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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第二章 森戸三傅流道場

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第20話


 森戸三傅流道場。


 宗家のフギがイザベルの方を向き、


「じゃあ、次が最後かな。ファッテンベルクさん」


「あ、ちょっと」


 マサヒデが手を出して止め、


「申し訳ありません。イザベルさんは弱いので、あまり・・・」


 イザベルがしょんぼりとうなだれる。

 え? とフギが不思議そうな顔をして、


「ファッテンベルクって言ったら、狼族ですよね? エッセンって言ったら、その中でもエリート中のエリートじゃないの? ばしばしに鍛えられたんじゃないの?」


「はい。でも弱いです。少し腕のある犬族に負ける程度なので、本当に稽古をつけてあげましょう、くらいでお願いします。確かに頑丈ですけど、先生の振りだとちょっと・・・事故があるといけませんので」


「ううん・・・そうなの? ちょっと信じられませんけど・・・ツカジ君。木剣、大剣持って来て。長いの」


「はい」


 ツカジもうなだれるイザベルをちらっと見て、奥に入って行き、長い木剣を持って来た。イザベルの横に置いてあるイザベルの剣を見る。背丈ほどの長さがある。これが振れるというだけで凄いと思うのだが・・・


「どうぞ」


「ありがたく」


 イザベルが差し出された木剣を片手で持って立ち上がった。ツカジも門弟達も驚いてイザベルを見る。木剣でも凄い重さがある。片手でひょいと持つなど、中々・・・

 マサヒデがイザベルを見て、


「イザベルさん。あの振り。抜いて、抜いて、握る。基本にして奥義ですよ」


「は!」


 つかつかとフギの前に歩いて行き、ぴしりと気を付け。


「イザベル=エッセン=ファッテンベルクであります! 宜しくお願い致します!」


「はい。ヒデノブ=フギです。宜しくお願いします」


 イザベルが「びし!」と90度に礼。

 フギも頭を下げる。


 す、とイザベルが長い木剣を正眼に構える。

 フギも正眼に構える。


「はじめ!」


 ツカジの声が掛かった。

 すっ。

 イザベルが振り上げる。柔らかく握っておいて、握り込む。握ると剣先が上がる。上がった所で振り上げる。これがマサヒデが教えた、基本にして奥義。緊張しているが、今回は上手く出来た。


「おっ! 良いですねえ」


 うんうん、とフギが頷く。


「さあ、撃ち込んで」


「参ります!」


 重量のある長い木剣が「ぶうん!」と振り落とされた。

 さっとフギが木刀の柄を上げると、切先を真下に斜めになった木刀の上を、イザベルの木剣が滑って落ちていく。くるりと木刀が返され、フギは剣の横。イザベルの小手で寸止め。


「うんうんうん、悪くない。もう一度」


「は!」


 すっ。ぶうん! また流されて、小手の上で寸止め。

 はて、とフギが首を傾げて、


「悪くないと思うけどねえ。相当の相手じゃなきゃ、そう負けないと思うけどなあ」


「・・・」


 フギが下がって間を開ける。イザベルの剣の間合い、フギの間合いの外。


「長さを活かしてね。さあ、好きに撃ってきて」


 くい、とイザベルが木剣を水平にする。縦のまま突くとマサヒデのように刀の反りで流してしまうかも、と、瞬間的に気付き、咄嗟に平突きにした。


「そう! そして、切先は・・・」


 す、す、とフギが左右に動く。イザベルの木剣の切先も合わせて動く。


「そうそう! 常に相手にぴったり向ける! 基本中の基本!」


 す、とフギが左手を木刀の切先やや下辺りに添える。

 この距離では、あの構えでは全く届きそうもない。だが・・・

 危険を感じたが、イザベルは迷わず突き入れた。

 切先が届くか届かないかくらいで、フギの木刀が横に半円を描くように回り、イザベルの剣が逸れた。踏み込まれ、喉元に木刀の先。


「んっ!」


 イザベルが顎を上げる。


「さあどうする」


 横に動こうとしたら、喉元から首筋の横に切先が当てられた。


「さあどうする」


「・・・」


 つ・・・とイザベルの額を冷や汗が垂れていく。

 前に跳ぶか、と、くっと腰を落とした瞬間「こん」と鎖骨の上に切先が乗せられる。


「さあどうする」


 すっとフギが半歩踏み込んだ。木刀の物打ち辺りが首に当たる。


「参りました」


「はい。お疲れ様でした」


 フギが頭を下げると、イザベルも頭を深く下げた。

 フギはマサヒデを見て首を傾げて、


「そんなに悪くないと思うけどねえ」


「種族の差、得物の差があって、この程度ですから・・・」


「ははは! それは厳しい!」


 すごすごとイザベルが戻って来て座る。


「いえ、そうでもないです。家でも軍でも叩き込まれたはずなのに、自分でその技術を殺してます。いくらなんでもこれはない」


「トミヤスさん、厳しいねえ」


「前々から彼女には注意してきた事です。その技術を殺さないよう、主に身体の使い方だけを手直ししている所です」


「なるほどね」


「まあ、私達は命のやり取りが文字通り目の前にあるので、多少厳しく聞こえるでしょうが、許して下さい。今朝も闇討ちされたばかりです。朝食の時と、ここに来る途中に広場でも。あ、念の為に言っておきますが、どちらも殺してはいませんから」


