第12話
がらがらと馬車が通りを走る。
馬車の中でシズクがばさっとローブをめくり、
「ほらー! ここに毒針だー!」
クレールが顔を近付け、
「ひえー! シズクさん、良く分かりましたね!?」
「日頃の稽古の賜物だね!」
ラディも顔を近付けて、
「こんな物が飛んできて・・・」
こくん、とラディが喉を鳴らす。
「ラディに刺さらなくて良かったね。私もクレール様も刺さっても全然平気だけど。多分だけどね。何の毒か分かんないし」
針に何も塗られていないわけが無い。針だけではちくっとするだけだ。
「シズクさん。それ、貰っても良いですか。何の毒か調べてみます」
「カオルなら臭いで分かると思うよ」
「聞いてみます」
ラディがポーチから手袋を出してぴちっと着け、小さな袋を出して、慎重に針を取って袋に入れる。ぴっちりと袋を閉じてポーチに入れ、手袋も外して入れて、ポーチを閉める。
「昼間でも闇討ちって来るんですね」
「そりゃ人が多い所はねー。紛れてくるでしょ」
「首都はどこも人が・・・」
「そういう事! ふうー! こわーい!」
「あははは!」
シズクもクレールも笑っているが、ラディには笑えない。
マサヒデの言う通り。本当に、この首都には安全な場所がないのだ。
「それよりさ。ラディ、鉄砲使う時は気を付けなよ。流れ弾が誰かに当たったりすると失格になっちゃうぞ。人がいっぱいなんだから」
「あ、確かに・・・」
「クレール様も、でっかい魔術は駄目だぞ。死霊術で攻めた方が良いと思うな」
「なるほど!」
「でも、こんな人が多い所で魔術で攻めるって難しいよ。死霊術はその辺簡単でしょ。クレール様、活躍出来ると思うな」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。他の魔術師がこんな人が多い所で石飛ばしたら! 火出したら! 誰かに当たるかも! なーんて困ってる所に、虫飛ばしたり鳥飛ばしたり。虎が出てきたりさ。死霊術で戦える魔術師って凄いよ」
「えへへへ・・・」
クレールが照れ笑い。
ラディは肩に背負ったケースの中の長鉄砲、八十三式を見て、
「これの出番はないでしょうか」
「場所によりけりだよ。それよりさ、なんて言ったっけ。上に向けて、ばーん! ビビらせるやつ」
「威嚇射撃?」
「そうそう。あれさ、首都じゃやらない方が良いと思うんだ」
「なぜでしょう」
シズクは人差し指を立て、
「だって、上に向けて飛んでった弾、そのうち落ちてくるだろ」
「・・・」
「鉄砲の弾って、鉄でしょ。凄い高さまで飛んでくでしょ。それが落ちて来て勇者祭の奴じゃない人に当たったら結構ヤバくない? そしたら失格でしょ」
鉄ではないが、金属で重い事には変わりない。弾頭は小さな物だが、それが何百間(1間=約1.8m)という高さから落ちてきたら・・・
「確かに・・・確かに、そうです」
「真上じゃなくて、海の方に斜め上に向けてやると良いかもね」
「あ!」
「船に当たったら大変だけど」
「・・・」
少し俯いてしまったラディを見て、クレールが膝に手を乗せ、
「船はいっぱいいませんから大丈夫だと思いますけど。弾は出さずに、音だけ出すとかどうでしょう。音でびっくりはしますよ」
「あ」
そうだ。空砲にしてしまえば威嚇射撃になる。相手に向けて構えて撃つ事も出来るではないか。絶対に驚く。ラディが頷いて、
「クレール様、流石です」
シズクがむっとして、
「ちょっとおー。私は?」
「シズクさんもです。私、気付きませんでした」
帰ったら空砲を作っておこう。挿弾子(マガジンのような物)はいくつかあるから、実弾の物と別にしておけば良いのだ。
うんうん、とラディが頷いていると、馬車が止まった。
トモヤが御者台から馬車の中を見て、
「職人街の入口じゃ。ラディ殿、研師殿の師匠の店を探すで、楽しみにしておりなされ」
「はい」
クレールが目を輝かせ、
「どんな刀があるでしょうか! 見せてもらえるでしょうか! ラディさん、楽しみですね!」
