第15話
首都職人街、研英堂。
アルマダ、イザベルと得物を見てもらい、サガワが頷いたり首を傾げたり。
サガワもイザベルの背負う程の長剣にも驚いたが、シズクが鉄棒を持ってきた時にはさらに驚き、声を上げて笑った。
その間、マサヒデ達は店の中の刀を見ながら、声を上げたり唸ったり。
ラディが誰々のでどうのこうのと細かく説明してくれて、クレールも大満足。
最後にマサヒデがサガワの前に戻り、
「サガワ先生。森戸三傅流の道場はご存知でしょうか」
「三傅流・・・おお、そうでした。ナリカツは確か三傅流に」
「はい。イマイさんからフギ先生への紹介状を頂きまして」
ふ、とサガワが苦笑して、
「あの馬鹿者、自分で斬ってみねば研ぎの腕が上達したか分からぬなどと、フギ先生の所へ行っておりましたな・・・全く、フギ先生にはご迷惑をお掛けしました」
「フギ先生とは、お知り合いで」
「商売柄、首都の道場の皆様とは」
「お時間がありましたら、フギ先生のお人柄などお聞きしても」
マサヒデが少し言い淀み、
「それと、車道流とか・・・あまり良い話を聞かないんですが」
うむ、とサガワが顔をしかめ、
「車道流・・・宗家のヤナギ先生は、それは出来たお方ですが・・・」
「ああ、やっぱりそうなんですか。で、貴族の門弟が徒党を組むような厄介な」
「ええ・・・まあ、今の時間でしたら平気です。道場が閉まる夕刻以降は、ちと。あのような者共は、まあ貴族の道楽息子には少なからず。トミヤス流と聞けば、あの厄介貴族共は必ず絡んできましょうな」
「気を付けます」
「フギ先生はそれは大きな方で、6尺は超えておりましょうかな。身体だけでなくそのお人柄もまた。門弟の方々もよくうちに来て頂けます。ふふふ。門弟の皆様を見ると、ナリカツが泣きながらここへ入って来た時を思い出します」
「あのイマイさんが、泣きながらですか」
サガワが懐かしそうに微笑んで頷き、
「ええ。刀に思い切りヒケを付けたとか・・・足を斬って血だらけで歩いて来た事もありましたか。足などどうでも良い、刀に血が、などと馬鹿な事を・・・殴り倒して病院に連れて行きましたが」
サガワが通りの方を指差し、
「三傅流の道場は、この職人区にあります。表通りは見ての通り店が並んでおりますが、少し入れば職人達の長屋。倉庫が並んでいる所もあります」
「はい」
「その長屋の中に、大きな建物がぽつんとひとつ。頭が抜けておりますから、見て分かるでしょう。ここからだと、歩いて半刻程。この表通りを奥に歩いて行けば、右手に見えてきます。細い道ではありませんので、馬でも大丈夫でしょう」
「馬車は大丈夫でしょうか」
「大きな馬車でなければ平気でしょう」
「ありがとうございます。本日は貴重なお時間をありがとうございました」
「こちらこそ、数々の名刀に美品、良い時間を過ごせました」
マサヒデがぐっと頭を下げると、サガワも頭を下げた。
後ろで皆も頭を下げる。
「それでは失礼致します」
「それでは、また」
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ぽくぽくと馬を進めて行くと、アルマダが目を細めて遠くを指差し、
「マサヒデさん。あれでは?」
んん? とマサヒデも菅笠を上げて、指差された方を見る。
まだ遠くなのでよく分からないが・・・
馬が進んで、店の影に隠れて見えなくなった。店を通り過ぎ、
「んん・・・確かに、頭が出ていますが」
「遠すぎますね」
カオルが後ろで懐から遠眼鏡を出す。
本来は鉄砲の上に付ける物だが、小さくて具合が良く、倍率まで変えられる。
「ご主人様、おそらくあれです。看板が見えませんので確実にそうとは言えませんが、歩いて半刻の距離で、他に長屋の中で頭が抜けて大きな建物はございません。敷地も広いです。奉行所か火消し、区画役所などの行政の建物かもしれませんが・・・」
イザベルが鼻を鳴らし、
「そう言えば、ここはあまり臭いが」
「あっ! 確かに、そう言えば!」
マサヒデが声を上げて後ろのイザベルを見た。
そうだ。オリネオでは職人街で、臭いでしょっちゅう倒れそうになっていた。真っ青な顔で、店に避難しながら歩いていたのだ。今は普通に馬で歩いている。
アルマダが軽く周りの店を見て、
「製造区画のような区域が別にあるのでしょう。ここらはそこからの直売店が並ぶような感じで」
「ああ! なるほど、それで・・・」
「イザベル様は倉庫には近付かないようにしましょう。もし革製品の倉庫だったら危険ですよ」
「は。気を付けます」
マサヒデも周りを見て、
「それより、まだ早いですけど、どこかで何か食べませんか。つく頃には丁度昼になりそうです」
「む、そうですね・・・職人街ですが、この広さです。どこかにあるでしょう」
カオルが後ろから馬を並べて、
「私が先行して見てきます」
「ん・・・いや、イザベルさん、先行して探して来て下さいませんか。食べれればどんな店でも良いので」
「は!」
イザベルが馬の速度を上げて、先に進んでいく。
