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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第二章 森戸三傅流道場

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第19話


 森戸三傅流道場。


 シズクとフギの立ち会いが終わって、シズクがすごすごと戻って座る。

 シズクはしょんぼりと肩を落とし、


「カゲミツ様みたい」


 小さくなって、正座した足と足の隙間に手を入れている。

 マサヒデが苦笑して、


「当然です。まあそう気を落とさないで」


「うん。分かってた」


 がっくりしてしまったシズクを見てフギが笑い、カオルとイザベルを見る。


「では、次はどちら?」


 カオルとイザベルが顔を見合わせる。


「イザベル様?」

「カオル殿?」


 2人が小さく首を傾げたが、すぐカオルがマサヒデの方を向いて、


「ご主人様。使っても」


「む・・・」


 マサヒデが腕を組み、天井を仰ぐ。

 使っても。『無願想流を使っても良いか』

 カオルはそう聞いている。


 さて、どうしようか・・・カオルは奥の手がいくらでもあるが、マサヒデにはこれしかない。教えたのは? マサヒデ。ではあいつは無願想流を使う、とくる。

 天井から顔を戻して、にこにこしているフギを見る。


「・・・まあ、使っちゃいましょうか。良いですよ。皆さんには分からないと思いますし。私のはカオルさんとも違いますし」


「は」


 ぴ! とカオルが手を挙げ、


「私が参ります」


 ツカジから竹刀を受け取って立ち上がる。

 フギもツカジから竹刀を受け取り、ツカジはフギの木刀を持って下がって座る。


 カオルはフギの前に立ち、深く頭を下げ、


「お手合わせの機会を頂き、感謝致します」


「いやいや。それは私もね。他流との交流は大事だから。で、サダマキさんはトミヤス流の見習い? って言ってた?」


「は。入門はしておりませぬが、マサヒデ様より指導を頂いております」


「ああ、道場の方ではなく、トミヤスさん個人に弟子入り、みたいな感じかな」


「は」


「あっちのファッテンベルクの方も」


「は。私は内弟子、イザベル様は家臣です」


「ふうむ、ファッテンベルクを家臣に・・・ま、話は後で楽しみましょう」


 そう言って、フギが正眼に構える。

 カオルも頭を上げ、下段に構えた。


「宜しくお願いします」

「宜しくお願いします」


「はじめ!」


 ツカジの合図。

 瞬間、ぴしーん、と道場の中の空気が変わった。

 くすっとアルマダが笑い、


「マサヒデさん。あれは本気を出し過ぎでは」


「まあ、折角の機会なんです」


 すり、すり、すり、とカオルが下がり、ぴたりと止まった。

 一呼吸。二呼吸。呼吸の動きも最小限にし、分からないように・・・


 すたん!


(見事!)


 マサヒデもアルマダも唸る。

 起こりは分からなかった。

 カオルが飛び込みながら、右から切り上げ。

 一見、素人が振り回されているように見える。しかし、振って流された、ではなく、刀の行く方に身体ごとついて行く。軸は刀に合わせてどこにでも作られる。

 これが無願想流。刀が行きさえすれば、その方向に速く重さの掛かった一撃が入る。


 フギの竹刀がすっと下がる。

 カオルの太刀筋が変わって、切り上げから逆風(真下から垂直)に近い太刀筋。


(入った!)


 とカオルが手応えを感じた瞬間、フギが左足を下げながらひょいっと振り上げる。

 手応えは竹刀が竹刀に当たったもの。

 切り上げた竹刀を下から押すように上げられ、カオルの身体が上にぐっと伸びた。


「あっ」


 跳んで来た勢い。上に思い切り上げられた竹刀。

 だあん! と音が響き、カオルが尻餅をついて、フギの横を万歳のような体勢で滑って行った。

 振り上げた形のまま、フギが目を見開いて後ろで倒れているカオルを見る。


「一本!」


 ツカジの声が掛かったが、フギはそのまま立ち上がるカオルを見ていた。

 カオルが立ち上がると、フギもゆっくりと体勢を戻して、


「それは、トミヤス先生? カゲミツ先生から教えてもらった?」


「いえ。マサヒデ様から」


「そうか・・・それ、竹刀じゃ全然遅いですね。やっぱり木刀の方が良いと。で、木刀よりも・・・と。そういう振り方?」


「はい」


 フギがゆっくりとマサヒデを見て、


「ツカジ君」


「はい」


「木刀持って来てくれる? トミヤスさんにも。鍔があるやつね」


「は」


 ツカジがマサヒデを見て、フギを見る。

 この2人が木刀で? 危険なのでは・・・

 ツカジが躊躇していると、す、とマサヒデが立ち上がった。


「ツカジさん。折角のお申し出ですから」


 と、頷いた。


「ツカジ君」


「はい!」


 ツカジが先程預かったフギの木刀をフギに渡し、奥の戸を開けて、マサヒデに木刀を持って来た。


「お借りします」


 マサヒデは木刀を受け取り、下がってくるカオルとすれ違って、フギの前に歩いて行く。フギは険しい顔で頷いて、


「どこで?」


「偶然が重なって見つけられました。最後は父上に手直しをして頂き、何とか練習出来るように持っていけました」


「見つけた? 伝書とかがあったの?」


「いえ。最初はとある方の下段からの切り上げを見て。凄いなあ、と真似してみて。で、その振りにこの使い方に似ている所がありました。そうして、色々と試しているうちに辿り着きました。後に父上がそれはあの流派のものだと教えてくれました」


