って、
「マサヒデ様、その辺にしてあげて下さい」
「ははは! もう陛下もご存知なんですよ。イザベルさん、晩餐会では覚悟しておきなさい」
「は・・・」
「クレールさんもですよ」
クレールが驚いて声を上げる。
「ええっ!? 私は恥ずかしい事などありませんよ!?」
「三浦酒天の味が美味しくて何故か怒って店に乗り込んだとか」
「うっ!」
「虎徹で店の酒を全部飲み干して、シズクさんと肩車してぐるぐる回ってたとか」
「ううっ!?」
「死霊術で虫を使うくせに、魚釣りの餌の虫を見て泣いてしまったとか」
「ぷっ」
後ろでカオルが小さく笑った。
「カオルさん! あなた、マサヒデ様に話したのですか!?」
「は? 何をですか?」
カオルが能面のような表情でとぼける。
「とぼけても無駄ですよ! 知っているのはカオルさんとラディさんだけです!」
「今、ハワード様とイザベル様が増えましたが」
「ぬににぬぬ・・・」
くす。
「イザベルさん!?」
「は!」
「今、笑いましたね!?」
はて? とイザベルが怪訝な顔を作る。
「何をですか? 私は何も聞いておりません。存じません」
「ハワード様ですか!?」
アルマダがにやにや笑いながら振り返り、
「何ですか? すみません、お話がよく聞こえなくて・・・教えて下さい。何を笑うのでしょう?」
「くきぇーっ!」
ぶんぶんとクレールが腕を振る。マサヒデが笑って、
「ははは! そんな事してると、陛下へのお手紙に書いてしまいますよ! 怒って子供みたいに暴れたとか」
「ぐっ・・・」
「さてと。カオルさん、騎士の皆さんも訓練場に呼んできて下さい」
「は」
カオルはくるりと振り返り、廊下の向こうに去って行った。
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シルバー・プリンセス号、訓練場。
皆が集まって、車座に座る。マサヒデが「えふん」と小さく咳払いして、
「ええとですね。明後日、お城に行きますよ。全員」
「はあ!?」
シズクが驚いて声を上げた。
「陛下から晩餐会のお誘いです。パーティーですよ。断っても良いと仰られたそうですが、当然、断ることは出来ません。陛下からのお招きですからね」
「まじで!?」
アルマダの騎士達も目を丸くしている。
「分かっていたでしょう。首都に着いたら、陛下からお呼びが掛かるって。門番さんに言われたじゃないですか。着いたらすぐ陛下に連絡しろって・・・呼ぶぞって事ですよ」
「分かってたけど、マサちゃんとクレール様とかじゃないの? 私達も?」
マサヒデが頷いて、御側御用人のオカから預かった箱を開ける。封筒の束を出し、
「そうです。全員です」
「まじかよ」
マサヒデが全員の前に1枚1枚差し出していく。
「あっ」
トモヤに封筒を差し出して、マサヒデが固まった。トモヤは服がないのでは!? 貸服!? 貸服で王宮に入れる服はあるのか!? は! と顔を上げて、トモヤを見つめる。マサヒデの顔を見て、これはただ事ではないと、トモヤもマサヒデを見る。
「ととトモヤ!?」
マサヒデの大声にトモヤが驚き、
「うお!? な、なんじゃ!?」
マサヒデがトモヤを指差し、
「お、お、お前! お前、正装などなかろうが!?」
「ああっ! そうじゃ! 羽織袴など持っておらんぞ!? どうする!?」
そうだ! カオルに作ってもらえば良い!
マサヒデの紋服もカオルがたった一晩で作ったのだ!
ぱ! とカオルの方を向き、
「カオルさん!」
カオルはマサヒデとトモヤを見て、口に手を当てて笑いを堪えていた。
「ご主人様。大丈夫です」
「作ってくれますか!」
「いえ。この船にある服をお借りすれば良いかと。合うものがなければお作りしましょう」
ぶ! とクレールが吹き出し、アルマダも笑い出した。
「ははははは! マサヒデさん、焦りましたね!」
「あーははは! マサヒデ様、トモヤ様、顔! 顔!」
皆がげらげら笑う中、マサヒデとトモヤは安堵の溜め息をついた。
「助かった!」
「まっこと、助かったの・・・」
ふう、とマサヒデが息をついて、
「皆さん、そろそろ笑いを納めて。真面目な話に戻りますよ」
皆の笑いが収まるまで待って、とんとん、と自分の封筒を指で軽く叩き、
「今回のパーティーでは、私達は帯剣、つまり武器の所持を許されます。この封筒の中には、武器を持って入っても良いという許可証が入っていますが・・・」
マサヒデがシズクを見て、
「シズクさんは駄目です」
「ええっ!? なんで!?」
「あなた、あのでかい鉄棒を持ってパーティーに行くんですか? 邪魔ですよ。誰かに当たったらどうするんです。下手したら死にますよ」
ぽん! とシズクが手を叩く。
「なるほど! 確かにそうだ!」
「というわけで、シズクさんは棒は持っていかない。石の袋だけです」
「はーい」
マサヒデがラディの方を向く。
「ラディさんも、長鉄砲は駄目です」
「はい」
「それと、いくら帯剣を許されても拳銃は駄目と言われるかもしれません。なので、私の予備の脇差。ヒロスケ。あれを貸します。いざ戦うとなってもあなたは使わないでしょうが、ま、格好付けですから」
「ありがとうございます」
マサヒデがラディの方を向く。
「イザベルさんも、あのでかい剣は駄目です」
「は!」
「アルマダさん、予備の剣、イザベルさんに貸してくれます?」
「ええ。勿論ですとも」




