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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第三章 晩餐会

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第27話


 シルバー・プリンセス号、訓練場。


 サムの指導の下、マサヒデは素手、カオルがナイフ、という形で立ち会いをしていると、訓練場のドアが開いた。

 船員が訓練場を見回して、マサヒデを認めると、早足で歩いて来てサムの横に並び、


「トミヤス様、稽古中失礼します」


 マサヒデとカオルが手を止めて船員を見る。


「何かありましたか」


 船員が頷き、


「使いです。王宮から」


 お!? とサムが驚き、あちゃあ、とマサヒデが頭に手を当てる。


「ううむ。もう来ましたか。いや来ると分かっていましたが。で、使いの方は」


「船の外でお待ちです」


 マサヒデがカオルを見ると、カオルが頷いた。つい昨日もこの船の中に闇討ちが侵入したばかり。念の為、ついて来てもらった方が良い。

 クレール、アルマダ、イザベルの貴族組にも来てもらった方が良いだろうか。


「カオルさん。クレールさん達も呼んだ方が良いと思いますか?」


「はい。クレール様、ハワード様は私が呼んできます。マサヒデ様は、イザベル様とまずお着替えを」


「そうですね」


 マサヒデは船員の方を向いて、稽古着の襟をぱたぱたして、


「見ての通り、稽古中で汗まみれの格好です。使いの方にはお待たせして大変申し訳ありませんが、急いで着替えて参りますとお伝え願えますか」


「はい!」


 ばたばたと船員が出て行った。

 マサヒデはシズクの練習に付き合って、ばてばてのイザベルの所に歩いて行き、


「シズクさん、イザベルさん。一旦中止」


「ええー」


「助かった・・・」


 イザベルの声を聞いて、ふ、と苦笑して、


「さあ、イザベルさん、立って。王宮から使いが来ましたよ」


「えっ!」「嘘っ!」


 イザベルとシズクが声を上げる。


「おそらくパーティーとか謁見とかの話です。あなたも公爵の人でしょう。行きますから、急いで着替えますよ」


 イザベルが慌てて立ち上がり、


「公爵ではなく辺境伯ですが」


「似たようなもんでしょう。さあ早く!」


「は!」



----------



 慌てて着替えて訓練場を出て、顔や首の汗を手拭いで拭きながら、イザベルと廊下を早足で歩いて行く。この船の外側の廊下は窓に面しているので、いつ狙撃されるか分かったものではないが、急ぎなので仕方がない。が・・・


「緊張しますね。この廊下、窓があるから鉄砲で撃たれるのが怖いですよ」


「そちらの緊張ですか。流石です。陛下の使いにお会いになられる方は」


「そっちの緊張を、撃たれるかもって緊張で誤魔化しているんです」


 マサヒデには撃たれる緊張よりも、王の使いに会うという緊張の方が勝る。

 先を見れば、タラップの入口でクレールとアルマダ、後ろにカオルが立っている。

 歩きながら手を突っ込んで胸も拭いて、手拭いを懐に入れる。


「マサヒデさん、襟を」


「む」


 ぎゅぎゅ、と襟を正して、ふ! と息を吐き、


「行きましょう」


 タラップに出ると、まばゆいばかりの甲冑を着た騎士2人と、これまた豪華な服を着た男が小さな箱を持って立っている。


(うっ!?)


 これは正装に着替えてきた方が良かっただろうか!?

 が、今更遅い。

 タラップを降り、男の前で頭を下げ、


「マサヒデ=トミヤスです。お待たせして大変申し訳ございませんでした。稽古中で急いで着替えてきましたので、このような服装である事を許して下さい」


 使いの男は頷いて、


「御側御用取次、ヘイシロウ=オカである。構わぬ。トミヤス殿は武人。常々休まず稽古しておるその姿勢、世の名ばかりの騎士共に見習わせてやりたいものよ。では、陛下よりのお言葉を伝える」


「は!」


 さささ、とマサヒデ達が膝を付く。


「明後日、酉の刻(18時)より王宮広間にて晩餐会を開催する。トミヤス殿一行、ハワード様一行をこの晩餐会に招待したいと仰せである。ただし、陛下においてはトミヤス殿と会うのを楽しみにはしておられるが、そなたらが勇者祭の参加者である事は重々承知である。先頃もこの船内、広場にても闇討ちにあったと聞いておる。そのような都合であれば断られるもやむなし、と仰られたが、如何する」


「参ります」


「結構。陛下も喜ぼう。尚、トミヤス殿の都合を承知の上で招待するので、此度の晩餐会では特別に帯刀、帯剣を許される」


「陛下のお心遣いに感謝致します」


「うむ。さすがに城内にまで忍び込んで闇討ちなどはないであろうが、ゆめゆめ油断せぬようにな。また登城の途中で失格となって恥を晒すような真似はせぬように」


「はい」


「よし。では帯剣許可証を預ける。これは晩餐会当日のみの許可証となる。トミヤス殿、なくすでないぞ」


「はい」


 使いがマサヒデに箱を差し出し、マサヒデが箱を受け取る。


「全員分あるか確認せよ。風で飛ばぬようにな」


「はい」


 箱を開くと封書が重なって入っている。一枚一枚めくっていくと、マサヒデの組、アルマダの組、トモヤ、イザベルの名が書かれている。


「中には招待状も入っておるので、各人しかと確認すること。不備があれば明後日の朝までに城に使いを送れ。以上。では、立ってよろしい」


「はい」


 マサヒデ達が立ち上がると、オカが皆の顔を見て、


「ここからは私からの質問である。皆、勇者祭の旅、戦の旅であり、お偉方への挨拶廻りではなかろう。王宮での晩餐会に相応しい服はお持ちであるか? なければこちらで用意するが」


