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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第二章 森戸三傅流道場

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第21話


 森戸三傅流道場。


 フギがイザベルともう一度立ち会う、珍しい技が見られるから、と練習を始めた門弟達をまた下がらせた。門弟が壁際に並び、目を皿のようにしてイザベルを見つめている。


「宜しくお願いします!」

「宜しくお願いします」


 イザベルとフギが互いに礼。


 ツカジが「はじめ!」と合図をすると、ぶうん、ぶうん、とイザベルが剣を回し始めた。長い剣を回すので、凄い迫力だ。だが、ただ振り回しているように見える。綺麗に円を描いてはいるが・・・

 門弟達の何人かはあからさまに怪訝な顔で首を傾げたが、フギの顔は真剣なものになり、目が細くなった。


 ただ腕で振り回しているのではない。剣が回るたびに肩が「すいん、すいん」と柔らかく上下して、あれだけ振り回しているのに身体が崩れない。これは凄い技術ではないか。


 す、す、す、とイザベルが出てくる。

 次に回ってきた時に剣先が届く、と見た刹那、くるんと逆回転。


「おう!?」


 驚いてフギが下から上に回して流し、頭の上を木剣が通り過ぎていく。

 と、また木剣がくるりと逆に回って胴に帰ってきて、ぱっとフギが下がる。

 最初の大きな振りではなく、小さくS字を描くように、回りつつも回転の方向が変わって向かってくる。


 肩を右に左にと落として向きを変えているのだ。腕力で無理矢理に止めて反対に回しているのではないから、振りの方向が勢いをほぼ落とさずにくるくると変わる。


 また木剣が逆に帰ってきて、今度は足に。

 大きく足を上げ、木剣が通り過ぎた瞬間に「どん!」と足をついて前に飛び込む。


「む!?」


 小手に入りそうになって、イザベルが「ぱ!」と右手を離した。

 木剣の上を飛び受け身のようにフギが越えていき、浮いた片膝立ちのような形で着地すると同時に、イザベルが手を離して浮いた右腕の下、右脇の下に切先をつける。

 イザベルの左手が剣に引っ張られ、すうっと開いた。木剣は勢いに流されるまま切先が床を滑り、つつつ! と音を立てた。


「すごく良いじゃない!」


 フギが木刀を脇下につけたまま呟く。


「一本!」


 おお! と門弟達から声と拍手が上がった。

 先程、簡単にやられてしまったイザベルも、これで面目躍如というものだ。

 フギとイザベルが礼をして、


「ふう! これは凄い! 汗かいちゃった」


「は。マサヒデ様のお教えのお陰です」


「ん? ん?」


「ああ! この振りを教えてくれたのは教官ではなく、マサヒデ様です。教官からは格闘術のみで」


「ええ?」


「トミヤス流では初心者卒業の振りと。フギ様に汗をかかせる事が出来ましたし、私も何とか初心者卒業が出来たでしょうか」


「初心者卒業」


 フギがマサヒデ達の方を見ると、マサヒデとアルマダがにやっと笑った。



----------



「トミヤス流では回し斬りと言います。鹿神流で何と言うのかは知りません」


「ふむ」


 マサヒデが湯呑を置いて、肩に手を置き、


「剣術で大事な肩の抜き方」


「うんうん」


「それと体の軸ですかね。これがしっかり出来てないと斬れない。当たった所で止まりますし、振った時に身体も流される。甲冑相手を考えながらだと、どこを狙うかというのも考えないといけませんから、正確な振りが求められる。ですが、イザベルさんは力もあるし得物が得物だから、適当に回すだけで良い。甲冑ごといけます」


「で、回して、くるっと向きを変えながら、後ろや横も斬れると。相手の横を抜けちゃうようにすれば」


「そうです。そこは応用編になってきますが」


 フギが顎に手を当てて、


「まあ、実際の戦場だとそう簡単にいかないよねえ」


「はい。なので、得物を取っ替え引っ替えですね。盾相手だったら、上で回して盾を上に構えさせ、足を薙いでしまうとか」


 フギが目を瞑って頷き、


「ううん! いかにも介者剣術だねえ」


 マサヒデ、アルマダとフギの後ろでは、シズクとカオルが門弟達を転がしている。


「鹿神流は刀ですけど、私はあの使い方はやはり剣に合っていると思うんです。それもあって、イザベルさんに教えました」


「欠点もあるね」


「はい。これ、疲れます。長丁場は無理ですから、囲まれてどうしようもない、何とか逃げ道を、とかくらいの時。まあ、そこは狼族のイザベルさんなら問題ない。あのでかい剣で、ばっさばっさいけるでしょう」


「味方がいたら難しいよね」


「はい。味方が側にいると振りづらい。ぴったり背中と背中を合わせているような状態でないと、味方も斬ってしまいます。それに、槍とか長物を持ってたら、斬ったりぶつかったりしてしまうかも」