 これにはフギも驚き、


「ええ!? 今朝だけで2回も!? ううん・・・私は勇者祭に出なくて良かったと改めて思うよ。トミヤスさん、荒んだりしないでね」


 マサヒデが苦笑して、


「さあ、この先に何があるか分かりませんし。帰ってきたら辻斬りにでも成り果てているかもしれません。お手数ですが、その時は・・・」


 ぽん、と首に手刀を当て、


「お願い出来ますか」


「ははは! そんな事を言ってるうちは大丈夫だね!」



----------



 門弟達の稽古が始まり、ツカジが指導に入る。


 フギが自分で茶を淹れて、マサヒデ達の前に湯呑を置いていく。


「はい。粗茶ですけれども」


「ありがとうございます」


 と、皆が頭を下げる。


「紹介状なんだけれども、ちょっと待ってくれるかな。知り合いの道場だけって言っても、いくつかあるから」


 アルマダが指を立てて、


「一剣流だけ、先にお願い出来ませんか。私はどうしても一剣流に行きたいんです」


「どの一剣流?」


「オノダ一剣流です」


「ヤダ先生ね。分かった」


「ありがとうございます」


 アルマダが深く頭を下げる。

 マサヒデが「頂きます」と茶をすすり、


「先生。イザベルさんですけど」


「ん! もしかしてうちで預かって鍛えて欲しいとか?」


「ははは! 違います。イザベルさんは私が鍛えたいです」


 じわじわじわ、とイザベルの目に涙が浮かぶ。


「マサヒデ様!」


「ははは! イザベルさんはすぐ嬉しがりますね。で、このイザベルさん、剣は先程の通りですが、他に凄いものを持っています」


「ほう」


「弓術、体術、そして馬術。特に馬術はトミヤス道場の代稽古を務める程。弓は短弓が凄いです」


 フギがにっこり笑って、


「なあんだ、弓が出来るなら良いじゃない。武芸十八般で最重要なんだから」


「イザベルさん、弓はどのくらい引けましたっけ」


「30貫(112kg/248ポンド)までなら」


「ええっ!?」


 フギが仰天して大声を上げたので、何事かと門弟達がフギとマサヒデ達を見る。


「それ以上でも引けはしますが、まともに狙えるかと言われますと、少々・・・」


 引き30貫など、もはや機械で引く大型のクロスボウ並。1町(約110m)以内なら鎧も楽々貫けそうだ。

 マサヒデがイザベルの肩をぱんぱん叩き、


「ほら! イザベルさん、フギ先生も驚きましたよ。やっぱりあなたの弓って凄いんですって。もっと自信持って下さいよ」


「いえ・・・トミヤス流の弓など見ますと・・・」


「あれは長弓! あなたは短弓! 違うんです! 自信持っても良いんです」


「そうでしょうか」


 駄目な剣のフォローで慰められていると感じたか、イザベルが肩をすぼめる。


「他にも体術とかあるでしょう。軍の。あれ珍しいですよ」


「まあ・・・世間では珍しいかもしれませぬが」


 お? とフギが口に運びかけた湯呑を止めて、


「軍の? 軍隊格闘術?」


「は」


「それと、イザベルさんを教えてくれた教官の方、鹿神流の使い手だったんですよ」


「おお・・・あの鹿神流!」


「でも、イザベルさんはそれ知らなかったんですよね。ははは! さっき先生との立ち会いで出せば良かったのに!」


「へえ・・・」


 フギが興味深そうにイザベルを見て、ちら、ちら、と道場の中を見る。


「もう一本、やらない?」


 イザベルが慌てて顔を上げ、手を振って、


「いえ! あれは介者剣術で、あまり綺麗なものでは!」


「何言ってるの。うちも介者剣術なんだから。見せてくれるだけでも」


「・・・はい」


 ぱん、とマサヒデがイザベルの背を軽く叩く。


「ははは! イザベルさん、頑張って!」


 『頑張って』

 マサヒデの声がイザベルの脳内で響く。

 狼族の習性、主と認めてしまった者は、もはや神も同じ。悲しき性。

 ぐ! とイザベルの目に火が入る。


「大きい時は?」


「守りです!」


「結構! さあ、フギ先生に見てもらいなさい」


「ははっ!」


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