ラディが頷き、
「お仕事も見てみたいです。イマイさんの師匠、サガワ先生。どんな方でしょう」
「楽しみです!」
「はい」
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マサヒデが馬を降りて、適当な店の戸を開ける。
「こんにちは」
看板は見ていなかったが、ここは籠や笠などを売っている店のようだ。
「へい! らっしゃい!」
「失礼します。道をお尋ねしたいんです。冷やかしで本当に申し訳ありません。ここらにサガワさんという凄い研師さんがいると聞いたんですが」
「ああ・・・」
と、店員がマサヒデの刀を見て、目を丸くした。
「お・・・おお!? 凄え刀だ! そいつの研ぎか。ううん、高そうだねえ」
「さあ。拵えだけで中身は安物かもしれませんよ。で、サガワさんの店は」
「真っ直ぐ行きゃありますよ。『研英堂』って看板が出てます。研ぐの研、英雄の英。向こうに行って、通りの左側。歩きで10分くらいかな」
「ありがとうございます」
マサヒデは頭を下げて店を出た。
アルマダが馬上から、
「どうでした」
「真っ直ぐです。歩きで10分くらいの距離。すぐですね。通りの左側で、研英堂という看板。研ぐの研、英雄の英」
「研英堂ですか。良い名前ですね。行きましょう」
「はい」
しゃ、とマサヒデが馬に跨り、アルマダと並んで歩き出す。
「どんな方でしょうね」
ふ、とアルマダが笑って、
「私は大体予想がつきます。イマイ様とは正反対の、厳しい職人、という感じの方です。間違いありません」
「なぜそうも自信たっぷりに」
「大体、師匠と弟子って表側は正反対になるんですよ。マサヒデさんとカゲミツ様みたいに、丁寧な態度の方と大きな態度の方。でも中を覗いてみたらそっくり」
「ええ? 私、父上に似てますか?」
「そっくりです」
アルマダが後ろのカオルに振り向いて、
「カオルさん。マサヒデさんとカゲミツ様、態度の違いだけで中身はそっくりだと思いませんか」
「思います」
「イザベル様はどう思います」
「仰る通りです」
アルマダが笑顔をマサヒデに向け、
「ほら、似てるんですよ。似てないと思っているのは自分だけ」
「ううむ・・・」
首を傾げながら馬を進めて行くと、店はすぐに見つかった。
「あれですね。あの店」
マサヒデが前を指差す。
ぽくり、ぽくり、と馬を進めて行き、店の前で停める。
「ほおう。ここですか」
馬を降りて繋ぎ場に繋ぐ。
アルマダの騎士のサクマが歩いて来て、
「私共は外にて、馬車と馬を見ておりますので」
「ありがとうございます」
停まった馬車から、ぞろぞろと皆が降りてくる。
クレールがマサヒデに封書を差し出し、
「マサヒデ様! イマイ様からお預りしたお手紙です!」
「うん・・・」
手紙を受け取って懐に入れ、クレールと一緒に店の中を覗く。
「マサヒデ様、イマイ様のお店より大きいですね」
「それはお師匠様ですから、当然でしょう。人間国宝の候補なんですよ」
「あの方でしょうか」
「あれは番頭さんだと思いますが」
「刀がたくさん置いてありますね。店頭に出ているという事は、売り物でしょうか」
「かもしれませんね」
マサヒデが皆を見回す。
「では、入りましょうか。何か緊張しますよ」
「ご主人様、大丈夫です」
「マサヒデ様のお刀を見れば、如何な研師も仰天致しましょう」
カオルとイザベルが笑う。
ラディは真剣な顔で腕を組んで看板を見る。
「ここが、研英堂・・・」
「ラディさんも緊張しますか」
「はい。ここが研師の頂点の店です。お会い出来るでしょうか・・・」
「多分、出来ますよ。多分ですけど」
すうー、ふうー・・・
緊張しているマサヒデとラディが揃って深呼吸。
ぱん! とマサヒデが頬を叩いて気合を入れる。
「よし。行きましょうか」
「はい」
マサヒデは戸の前で苦笑しているアルマダの隣に立ち、研英堂の戸を開けた。




