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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十一章 亡国の危機

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第110話


 マサヒデ達が泳法の訓練で絞られている時、港に5人の若い男が入って来た。


「サダマキぁー! 出て来いやあー!」


 何だ? と港の警備兵達が男達を囲む。


「何だ! 貴様らは!」


「うるせえ! てめえらに用はねえ!」

「邪魔だ! あっちに行け!」


 男の1人が振り向き、襟の家紋を指差す。

 貴族か・・・面倒な。


「平民に用はねえ!」


「は? 今、何と? 平民に用はないと?」


「そうだ!」


 警備兵達が顔を見合わせ、


「あの・・・大変申し上げにくいのですが」


「何だぁ!」


「サダマキ殿も平民ですが・・・御用はないので?」


「・・・」


 さー、と風に吹かれる波の音。

 ミャア、ミャア、とウミネコの声・・・


「うーっ、う、うるせえな! お前らには用はねえって事だ!」


「はあ・・・それと、サダマキ殿は居られませんが」


「何ぃ!? どっか出掛けやがったのか!?」


「いえ。読売は読んでおられませんか? 先日、お亡くなりに」


「えっ?」


 警備兵が怪訝な顔で首を傾げ、


「本当にご存知ないので? 結構な騒ぎになりましたぞ。どうやら政治絡みの暗殺のようで、キノト侯爵やミスジ公爵などが、真夜中に馬車を飛ばしてこちらへ来られて」


 男の1人が呆けた顔で、


「あっ・・・あの女、死んだのか・・・?」


「はい。そちらで密葬をなさっておられまして。皆様、涙を流して灰を撒いておられました」


 かくん、と男が肩を落とした。


「そんな・・・」


 男が小さく呟き、がくりと膝を付く。

 他の4人が男を囲み、


「お、おい」

「大丈夫かよ」

「どうすんだ、お前」

「親父さんにもういっぺん話してみろよ」


 警備兵も急に膝をついた男に心配そうな顔を向け、


「どうなされました。医者か治癒師が必要でしたら呼びますが」


「そうじゃねえって・・・」


 大きな声を聞いたマサヒデ達が、タラップを下りてくる。

 あ、と4人がマサヒデ達の方を向いた。


「ああ・・・仇討ちの相手が死んじまったなんて・・・戻れねえよ・・・」


 マサヒデはわしゃわしゃと頭を拭きながら、


「一体、どうなされました? 何かあったのですか?」


 は! と男が顔を上げ、


「ト、トミヤス・・・てめえ・・・」


 これは車道流の道場でカオルが叩きのめした輩ではないか。意趣返しか。


「おい! あの女、サダマキ・・・死んじまったのかよ」


「え? ええ・・・先日、闇討ちされました。勇者祭の者ではなかったのですが」


 がば! と輩が立ち上がり、


「何で殺しちまったんだよ! お前! 師匠なら守ってやれよ!」


「いや、返す言葉もございません」


「お、お、俺が殺さねえと・・・」


 つつー・・・

 輩の目から涙が・・・

 マサヒデが後ろの皆の方を見ると、皆も胡乱な顔で輩を見ている。


「一体・・・? あなた、どうなさいました? カオルさんが死んで、泣いてくれるんですか?」


「あれだけ人前で大恥かかされたんだ! 仇討ちしねえとよお! 俺、家え追い出されちまうんだよ! どうしてくれんだよ!」


「ええ? いや、それは仇討ちとは言わないのでは・・・意趣返し、意趣晴らしではありませんか・・・」


 自分が殺したかっただけか。そうしないと家を追い出されて島流しというわけだ。

 輩がだんだんと地面を蹴り、


「弟子が死んじまったんだろ! お前が何とかしろよ!」


「そんな無茶な・・・死んでしまった者はどうしようもないですって」


 死んではいないが、今の問題を片付けるまでは口外出来ない。この輩に生きていると知らせるなど、以ての外。

 マサヒデは頭に乗せていた手拭いを懐に入れ、顔をしかめながら、


「じゃあ・・・良いですよ。何とかしますよ」


「どうすんだよ!」


「その意趣晴らし、私が受けますよ。それで良いでしょう?」


「お前に勝てるわけねーだろーがよ!」


「じゃあ、私の身内で、カオルさんと同じくらい強い人との立ち会いなら良いですか?」


「良いよ!」


「真剣ですか?」


「当たり前だろーが!」


 マサヒデが後ろのシズクを見ると、シズクが満面の笑みで頷いた。


「じゃ、用意させますから。えーっと、警備兵の皆さん。この方から立ち会いの申し出があったので、シズクさんが受けることになりました。証人になってもらえますか?」


「ええ、勿論」


 うむうむ、と警備兵達が頷く。


「じゃ、シズクさん。真剣持って来て下さい」


「はあーい! やったねー!」


 え! と男を囲んでいた4人が驚き、タラップを上がって行くシズクを見て、


「お、おい! あれ鬼じゃねえかよ!」


「ええ、そうですよ。カオルさん、あの方と五分の腕なんです」


「馬鹿言うんじゃねえ! んなわけねえだろうが! 人族が鬼族に勝てるわけがねえだろうがよ!」


「私は勝ちましたよ」


 後ろのイザベルを肩越しに親指で指差し、


「そこのファッテンベルクの方。狼族の方にも勝ちましたよ。レイシクランにも勝ちましたよ。ね? クレールさん」


 クレールがにっこり笑ってマサヒデを見上げる。


「負けちゃいましたねー!」


「ははは! 今やりあったらどうですかね? クレールさん、最近頑張ってますもんね。道術に陰陽術まで」


「ううん・・・前よりは良い勝負が出来ると思いますけど・・・」


 苦い顔をして、輩達が目を逸らす。

 マサヒデが輩達を冷たい目で見て、


「ただ生まれ持った力だけで勝負じゃあ、人族同士でだって、ただの力持ちが勝つに決まってます。その差を埋めるのが武術でしょう。違いますかね。武術って、そういうものだと思ってるんですが。勿論、それだけじゃないですけども」


