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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第二章 森戸三傅流道場

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第17話


 森戸三傅流道場。


 マサヒデ達が宗家ヒデノブ=フギの前に並んで座る。

 シズクが鬼族と聞いて、門弟達からこそこそ声が聞こえる。フギが驚く門弟達を見てにやにや笑い、


「ううん、トミヤスさん」


「はい」


「その人、本当に鬼族かなあ? もしかして、変装とかで誤魔化してないかなあ? って、皆がこそこそ話してるけど、証明出来ますか?」


 マサヒデが少し考え、


「ああ。はい、簡単に出来ます。シズクさん、その棒持って、立って」


「え」


「取り敢えず立つだけ、立つだけ」


「うん」


 よいしょ、とシズクが鉄棒を持って立ち上がる。


「じゃあ、頭の上でくるくる回して」


「うん」


 ぶんぶんぶん!

 シズクの棒は総鉄の棒。流石に音の重量が違う。


「片手で回して」


「はーい」


 ぶーん! ぶーん! ぶーん!


「もう良いですよ。では、棒を置いて座って」


「うん」


 マサヒデはフギを見て、


「この道場で力持ちの方を・・・ううん、2、3・・・いや、5、6人お願いします。全員で、そのシズクさんの棒を持ち上げてもらって下さい」


「持ち上がらない?」


「と、思います。仮に持ち上がったら、先程のシズクさんのように振れるか試してもらって。シズクさん、良いですよね?」


「うん、全然」


「事故だけは気を付けてもらって下さい。もし持ち上がっても、倒れて潰されてしまったりすると死んでしまいますので」


 フギがにやにや笑って、


「はい! 試してみたい方、手を挙げてー!」


 門弟達がすっと目を逸らす。音で分かったのだ。あれは中まで鉄の棒。

 フギが頷いて、


「皆、本物だって信じてくれたみたいです。で、シズクさんでしたね」


「はい!」


「トミヤスさん、300人組手やりましたよね。まあー、あれはここでも凄い話題になったけどね。その時に鬼族が1人いて、トミヤスさんを天井までぶん投げたけど、最後は壁までぶっ飛ばされて気を失っちゃったとか」


「あの、それ私です!」


「ははは! だと思った! どう? 誰か天井までぶっ飛んでみない? 立ち会ってみたくない? 本物の鬼族だよ! もう一生会えないかもしれないよ!」


 フギがにやにや笑いながら道場を見回す。しんとして返事はない。


「で、今はトミヤスさんに手ほどきを受けています、と」


「はい!」


「だ、そうですけども、誰か鬼族に手ほどきするくらいの人と立ち会ってみたい人、いるかな? もう来てくれないかもしれないよ。誰か居ない?」


 しーん・・・

 フギが苦笑して、


「ふふふ。皆、流石に驚いちゃったみたい。ところで話は変わるけど」


「はい」


「今まで実際に立ち会った人の中で、これは絶対に敵わないって思った人、教えてくれない?」


 マサヒデは腕を組んで少し考える。

 剣聖である父。

 第一夫人であり、魔王の娘である、妻のマツ。

 その父の師である、アブソルート流コヒョウエ=シュウサン。

 その息子のジロウは・・・中々良い勝負ではないだろうか。

 マサヒデの無手の師である、武神精錬館合気柔術のユウゾウ=クロカワ。

 あとは、名も知らぬ凄腕の忍。


「5人居ます」


「その5人、教えてくれますか」


「まず、父上。剣聖カゲミツ=トミヤス」


「まあそうだよね。で、次は」


「私の妻、オリネオ魔術師協会のマツ。元王宮魔術師です」


「あそこの人?」


 フギが怪訝な顔で入口の横でちょこんと座っているクレールを見る。


「あ、いえ。彼女はクレールという名で、第二夫人です」


「第二夫人・・・トミヤスさん、いくつだったかな・・・」


「16です」


「そう・・・いや、ほんの少し昔は、そのくらいの年で結婚は普通だったしね・・・で、3人目は?」


「アブソルート流、コヒョウエ=シュウサン」


 ざわ、と門弟達がざわめく。フギも驚いて、


「シュウサン先生、お元気なの? もうずっと行方不明で、どこか旅先で死んだって聞いてるけども」


「まだお元気です。隠棲しておられるだけで・・・あ、申し訳ありません。ちょっと場所は。コヒョウエ先生も好んで人に教えないというか、表に出ないと言うか、隠棲しておりますので、後で・・・フギ先生なら大丈夫だと思いますし」


「うんうんうん、是非教えて下さい。絶対に秘密にします。知らない仲ではないんですよ。何度かお手合わせした事もあるんです。久し振りに挨拶もしたいですし。で、4人目は」


「武神精錬館、合気柔術のユウゾウ=クロカワ先生。私の体術の先生です」


「ああ、クロカワ先生・・・うん、クロカワ先生は強いね。うちの門弟も全く刃が立たない。そうか、トミヤスさんの体術はクロカワ先生ですか。最後は」


 ううん、とマサヒデが唸って、


「名も分からない、おそらくどこかの国の忍なんですが・・・300人組手で対戦した、無刀取りを使う忍です。どなたか、私の300人組手の放映を見た方はおられますでしょうか・・・使っている技術からして、軍属の忍であろうとは思うのですが」