「ふむ・・・ふむ、そうですか。勿論、見せてもらえますよね。私も見せます」


「ありがとうございます」


 す、と2人が同時に頭を下げた。

 マサヒデは無形に、フギは正眼に構える。

 フギの真剣な表情に、道場が静まり返り、緊張感が走る。

 す、ふ、とツカジが息をつき、


「はじめ!」


 ば! とマサヒデが切り上げた。逆袈裟。

 ぱ! とフギが腰を落としつつ右足を引きながら右横一文字に切った。


 ばすん! と音がして、マサヒデの袖が捲れ上がるように揺れた。

 フギの木刀は振り上げられたマサヒデの腕の下を通り、水月のやや上を掠めて行った。マサヒデの木刀はフギの腕の上、文字通り目の前を真横に抜けていった。


 き! と真一文字に強く閉じられたフギの口と、見開かれた目。


(ここまで変わるのか!?)


 フギは心中で仰天していた。

 途中で太刀筋が変わったマサヒデの振り。

 逆袈裟で斜め下から上がってきたはずが、真横に太刀筋が変わっている。

 こんな振りで斬れるのか!?

 だが、目の前を走ったマサヒデの木刀は、確かに斬れると見えた。


 フギの横一文字に振られた木刀は頭の上に水平に上がっていて、溜めが出来ている。いつでも動ける。

 マサヒデは一見は泳いだような形で上体が傾いて見える。もうこのまま撃ち込める。

 が、これが本当にあの流派の振りなら・・・


(返ってくる!)


 それを見たい! と思った瞬間、ふ! とマサヒデの身体が消えた。

 左足を下げたが、下がる前にかつんと内腿に切先が当たった。

 掠めたのではない。切先が確かに入った。


(ここから取られたのか!?)


 同時に、袈裟に落とされたフギの木刀の切先がマサヒデの首の後ろに当たった。

 と、見えたが、マサヒデは横に踏み込んだ足を軸に、木刀を振り抜きながらくるりと回って立ち上がる。


 間が開いた。


「ふうーっ・・・」


 マサヒデが息を吐きながら、ゆっくりと切先を落とし、無形に戻る。


「・・・」


 フギも正眼に構え直す。

 マサヒデがぐっと沈みながら切り上げてきた。

 普通は届かないが・・・フギは思い切ってぐっと下がった。

 やはり伸びてもくる。しかし、ここまで伸びるとは。これは凄い。

 鼻先を木刀が掠めたが、フギの木刀がそこでひょいと前に出た。


「こうね」


「・・・」


 振り上げられた腕と首の間。鎖骨の上に木刀が置かれ、マサヒデがぴたりと止まった。


「これで一本でいいかな?」


「参りました」


 フギが木刀を引くと、マサヒデが立ち上がって深く礼をした。

 フギも礼を返す。


「こういう事言うと、言い訳がましいけどね。いやあ、流石に年には勝てないねえ」


 フギが苦笑いして、とんとん、と撃ち込まれた内腿を指先で叩く。


「ツカジ君。先に一本入ってたよ。ここ。ここに入ってたよ。急所だよ」


「ええっ!? すみません、全然見えてませんでした」


 マサヒデが軽く礼をしてツカジの前に木刀を置き、


「先生。年には勝てないなんて。今、結構手を抜かれてましたよね」


「え!? いやあ・・・」


 フギが気不味そうにぺしぺしと首に手を当て、


「バレちゃったかあ。滅多に見られないでしょ。もうちょこっとね、見たいと思って。まあバレちゃうか」


「やっぱり! やけに攻めれるなあと思いましたよ! あれ、足! わざと当てさせましたよね!? あれで当たる訳がないのに、まさかと思いましたよ!」


「ごめん! ごめんね! どうしても見たかったんだから、分かるでしょ? でも良いでしょ? 私の動き、しっかり見えたよね?」


「別に怒っている訳ではないですけど・・・」


「いやあそこはね・・・」


 マサヒデとフギが互いに苦笑しながら喋っている。

 ツカジも門弟達も、唖然としてその2人を見ていた。

 あれで手を抜いていたとは!?


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