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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第二章 森戸三傅流道場

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第18話


 森戸三傅流道場。


 マサヒデの足譚で思い切り膝と手を叩き付けたツカジが、顔を歪めて手を振りながら立ち上がり、


「いったー・・・お手柔らかにと頼みましたよね」


「そんな余裕がなかったもので、つい。すみませんでした」


「いやいや、もう一本いきましょうとか、余裕たっぷりでしたよ」


「あれは運で避けられただけですから、もう一本と」


 ツカジが恨めしげな目でマサヒデを見て、竹刀を納めて礼。マサヒデも竹刀を納めて礼。頭を上げて、


「もし骨とかいってそうでしたら、先程のラディスラヴァ、ラディさん。大きい方。あの方、治癒師なので」


 ツカジが手を握ったり開いたりして、手首を動かし、


「いや、大丈夫そうです。痛くて痺れてまともに竹刀が握れないだけです」


 マサヒデが苦笑すると、ツカジも笑って、フギの横に戻って座った。

 フギがにやにや笑って、


「さ、トミヤスさん、ちょっとそこに座って」


「はい」


 マサヒデが座ると、フギが少し身体を前のめり気味にして、


「今の、車道流の足運びだね」


 ううむ、とマサヒデが首を傾げて、


「らしいですけど・・・車道流を見た事はないので、同じかどうかは分かりません。私は攻めるのが下手なので、父上がこうすると良いぞと教えてくれました」


「なあるほど。お父上から。最後、あれ足譚だね。初めて見ました。これもお父上から?」


「いえ。サマノスケの記録を読んで、こうではないかと自分で色々試してみまして」


「ほおう、ほうほうほう・・・ご自分で!」


 にやにや笑うフギに何となく威圧され、マサヒデが肩をすぼませ、


「まあ、はい。そうです」


「ふむふむ・・・ツカジ君、まだいける?」


 ぎょ! とツカジが顔を上げ、ぶんぶんと手を振り、


「いやいや! もう無理です! 少し休ませて下さい!」


「ううん・・・仕方ないね・・・ええと、ああ! スケヒロ君!」


「は!? 僕すか!?」


 黒縁の眼鏡を掛けた若者が驚いて顔を上げた。

 スケヒロと呼ばれた若者は自分の帯を掴んで、


「僕白帯ですよ!?」


「スケヒロ君は頑張ってるから。君、昇級試験を受けてないだけでしょ? とっくに茶帯くらいの実力はあるから。ね?」


「先生!」


「ほら、こっち来て」


 フギが手を招きながら、アルマダ達の方を向き、


「スケヒロ君。誰にする?」


 スケヒロが歩いて来て、ちらりとマサヒデを見て横に座る。

 マサヒデは嫌だ。

 鬼族は嫌だ。

 派手な鎧を着た者はどうみても上級貴族。嫌だ。

 獣人の女。これも名前からして貴族だし、威圧感がありすぎる。嫌だ。

 残った金髪の女。空気が鋭すぎて怖すぎる。嫌だ。


「全員嫌です」


 ははは! と門弟達が膝を叩いて笑う。

 スケヒロが後ろを振り向いて、


「なんで笑うんですか! 皆さんもここに座ってみて下さいよ!」


 フギも笑いながら、


「じゃあ私が決めますけども」


「ああっ! ちょっと待って下さい! 決めます!」


 マサヒデは無理。鬼も無理。獣人は怖い。金髪の女も怖い。

 さっきの名乗りで一番優しい感じの、上級貴族っぽい男しかない。


「では、その鎧の・・・ハワード様?」


 フギがわざとらしく驚いた顔をして、


「ええ! 君、命知らずだねえ! こちら、トミヤス道場の高弟で、トミヤスさんと双璧って言われてる方だけど」


 スケヒロが腰を上げて手を前に出し、


「は!? ちょっと、じゃあ」


 フギはヒロスケを無視してアルマダの方を向き、


「じゃあハワードさん。お願いしますね。木剣? 竹刀?」


 アルマダがにっこり笑って頷き、


「木剣では万が一もありますし、竹刀で」


「万が一があるんですか!?」


 スケヒロが声を上げるが、フギはアルマダに向いたまま、


「鎧は関係なく、当たったら一本で良いかな」


「はい。それで結構です」


 マサヒデが横のスケヒロに竹刀をそっと差し出して、小声で囁く。


(竹刀、弾かれて)

(は?)