「なるほど、軍属の忍」


 うんうん、とフギが頷いて、案内してくれた門弟を見て、


「ツカジ君。竹刀持って来て、トミヤスさんに教えてもらいなさい」


「えっ!? 僕ですか!?」


「君、指導員なんだから、トミヤスさんからひとつ。いや、ひとつの半分でも良いよ。何でも良いから学んで、指導に役立てなさい」


 フギはマサヒデの方を向いて、


「トミヤスさん、タダじゃないから。ね」


 いきなり立ち会い、しかも相手は三傅流5段、指導員。

 5段、つまりあのイマイより上。


「え、やるんですか? 私がですか?」


 フギがにっこり笑って、


「色んな道場の紹介状、書いてあげるから。道場主を知ってる所は全部。どう?」


「え、ええと・・・」


(マサヒデさん)

(ご主人様)

(マサちゃん)


 アルマダ、カオル、シズクが囁く。


「・・・」


「マサヒデさん。得物は私が預かっておきますから」


 す、とアルマダがマサヒデの大小を取ると、カオルが腰を浮かせて、


「では、私共は・・・」


 ちらちらとカオルが道場を見回すと、フギが手招きして、


「さあさ、皆さん、どうぞこちらに並んで。一緒に見ましょう」


「は! 恐縮です!」


 アルマダが鎧を鳴らして立ち上がり、続いて皆も立ち上がる。

 アルマダが小声で「頼みますよ」と言い残して、フギの横に並んで座る。カオル、シズク、イザベルも並んで座る。


 独り取り残されたマサヒデの前に、おずおずとツカジがやって来て、そっと竹刀を置いた。互いに小さく頭を下げ、


「あの・・・お手柔らかに」


「こちらこそ・・・」


 そっと竹刀を取って立ち上がる。ここまで来たらやるしかないし、可能であれば手合わせを出来たらと願ってもいた。

 それを思い出すと、浮ついた気持ちがすとんと落ち着いた。

 くるりくるりと肩を回し、ぐ、ぐ、と腰を回す。


 さて、問題がひとつ。出来る限り無願想流を人前で見せたくはない。


 今の所、この振りは勇者祭の試合で放映はされてもいないし、例え使ったとしても無願想流と分かる者は少ないはずだが、分かる者が1人でもいたら対策をされるかもしれない。いつかは知られるだろうが、それまでは奥の手にしておきたい。

 だが相手は仮にも指導員。並の腕ではない事は確か。使わずに勝てるだろうか?


(ま、仕方ないか)


 くい、くい、と首を左右に傾けて、腰から背筋を伸ばして肩を落とし、首をすとんと乗せる。よし。綺麗に整った感触。

 無願想流を見せる事になっても、それをきっかけとして三傅流の技法を学ぶのも良い。フギには分かると思うが、他の者にはおそらく分かるまい。


 すっと無形に構えて、切っ先は少し右。

 無願想流を覚える前の、守り主体の構え。


 ツカジは正眼に構える。

 握りが柔らかい。ここから千変万化・・・出来なさそうだ。


(固くなってるな)


 それが分かると、マサヒデの心にぐっと余裕が出て来た。


「用意はいいね」


「いつでも」「はい!」


「はじめ!」


 フギの声が掛かった。

 マサヒデがするりと誘いの歩法で前に出た。元々は車道流の歩法だが、それと知らずにカゲミツから習った歩法。これで誘って足譚で驚かせば・・・


「あ」


 ぴたりとマサヒデの足が止まった。


 ツカジの竹刀の切先がマサヒデの目の高さで、くいくい、とほんの少し左右に振られた。まだ間合いの外だが、これはいけない。分かっていても目が取られる。

 すっとマサヒデが離れると、ツカジは切先を振りながら押し込んでくる。下手に払おうとすると、小手を取られそうだ。もう少し入り込まれたら面か袈裟か。


(上手い!)


 単純だが実に効果的。どうしても反射で目が取られる。


(取られてみるか)


 ほんの少し下る距離を変える。

 ツカジが押し込む。

 次に、す、と軽く足を引いた瞬間、


「たっ!」


 竹刀が凄い速さで降ってきた。

 が、マサヒデの服を掠めて外れた。

 あれっ!? とツカジが竹刀を見て、マサヒデを見る。

 マサヒデは1歩2歩と普通に下がって構え直し、


「ツカジさん。もう一本いきましょう」


 と言って、小さく笑った。これでツカジの速さは分かった。予想通り正確無比で無駄のない振り。

 外した仕組みは単純。最初は普通に下がり、次に誘いの歩法でちょいちょいと下がってみただけ。

 距離感が微妙に狂う歩法なので、ぴたりと間合いを掴み、正確な振りをする者ほど掛かるし、掛かると驚く。


 ふん! とツカジが鼻から息を出し、構え直す。

 くいくい、と小さく竹刀を振る。

 やはり目が持っていかれるが、マサヒデは恐れず前に出た。


 ツカジの竹刀が上がると同時にマサヒデも跳ぶ。

 袈裟のぎりぎり外側くらいの、微妙に斜めの角度。

 逆袈裟から振られたが、狙いは鍔元なのでこれで良し。

 振り下ろされた竹刀の鍔元にふわっと足を乗せ、あとはぐっと背を伸ばすだけ。


 ばたん!


 大きな音がして、ツカジががつんと膝をついた。

 少し離れた所にマサヒデが立ち、着地でたわめた膝を緩く伸ばす。

 ツカジは手を叩きつけたか、左手を横に上げている。


「ツカジさん。もう一本いきましょう」


「いやいやいや。もう、もう参りました」


 ぱちぱちぱち、とフギが手を叩き、


「お見事! 一本!」


 道場が門弟達から上がった拍手と声で包まれた。


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