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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十一章 亡国の危機

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第109話


 翌日、文科省。


 レイシクランの名を出しキノト侯爵との面会の許しは得られたが、カオルはもう半刻(1時間)も座ったまま。


(もう厄介事を運ぶ使者のように思われていないか?)


 いや、役所とは元々待たされる所だ。

 それに、相手は大臣なのだ。今まで普通に会えたのは緊急時であったからだ。


 ふう、と息を吐き、呼吸を整え、瞑想でも・・・と考え始めた所、がちゃりとドアが開いた。渋い顔のキノト。


「また厄介事かよ」


「いえ・・・」



----------



 カオルの話を聞き、仏頂面をしていたキノトも少し顔を明るくした。


「ほう! 良い着眼点だ。刺客が持ってた得物なあ」


「は」


 キノトはにやにやして、


「あのなあ。俺達はとっくにそっちを探してる。人形なんて探した後はどうでも良いよ。ま、一応辿らせちゃあいるがな。あんたが届けてくれた報せ、思い出してみろ」


「は・・・?」


「カゲミツ様がどんな奴と戦ったって書いてあったろ? あと、影武者はいっぱい! ってな! 影武者探しは当然。でも、刺客送ったのはそこからじゃ分からねえかも。他に分かりそうなのは・・・そういやあ刺客はどこでそんな得物を? 元々持ってたか? いやいや、それより犯人が渡したんじゃないの? 剣聖とやり合うんだからって。じゃあ、それっぽく見せねえと、だろ?」


「は・・・」


 キノトがにやりと笑い、


「ツチカドさんの殺しを目の前で見て、人形ばっかりに目が行ってたな?」


「は」


「で、これだけじゃないだろ? まさか捜査方針にご意見、なんて事あねえよな」


「はい。海軍大将、シキ=ハカヤマ。随分と金を使ったようで。それも、軍費などではなく、個人的な金で。宝石等を売り払っておるようです。それも、正規の店でなく闇商売の所で」


 キノトの笑みがぴたりと止まった。


「おー・・・ハカヤマの大将がな・・・で、そんだけでかい買い物となると・・・」


「刺客が持っていた得物では、と見ております」


「なるほどなるほど・・・あり得るねえ。良い情報だ。どっから仕入れた」


「民間の探偵です。腕利きと聞いてダメ元で訪ねてみましたら、数刻で」


 む、とキノトの眉が曇った。


「探偵、ね・・・」


「キノト様、信頼に欠けるのは承知の上ですが」


「ああ。ま、調べてみて損はねえよな。それに、金から洗うってのは基本だ。俺も軍じゃねえかと見てる。情報省も間違いなくそう見てるだろうぜ。とっくに掴んでるかもしれねえから、後で確認取っておくか。他には」


 カオルは少し考えて、ムラナカの事も聞いてみようか、と思った。


「この件とは関係ないのですが・・・実は、その探偵の事務所で、ムラナカという同心に会いました」


 ぴく、とキノトの顔が真剣な物に変わった。


「ムラナカ・・・」


「聞くに、剣術の免許をいくつも持っている達人だとか。ご存知でしょうか?」


「・・・」


 これは口を滑らせたか。キノトの目が鋭い。キノトはムラナカの事を知っている。裏の仕事も。

 キノトの頭なら、ぴん、とくるはずだ。ムラナカを使って、犯人を・・・と。


「ムラナカさんの事、トミヤス君達にも話したか」


「以前、マサヒデ様がナカタと立ち会った後、事情聴取に来ました。その時に皆様は気付いております。彼の者は人斬りをしておりますね」


「ちっ」


 キノトが舌打ちをして、横を向く。


「レイシクラン様は、ムラナカさんを使うつもりか」


「いえ。その必要はありませんので。剣術のご指南はどうかと思いましたが、あのご様子ではどうも、と思いまして」


「そうか・・・あの人の事、聞いたのか」


「少し。昔は真面目なお方であったと」


「ああ。あんな風になっちまったのは・・・まあいい。この話はやめよう。指南は諦めろ」


「・・・」


 キノトが首を振り、真面目な顔に戻って、


「金の裏が取れりゃあ、ハカヤマの大将だな。陸軍のアリミヤ殿下も開戦派だが、ちゃあんと後の事まで考えられる人だ。レイシクランを始末して、もう戦するしかないって所にしようなんて、絶対に考えない。それに、あの人は南方諸島に行くべきだと主張して、ハカヤマの大将とぶつかってる」


