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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河


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第11話


 マサヒデ達一行が広場に着いた。


 文字通りに広い広場の真ん中には銅像が建っている。

 マサヒデが馬を止めると、皆も止まった。


「アルマダさん、あっちに銅像がありますね。あれって、初代勇者でしょうか」


「いや・・・城門前の広場の真ん中ですから、初代王では」


「初代勇者の銅像ってどこでしょう」


「ううむ、この広場のどこかだと思いますが」


 カオルが馬を進めて来て、マサヒデの横に並ぶ。


「初代勇者はこの広場の奥、城門前通りの入口の脇にあります。あの8代王の像もございますよ」


「おお! ちょっと見に行きません?」


「良いですね。私も見てみたい」


 アルマダがにっこり笑って頷く。

 マサヒデは馬を回して少し後ろに離れている馬車に近付き、御者台のトモヤに、


「8代王と初代勇者の像を見に行こう」


 ぷー! と馬車の中から吹き出す声。

 シズクだ。

 そう。初代勇者は食い物泥棒で、魔王様から人の国の王に報せを送っただけの者。

 魔物をばっさばっさと・・・などしておらず、食う物に困って泥棒をしては兵から隠れて、物乞いをしながら逃げ回っていたのだ。

(※勇者祭288話参照)


 人の国ではほとんど知られていないが、魔族は皆知っている。だが、公然の秘密というやつで、皆、絶対に口にしない。

 くすくすとクレールも笑っている。イザベルも口を押さえて下を向いている。


「ほら。イザベルさんも笑ってないで。そんなに笑われると、私も笑いそうです」


「くくく・・・マサヒデ様には、既にご存知で」


「うっ・・・ぷっ、くくく・・・」


 マサヒデも口を押さえ、菅笠を目深にする。


「ふ、ふ・・・い、行きましょう」


「は!」



----------



 広場を反対に横切って、城門前通りの入口の前。


 マサヒデ達は馬を降り、口を引いて旅行者達が囲む像に歩いて行く。像の横には衛兵が立っていて、間近には近寄れないようだ。像をスケッチしている者までいる。

 何も知らないアルマダが初代勇者の像を見て、


「ほう! これが初代勇者・・・ううむ、勇ましい!」


 きりりと引き締まった顔。

 素晴らしい意匠の鎧に、真っ直ぐ天に掲げられた剣。

 跨る馬は勇ましく前足を上げ、後ろ足で立っている。

 何と凛々しい食い物泥棒の像であろう!