「・・・」


「相手が魔族だろうが、鍛えた武術で勝って下さいよ。あなたが申し込んできた勝負という事もお忘れなく。私相手が嫌だ、私相手では勝てないと言うから、私より弱い相手を出すんです。そこもお忘れなく」


「ちっ・・・」


「シズクさんは嫌ですか? ファッテンベルクにしますか? レイシクラン? まさか武術のぶの字も知らない治癒師なんて言いませんよね。魔族が嫌なら私が出ましょうか?」


「くそ! くそ! てめえ! 卑怯者が!」


 マサヒデが周りを見渡し、警備兵に声を掛ける。


「私、卑怯な事しましたか?」


「いいえ、全く」


 警備兵達が首を横に振る。


「では、更に譲りましょう。あなた達、5人を相手しましょう。こちらは1人。そちらは5人。どうです」


「マーサちゃーん!」


 シズクがどたどたとタラップを下りてくる。


「何? こいつら、まだうだうだ言ってんの? なー、早くやろうぜー」


「う・・・」


「ほら。一緒に来た皆さん。ご友人を手助けしても構いませんよ」


 シズクがにやにや笑って、


「あはーん。ビビッちゃった? だっさ。警備兵さん、秘密にしといたげてね!」


「ははは!」


 警備兵達が笑う。


「く!」


 一緒に来た4人の1人が刀に手を掛けた瞬間、ぱ! とシズクが鉄棒を持った手を離した。めぎ! と音がして石畳が割れ、地面に鉄棒が石畳に突き刺さって立つ。


「おおう! 重すぎー! 総鉄じゃあなあー。よっこらせ」


 ひょいっと持ち上げると、指先から手首程の深さの穴が空いている。

 シズクが見下した目でにやにや笑い、


「やるの? やんねえの? そっちから喧嘩売ってきて尻尾巻いて逃げるんか? うわー! 格好わるー! 貴族様、格好わるー!」


「ちきしょあー!」


 輩が抜いて、シズクに斬りかかった。が・・・


(あ、こりゃ駄目だ)


 マサヒデが首を振る。ぶんぶん振り回し、シズクに叩きつけるように当てるだけ。これではまともに斬れはしない。高弟のはずだが、まともな動きなど微塵も見えない。実際に斬った事のない素人か。相手が鬼族で、腰が引けているのか。


「くあ~」


 シズクがこれみよがしに欠伸をする。


「てめえ! てめえ! 死にやがれ!」


 ほい、とシズクが鉄棒を離し、ごすーん! と大きな音を立てて石畳を割ってめり込んで倒れる。


「可哀想だから、素手で相手してやるよ・・・」


「馬鹿にしやがって! この! この!」


「はいはい。分かった分かった」


 ぱし、とシズクが輩の手を取る。


「うっ・・・」


 ふう、とシズクが溜め息をついて、


「もう良いだろ? お前、私に勝てないよ」


「うるせえ!」


「うるせえなあ」


 ばつーん! と凄い音がして、ぱ、とシズクが手を離すと、輩の右手が潰れていた。う、と警備兵達が顔を逸らす。


「うっ・・・おい・・・」


 一緒に来た4人の1人が手を伸ばしたが、輩は頭に血が登って痛みを感じていないのか、


「きぇー!」


 と、怪鳥のような大声を出し、さらにシズクに斬り掛かった。

 ばかん、と音がして、輩の刀の柄が折れ、左手に柄の下を握り、潰れた右手から、ずるりと刀が落ちた。


「かゃあー! かゃあー!」


 潰れた右手と、折れた柄を握ったままの左手で、子供のようにシズクを叩く。

 シズクは輩の潰れた手から出る血に染まりながら、半分憐れむような、半分困ったような顔で、


「なあ。あんた、もう死んでるぜ」


 暴れる輩の耳に、シズクの声は届いていない。

 シズクがゆっくり手を上げて、輩の頬にそっと手を置くと、はっ! と輩が手を止めてシズクを見た。


「あんた、頑張った。な。逆恨みするのはもう終わりにしなよ。あんた、弱いから」


 すぱん! とシズクが手を振ると、輩が横に吹っ飛んで、警備兵を倒して転がった。

 マサヒデが首を振り、


「ラディさん。あの方の手、あまり綺麗に治さないで。もう剣は握れないようにした方が良い」


「はい」


 ばたばたとラディが気を失った輩の所に走って行く。

 一緒に倒された警備兵が輩の上体を慎重に起こすと、ラディが潰れた右手を取って、潰れたまま固めて治癒した。

 ラディが沈痛な顔でひしゃげた男の手を下ろす。これで良かったのか・・・

 マサヒデが一緒に来た4人を見て、顎をしゃくり、


「連れて帰って下さい。不服があれば、奉行所か裁判所で会いましょう、と、トミヤスが言っていたと、あの人に伝えておいて下さい。この警備兵さん達、皆が証人ですからね」


 マサヒデが輩を見て、


「あの手、もう剣は握れないでしょうが・・・放っておいたらあと5分もせずに死んでいたのですから・・・死んだ方がましだと言うなら、私が介錯引き受けても良いです。必要なら呼んで下さい。では」


 くるりと振り返り、マサヒデ達は船に戻って行った。

 ラディはちらっと輩の手を見て、マサヒデ達を小走りで追いかけて船に戻って行った。


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