 マサヒデがアルマダの方を向く。アルマダの組の騎士は鎧はあるが、服もあるだろうか? アルマダが小さく笑って、大丈夫、と頷いた。


「お申し出、感謝致します。皆、揃えております」


「む、左様か。まあ、レイシクラン家にハワード家とあれば、旅先、どこで招待を受けるか分からぬし、揃えておらぬ訳がないな。愚問であった。では、馬車はあるか? なければ私が送迎の馬車を手配するが」


「あ、馬車・・・」


 クレールの目の眩むような馬車は置いてきた。今あるのは、少々高い荷馬車だ。

 と、クレールが前に出て会釈して、


「お初にお目に掛かります。クレール=フォン=レイシクランです。レイシクランの馬車がこの船に載っておりますので、そちらを使いましょう」


「おお、貴方が。お初にお目に掛かります。御側御用取次のヘイシロウ=オカと申します。お目に掛かる事が出来て光栄です。レイシクラン様の馬車であれば十二分。無用なお気遣いでしたか」


「いいえ。お心遣い、心から感謝致します」


 と、クレールが下がった。

 オカが軽く会釈して、


「では、トミヤス殿。何か質問はあるか」


「はい。私の組のシズクという者は鬼族です。城に入ることは許されましょうか」


「勿論である。民には未だに鬼族は人族に仇なす者と見る者が多いが、城内でそのような愚か者はおらぬ・・・と言いたいが」


 オカが渋い顔で首を振り、


「やはりそう見る者もおる。中には魔族排斥派のような者もおるゆえ、レイシクラン様、ファッテンベルク様、シズク殿には不快な思いをさせるやもしれぬが・・・故に、御三方も此度は見合わせてもらっても構わぬ」


 オカがクレールを見て、


「クレール様、宜しいでしょうか」


「私は参ります。私はマサヒデ様の妻でございます」


 イザベルも頭を下げ、


「イザベル=エッセン=ファッテンベルクであります。私も参ります」


 はあ、とオカが溜め息をついて深く頭を下げ、


「誠に申し訳もございませぬ。今の世でも、まだ魔族への偏見が捨てられぬ者が城中にまでおる事を恥ずかしく思います」


「オカ様、頭をお上げ下さい。人の信じる所は人によって違います。考え方の違いはあって当然ですから」


「お優しいお言葉、感謝致します」


 オカが頭を上げ、もう一度皆の顔を見て、軽く頭を下げた。


「されば、私はこれにて。何かございましたら、私に使いをお送り下さい。私の力の及ぶ限り対応致しますゆえ」


 マサヒデが頭を下げて、皆も揃って頭を下げた。


「ありがとうございました」


 オカと後ろの騎士2人も頭を下げ、馬に乗って去って行った。

 使いの3人が港を出るまで見送って、マサヒデが「ふう!」と溜め息をつき、手拭いを出して額を拭う。後ろの皆に振り返り、不安げな顔で皆をきょろきょろ見て、


「私、大丈夫でした? 無礼な事、言ってませんでした?」


 ふ、とアルマダが笑って「ぱん」とマサヒデの腕を叩き、


「よく出来てましたよ。その調子で陛下の前でも頼みます」


 クレールもイザベルも笑顔を浮かべ、


「マサヒデ様は大丈夫です!」


「はい。マサヒデ様に間違いはございません」


「そうですかね。ところで、あのオカさん、御側御用取次って言ってましたけど、偉い人なんですか?」


 かくん、と皆が肩を落とす。

 アルマダが呆れて、


「マサヒデさん、王宮に招かれると分かっているなら、少しは予習しておいて下さい。御側御用取次はすごく偉い人です」


「どのくらい偉いんでしょう」


「王の側近の中でのトップです」


 ぎょ! とマサヒデが驚き、


「ええっ!? 御側御用取次って、8代王のじいやですよね。何か文句を聞いたりとか、お小言を言ったりとか、そんな感じの人ですよね?」


「相談役もしてますがね。一番大事な仕事内容、知ってます?」


「いえ・・・城を抜け出た王を探しに行くとか?」


 アルマダが呆れた顔で首を振り、


「各省庁から上がってくる意見や決済書などを王に、逆に、王からの命を各省庁へ、というのが御側御用取次の主な仕事ですよ。これ、どういう意味か分かります?」


 は? とマサヒデが首を傾げ、


「どういう意味かって・・・連絡役って事ですか? 今、使いにも来たし」


 はあ、とクレールもイザベルも肩を落とす。


「あのですね。御側御用取次の気分次第では、上がってきた意見や決済書類なんかを握りつぶしてしまって王に伝えない、なんて事も出来てしまうんですよ。それに相談役でもあって、この意見にはこうこう、と王に意見を述べる事もある。分かりますよね。あのオカさんの仕事次第で、この国の政治が大きく変わる事もありえるんです」


「え!?」


「そんな方がわざわざ来てくれたんですよ。陛下が貴方に会うのをどれだけ楽しみにしているか、分かりますよね」


「う、ううむ・・・はい・・・いや、いいえです。なぜそこまで」


 アルマダがひらっと手を振って、


「さ。そこは私は陛下でないので分かりません」


 クレールがにっこり笑って、


「きっと、マサヒデ様の日記のお手紙が面白いんですよ!」


 イザベルも頷き、


「ただの武術自慢でここまで歓待される事はありませぬ。おそらくそうでしょう。流石はマサヒデ様、文才も違います」


「ははは! 今度、それ私にも読ませて下さいよ。私がどう書いてあるか気になります。さあ、皆に招待状を渡しに行きましょう」


 アルマダが笑いながらタラップを上がっていった。

 クレールが続き、マサヒデもクレールの後について行く。

 後ろでイザベルが主のマサヒデの背を見て、誇らしげに髪をかき上げた。


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