 フギがにやりと笑って、


「これ貰っちゃうけど良い?」


 マサヒデも笑顔を返し、


「勿論。私は構いません。こちらも頂きましたし。ただ、鹿神流の方に怒られても私は知らない、という事で願います。アルマダさんはどうです?」


 アルマダがにっこり頷いて、


「私も頂きましたとも」


 フギが頷き、


「何が学べた?」


「目の高さで切先を振るのは良いと思います。あれは剣でも使えて、振りに合わせて袈裟、左袈裟、唐竹、突きと変えられます。兜の隙間も縫える。マサヒデさんは?」


 マサヒデが頭の横に両手を持って来て、


「同じです。それと、横一文字からのあの溜めというか。こう、頭の横の所に。すぐ次の一撃に入れる感じですかね」


「うんうん」


 フギが頷いて、


「やっぱり、他派との交流って良いね。学べるから。うちは宗家になる時、必ず何かひとつ以上を加えないといけない。そうしてね、今の三傅流が出来た。居合もいくつか併伝したし、介者剣術から平服での剣術も入って来た」


 マサヒデとアルマダを見て、


「トミヤス流はどうなりそう? 今の教えを固く守っていく? それも悪くない」


 マサヒデは笑って、


「さあ。父上がどういうつもりか何ともですから。ですが、今が既に色々と混ざって雑多な感じですし、何でもかんでも混ぜちゃって良いと思いますよ」


 アルマダも笑顔で小さく首を振り、


「私にも分かりませんが、自由な感じになるのでは。トミヤス流の理念はひとつ。勝てば正義。ならば何でも入れてしまって良いと思います」


「楽しみだね。どっちが宗家になるのかな」


 マサヒデとアルマダが顔を見合わせる。二人共、肩を竦めた。


「ははは! じゃあ、オノダ一剣流の紹介状を書いてこよう。他はまとめて明日にでも送るから。宿はどこにとってる?」


「港の船です。レイシクランの紋章が入った白い客船です。行けばすぐ分かります」


「分かった。明日にでも誰かに届けさせるね。それと・・・うーん、港か」


「何か」


 フギが門の方を見て、


「どっちから来た? 職人区の方?」


「はい」


「じゃあ、あの道場の前の道を真っ直ぐ。この職人区の本通りと逆の方。そうすれば港湾区の広い道に出るから。今の時間から広場の方に行くと、丁度稽古の終わり時。車道流の変なのに絡まれるかもしれないよ。そこに闇討ちなんか混ざってきたら、面倒でしょ」


「ありがとうございます」


「じゃあ、ちょっと待っててね。門弟の皆さんと遊んでて下さい」



----------



 マサヒデ達が道場を出る時、フギがわざわざ見送りに出てきてくれた。


 皆の馬を見て、フギが口を開けて驚く。


「おおー・・・凄い馬だね・・・」


「運良く、野に居たのを捕まえられました」


「いや、それ凄い運だよ・・・ん、んっ」


 フギがにっこり笑って、


「それじゃあ、またいつでもいらっしゃい。次は別のを教えてあげるから」


「はい。必ず。本日はありがとうございました」


「ありがとうございました!」


 と、皆も頭を下げ、馬に乗り、馬車に乗り。

 ふわあ、とトモヤがあくびをして馬車から降りて来て、


「なあんじゃ、やっとこか。待たせるのう」


 し! とマサヒデが口を鳴らし、


「馬鹿者! トモヤ、頭を下げろ!」


「はあん?」


「三傅流宗家のフギ先生だ!」


 ぺちん! とトモヤが額を叩き、へこっと頭を下げて、


「いや、これは知らんで失礼しました! 道場主の方でござったか!」


「ははは! いやいや、お待たせして申し訳ありません。つい熱が入ってしまいまして」


「あっ」


 マサヒデが声を上げて、馬を降りてフギの前に行き、


「申し訳ありません。すっかり忘れていました」


「ん? 何だっけ?」


「コヒョウエ先生は、オリネオの町の近く、ヤセキ村から少し離れた所にいます」


「ああっ! そうだった! すっかり忘れてたよ」


 フギが苦笑い。


「川があって、堤があって、ええと、そこから・・・すみません、細かい場所は口で説明しにくいですけど、近くに御子息の道場があります。ヤセキ神社の近くに、アブソルート流、シュウサン道場という。そこで聞けば」


「シュウサン道場か・・・懐かしい名前だねえ。いやあ、あそこは厳しいけど凄腕揃いって有名だった。私もこてんぱんにのされちゃったもの。そうか。ご子息がおられるのか」


「先生には敵いませんが、ご子息のジロウさんも中々ですので」


「うんうん。ありがとう。暇を作って行ってみるよ」


 マサヒデが頭を下げ、


「それでは改めまして、本日はありがとうございました。しばらくこの首都におりますので、また必ず」


「はい。帰り道、気を付けて下さい」


 マサヒデを見送って、フギがにやりと笑い、肩に手を乗せてぐるぐる回す。

 実に鍛えがいのありそうな若者ではないか。

 自分の門弟も負けぬように鍛えねば。


「ふっふっふ」


 含み笑いをしながら、フギが中に入って行った。


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