「ぶはっ!」

「く、くくく・・・」

「ん・・・う・・・んん・・・」


 真実を知るマサヒデ、カオル、イザベルが口を押さえる。


「皆さん、どうしたんです?」


 アルマダが驚いてマサヒデ達を見る。

 馬車の中から、クレールとラディが顔を出した。


「ふっ」


 クレールが口を押さえてすぐに引っ込み、馬車の中からげらげらと笑い声。

 ラディとトモヤが何だろうと馬車の中を覗き込む。

 マサヒデは肩を震わせながら、笑い涙を拭いて、


「アルマダさん、後で教えてあげますから・・・くくく」


「何がおかしいのです」


「後で、後で・・・は、8代王・・・」


 くすくす笑いながらマサヒデ達は馬を引いて歩いて行く。

 いくつか銅像が並んでいる中で、また大勢の人に囲まれている像がある。


「あれかな?」


「そうでしょうね」


 これも剣を天に掲げている。

 戦場で指揮する姿であろうか。軽装の鎧に風になびくマントが見事に作られている。

 兜は被っておらず、王冠を付けている。

 馬は前足を軽く上げ、ぐっと頭を前に出し、今にも駆け出しそうだ。


「ううん、アルマダさん、これは戦場の8代王でしょうか」


 アルマダが頷き、


「どんな戦も負け知らずだった・・・兵を指揮して今突撃、という感じですね」


 イザベルも顎に手を当てて頷いている。


「これがあの8代王・・・求心力のありそうなお方です。タイガーハート・・・これが・・・このお姿、今にも戦場に爪を振るわんとする虎の如く見えます」


 カオルも頷き、


「講談で語られるのも分かりますね。民からもさぞ人気のあった方かと、この銅像だけでも良く分かります」


「じゃのう。このお方が悪代官を成敗しておったか」


 馬車から降りて来たトモヤがうんうん、と頷く。

 マサヒデが苦笑して、


「トモヤ、あれは作り話だぞ」


「それは分かっておるがの。じゃが、そうであったらと夢が膨らむではないか。紙芝居でなく、ご本人もきりりときまっておるの」


 イザベルがトモヤの肩に手を置き、


「分かる。トモヤ殿。我もその気持ちはよっく分かるぞ。このお方がなみいる不逞の浪人共をなぎ倒し、成敗! 胸が熱くなるわ」


「ほうじゃろう? 8代王暴れ日記を知っておる者であれば、誰でもそうなろうの」


「はい。しかし、あの剣が王家の剣でしょうか」


「うおうっ!?」


 驚いてトモヤが後ろを見ると、ラディが顎に手を当ててじっと8代王の銅像の剣を見つめている。ラディは眉を寄せて目を細め、


はばきには何も彫られていませんが、本物には彫りがないのでしょうか。反対側?」


 くすっとマサヒデが笑って、


「さすがにラディさんは見る所が違いますね」


「はい」


 馬車から深くローブを被ったシズクとクレールも降りてくる。

 鬼族のシズクはほとんどの人族の国で非常に恐れられているので、外では頭と顔を深く隠す。

 クレールが像を指差し、


「あーっ! あれが8代王ですか!」


「そうだよー」


「へえー! 前に来た時は全然気付きませんでした!」


「クレール様、暴れ日記知らなかったもんね。今見ると興奮するでしょ」


「はい! かっこいいです!」


「でしょー。あの人が成敗! ってやるんだ。凄いよね」


「悪党共! 三途の川の舟遊び、したくないか!」


「三途の川の渡し賃! これは奢りよ! 舟遊びを楽しんで参れ!」


「ひゃあー! 成敗! 凄いです! かっこいいです!」


「あははは!」


 はしゃぐクレールを見て、周りの見物人がくすくす笑う。

 マサヒデがシズクをちらっと見ると、シズクが笑いながら、すっとローブをクレールの背中に被せる。ローブに針がぷすぷすと刺さったが、クレールは気付いていない。

 マサヒデもにこにこ笑いながら、


「カオルさん」


「は」


 カオルがにやにやしながら歩いて行き、クレールの後ろの見物人の前で止まった。


「!」


 ぎくっとして、見物人の顔色が変わる。

 カオルが声を張り、


「三途の川の舟遊び! したくはございませんか!」


 ぱっと手を払うと、見物人の足元に銅貨がちゃりんちゃりんと音を立てて落ちた。

 何だ何だ、と他の見物人達がカオルを見る。


 あっ! とトモヤとラディも振り返った。クレールも振り返って、シズクのローブから顔を出した。

 カオルの表情が冷たいものに変わっている。

 マサヒデがにこにこしながら見物人に向かって歩いて行き、アルマダがにやにや笑ってマサヒデを見送る。


「ははは! カオルさん、それはやりすぎですよ!」


 マサヒデがカオルの隣に立った。


「さて! 勇者祭の勝負と参りましょう!」


 は! と見物人に化けた闇討ちの男が左に駆け出そうとしたが、さっとカオルが回る。右手に向くと、いつの間にかマサヒデの刀が抜かれていて、遮られている。


「くっ・・・」


 すすす・・・とマサヒデの刀が上がって来て、闇討ちの男の首の高さで止まった。そして、くるっと刃を闇討ちの男に向ける。

 マサヒデは左手でちょいと菅笠を上げて、


「成敗。されたいですか」


 マサヒデの顔から笑いは消えており、冷たい目で闇討ちの男をじっと見ている。

 右片手で上げられた刀に、左手が添えられた。

 闇討ちの男が降参するようにゆっくり両手を挙げる。


「おっと!」


 ぴたりと闇討ち男の手が止まった。


「そこまで。肩より上に手を挙げたら、挙げた腕ごと首を斬ります。私は斬れますが、試してみますか? この刀の下、くぐって逃げてみますか? それとも後ろ? 思い切って体当たり? 蹴り? 目潰し? あなたが1寸動く前に斬りますよ。その手を伸ばして、私の腕、取ってみませんか? 手が届く前に首が飛びますよ。どうしますか? 私の言う事、全部はったりかもしれませんが、試してみますか?」


「・・・」


「この方のお仲間、いらっしゃいませんかー! 一緒にお相手しますよー!」


 ざわざわと後ろの方の見物人達が声を上げている。

 近くの見物人達は、喉を鳴らして黙り込んでいる。

 マサヒデは心の中で10数えた後、


「さて、誰も来ませんね。では、3つ数え終わる前に、口に出して降参と言いなさい。言わなかったら斬ります。数えます。3」


「降参だ!」


「結構!」


 マサヒデがすらりと愛刀雲切丸を納めると、見物人達から大きな拍手が上がった。


「ははは!」


 アルマダが大きな声で笑った。

 闇討ちの男ががっくりと膝をついた。


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