マサヒデはカオルの方を見て、
「カオルさんは馬が得意ではないのですから、こういう時はイザベルさんに任せましょう」
「あ、確かに・・・」
アルマダが呆れた顔で2人を見て、
「あなた達、よく馬が下手だなんて言えますね。騎馬闘技会でも出るんですか?」
「そんな事はありませんよ」
マサヒデはカオルと顔を見合わせ、
「カオルさんも、馬で襲われたら不安ありますよね?」
「はい。ここで襲われましたら、少々・・・人もおりますし、走らせるわけにも」
「降りてたらその隙にやられてしまいますし・・・やっぱり、馬の上に立って屋根に乗るか、飛び掛かるか」
「はい。それしか」
「ですよね」
「・・・」
この2人は何を考えているのか・・・アルマダが呆れた顔で2人を見ていると、マサヒデが口を尖らせて、
「アルマダさんは良いですよ。そんな上等な全身鎧を着てるんですから。矢だって平気ですよね。鉄砲でも小さいやつなら通らないでしょう? 私達は着込みだけなんです。ねえ? カオルさん」
「はい。かと言って、私達は全身鎧など慣れておりませんし」
「いや、通らないと言っても、鉄砲は流石にがつんときますよ。長物では簡単に貫通するでしょうし。矢だって、長弓とかクロスボウでは通るでしょう」
「ふうん」
「大体、鉄砲も魔術もあるのに鎧なんて、ただの箔付けだけですよ。私は時代遅れだと思っていますが、ここでは非常に役に立つ」
「何の役に立ってるんです」
アルマダが鎧の紋章を「こんこん」と叩いて、
「ははは! この我が家の紋章のお陰で、皆が道を開けてくれます」
「あ! 確かに!」
「ははは! 時代遅れの鎧だって、ちゃんと役に立ってるんですよ!」
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小さな定食屋で飯を食べ、再び馬に。
馬も馬車もあるので、マサヒデの組とアルマダの組で交代で食べた。
マサヒデが首を回しながら、
「あーあ。首都だからって期待してましたけど、三浦酒天が懐かしいですねえ」
「マサヒデさん、あそこは特別なんです。オリネオは新鮮な食材も豊富で安いですし、良い酒蔵もあるんですから」
「別に不満はないですよ。干し肉と乾パンより遥かに美味いですけど・・・」
「三浦酒天より高い?」
「ええ」
「首都は物価が高いんですよ。美味しい物が食べたければ、レストランにでも行ってみては? 紋服で」
「嫌です」
「ははは! 船に戻れば食べられますよ。あそこなら私達の貸し切りですし、マナーがどうのとうるさく言われません」
「あ、そうだった・・・でも、外で食べる時はこうなのか」
「明日からは、出掛ける時に弁当を作ってもらいましょう」
「そうしましょうか」
表通りから入って、道場らしき建物に向かう道。
サガワに教えてもらった通り、馬車でも十分走れる広さはある。
マサヒデが道を見て、
「ううむ、表通りでなくても広い道ですね。ここでオリネオの本通りくらいの広さはありますか」
アルマダも頷いて、
「流石に道は整備されていますね。綺麗ですし、広い」
少し歩いた所で、ぴく、とイザベルの耳が動いた。イザベルが目を細めて音に集中して、
「マサヒデ様」
「どうしました」
「道場で間違いなさそうです。撃ち合う音が聞こえます」
「この距離でよく聞こえますね。普段、うるさくないんですか?」
「いえ・・・生まれつきですので」
「それもそうですよね。クレールさんも、動物の声とか聞こえますけど、うるさくないって言いますし」
「我々人族から見れば不思議ですね。イザベル様から見れば、人族はなぜこうも身体が弱いのかと不思議でしょう」
「はい」
「ですが、武術はその差を埋められる」
馬が止まった。
大きな門に掛かる大きな看板に『森戸三傅流道場』と書いてある。
「ここですか。大きな道場ですね。うちとは比べ物になりませんよ」
「どうですかね。名は世界中に売れているではありませんか」
「嫌われ者ですけどね」
マサヒデ達が馬を降り、繋ぎ場に馬を繋ぐ。
マサヒデは菅笠を取って黒嵐の鞍の横に軽く結び、馬車の後ろに行って顔を突っ込み、
「シズクさん。行きますよ。ローブ羽織って」
「はいよー」
「クレールさん、どうします?」
「行きます!」
「ラディさんは・・・まあ、ここで休んでますか」
「あ、私も行きます」
シズクもクレールも出ていってしまうとなると、不安だ。
アルマダの騎士4人は残るだろうが、マサヒデ達と一緒の方が安全だ。
よいしょ、と八十三式を肩に掛けたが、
「ちょっとちょっと! 駄目ですよ、鉄砲なんて! 道場破りではないんですから」
「あっ・・・すみません」
肩から八十三式を下ろし、
「あの、正装の方が良いでしょうか。ローブ」
「ああ、そうですね」
ラディが袋を取って、中から油紙に包まれたローブを出して着る。
「じゃ、行きましょう」
トモヤが御者台の上から、
「のうマサヒデ」
「む? なんだ」
「ワシは行かんでも良いか? ぶっ叩かれるのは嫌じゃ」
「構わん。馬車の中で寝ていろ」