(撃ち込まれると万が一が出ます)


 そして、スケヒロに軽く頭を下げて前に並ぶアルマダ達の所に行き、端に座る。

 ツカジがアルマダの前に来て、竹刀を差し出す。

 アルマダが竹刀を取って立ち上がる。

 かちゃり、かちゃり、と鎧を鳴らしてアルマダが出てくる。


(やべえって)


 何が起こるか分からず、胸を鳴らしてスケヒロが竹刀を取って立ち上がる。

 アルマダがスケヒロの前で止まり、にっこり笑って、


「宜しくお願いします」


「はいっ! 宜しくお願い致します!」


 くす、とフギが笑って、アルマダも笑った。完全にスケヒロの腰が引けている。


「はじめ!」


「まあまあ。軽くいきますから」


「は、はい」


 頷くと、ぱん! とアルマダがスケヒロの竹刀を横に弾いた。


「うわっ!?」


 竹刀が道場の壁まで飛んでいき「ばん!」と音を立てた。壁際に並ぶ門弟達が驚いて首を引っ込める。跳ね返った竹刀が一度跳ねて転がる。

 壁を見る門弟達。転がる竹刀を見る門弟達。道場が静まり返る。

 アルマダが首を引っ込める門弟達の方を向き、軽く頭を下げて、


「すみません。鎧を着ていると手が上に上がらないので、面打ちは難しくて」


 勢いで倒れたスケヒロが斜め座りのような格好でアルマダを見上げ、


「あの、人族ですよね?」


「私ですか?」


「はい」


 アルマダが両手を広げ、


「勿論。見ての通り人族です。あ、鎧を着ていたら分かりづらいですか? 申し訳ありませんが、1人ですと着たり脱いだりが難しくて」


「ああ! いえいえいえ!」


「ではもう一本いきますか。竹刀を」


「いやいやいやいや! もう勘弁して下さい!」


 スケヒロが座ったまま礼をして、腰を屈めて壁際に行って座る。フギがスケヒロを見てげらげら笑い、手を上げた。


「ははは! 一本! さ、次の人!」


 あまりの力量差で、誰も手を挙げない。

 しばらく待ったが、皆が下を向いたまま。


「ううん、仕方ないねえ」


 フギがシズクの方を見て、


「シズクさんだっけ? 鬼退治、しようか?」


「い!?」


 ぎょっと顔を上げたシズクにフギが笑って、


「いや、本当に斬ったりはしないよ。木刀でいいかな。うち、普段は竹刀稽古ってしないの。あの竹刀も、お客さん用だから」


 シズクが首を傾げて、少しして頭を下げ、


「ええと、じゃあ、棒貸して下さい! ぶっ飛ばされた時、この鉄棒落としちゃったら、道場が壊れちゃうからです!」


「はいはい。ツカジ君。棒持って来てくれる? 七尺棒ね」


「はい」


 ツカジが下がっていって、道場の奥の戸を開け、八角の棒を持って来て、シズクの前に置く。


「こちらで宜しいでしょうか」


 シズクは棒を顔の高さまで持ち上げて口を半開きにして、


「あ、何か持った感じが全然違う。八角だとこんなに違うんだ・・・」


 フギが変な笑い顔で、


「ごめんね。うち、七尺だとその形しかないの」


「あ、大丈夫です! お願いします!」


「よし。じゃあやろうか。私もね、鬼族とやるのは初めてだから。手加減して下さい」


 手加減がいるのか!?

 シズクが感じる所、マサヒデやアルマダより強い。当然、自分より遥かに強い。カゲミツと比べたらどうだろう? カゲミツはもはや生物と言って良いかも分からない。だが、その剣聖カゲミツ曰く、自分より強い者は人族にもごろごろいるそうな。


「あの、手加減、いりますか? 私、勝てる気しないですけど」


「だって、思いっ切り振り回した所でばしーんと入って、棒が飛んだら危ないでしょ? 横向きにあっちに飛んでったら、何人か死んじゃうじゃない」


 そっちの心配か。自分がやられる事ではなく、周りの心配。


「分かりました」


 立ち上がったシズクにマサヒデが注意する。


「力は棒を握る分だけ。速く。何より鋭く。教えてもらいなさい」


「うん。分かった」


 フギが頷き、横に置いてあった木刀を取る。


「流石はトミヤス流と言った所かな。ううん、実に良い教え方」


「恐縮です」


 シズクとフギが歩いて行き、向き合う。フギがツカジの方を向いて、


「ツカジ君、合図頼むね」


「はい」


 よし! とシズクが中段に構え、すー、ふー、と深呼吸して、ぐるっと肩を回し、すとんと落として構える。


「おおー・・・中々やると見ました。これはうっかりすると危ない」


 うんうん、とフギが頷き、すっと正眼に構える。


(この人やべえーって)


 シズクの野生動物並か以上の勘が、危ない、危ない、と本能に告げてくる。が、これは稽古。トミヤス道場の稽古に参加した時は、カゲミツに散々のされ、何度も気を失っている。もう慣れっこだ。


「はじめ!」


「ふっ!」


 シズクが突きを出したが、フギは半身になって外した。

 棒がフギの水月の前を掠めた感触が手に伝わる。

 まあ当たらないとは分かっていたので、すっと引いたが、


「はい」


 フギがいつの間にか入ってきていて、木刀の刃を上に向け、下から切先を押し上げるように右手を添えている。顎の下にぴたり。


「あっ?」


 つん、と木刀の先が軽く顎下に当てられ、うっ、とシズクは動けなくなった。


「んっ・・・」


 フギが笑って、


「ね。こんな感じ。いくら鬼族って言ってもね。刀は刺さるでしょう」


「一本!」


 ツカジの声が響き、道場が拍手で包まれた。


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