「南方ですか」


「ハカヤマ大将みたいに、大中心国や白露帝国に喧嘩売ろうなんて言ってない。そりゃ海軍は勝てるさ。余裕で勝てる。だが、海戦に勝っていざ上陸したらどうなる。陸軍、いくら装備が整ってるからって、兵数に差がありすぎるぜ。そこ、ハカヤマの大将に言ったら何て答えたと思う」


「さあ・・・想像もつきませんが」


 は! とキノトが両手を広げ、


「陸軍は気合が足らんからそんな事を言うんだ! 兵数の差など気合があれば何とかなる! だってよ!」


「き・・・気合? それだけですか?」


「で、アリミヤ殿下がどう攻めれば? 何か策はございますか? 儂は海軍だから知らん。陸軍で考えろ。アリミヤ殿下に丸投げ。なーんも考えちゃいねえのさ。アリミヤ殿下、親王だぜ。そんな事よく言えるよな。聞いてた連中、ぽかんとしちまったよ。それ見て、ほれ、何も言い返せもせんだろう、だって! 本当の話だぜ、これ」


「・・・」


 カオルもぽかんとしてしまった。

 はあ、とキノトが溜め息をつき、


「ハカヤマの大将、新しいおもちゃを買ってもらった子供と同じさ。誰かに見せ付けたくて仕方ねえのさ。最新の軍備! 大国の大中心国にも白露帝国にも勝てる! どうだ凄いだろう! 新しいおもちゃで海戦してみたいのさ。たまったもんじゃねえ」


「そっ・・・そんな理由で? それだけですか?」


「そうさ。実際、海戦の事だって、何も考えちゃいねえ。取り敢えず港にまっすぐ行きゃ勝てる。それだけさ。被害がどうなる、補充、補給はどうする、なーんも考えてねえ。頭すっからかん。次の事なんか考えとったら勝てる戦も勝てやせん! ただ目の前に集中せよ! だからな。そういうのは時と場合を選べっつーの」


 カオルがぶんぶん首を振って、咳払いをして、


「何故、何故そのようなお方が大将に?」


「勢い良い事言うから、民にも兵にも人気があるからな・・・平時なら良いよ。平時なら。兵達にも気合入るから。実際、戦になったら、兵からの支持はガタ落ち。士気もガタ落ち。ああいうのは現場向きだよ。絶対に上に置いちゃいけねえ。せめて補佐官の意見くらい、聞いて考えてくれりゃあなあ。聞くだけだもんよ・・・」


 あーあ、とキノトが呆れ声を上げ、どさっとソファーにもたれかかり、


「こりゃあハカヤマの大将で決まりかな・・・ちっ! 大将かよ。とっ捕まえるの面倒だぜ。次の大将、誰になんだろ。また面倒な人じゃなきゃ良いがな」


 カオルが立ち上がると、キノトがカオルに頷いて、


「明日か・・・明後日、うん。明後日にしよう。あんた、生き返って良いぞ」



----------



 その頃、シルバー・プリンセス号では・・・


 ざばばばばば! ざばばばばば!


「ぶはっ・・・はあー・・・はあー・・・」


 マサヒデがもの凄い勢いでプールを往復していた。

 もう気温も下がってきて、流石に寒いと思うのだが。


 ずばばばばば! ずばばばばば!


「くっ・・・けはっ・・・ふうー・・・」


 イザベルも付き合って水飛沫を立てながらプールを往復している。

 真っ赤な顔で、はあはあと荒い息を立てる2人を見て、皆、呆れ顔。

 クレールが歩いて行って、


「マサヒデ様・・・そろそろ休憩しませんか・・・?」


「ふう・・・まだ始めたばかりですよ」


 プールの上ではサムが腕組をして、厳しい目で2人を見ている。

 マサヒデとイザベルは、元海軍のサムから泳ぎの指南を受けているのであった。

 サムが頷き、


「うむ、中々です。上がって10分休憩。次は潜水です」


「はい!」「は!」


 下帯一丁のマサヒデと、水着のイザベルが上がって来て、息を切らせてべったり座る。


「身体を休めながら聞いて下さい。少々鍛えていれば、4、5分は息を止めていられます。私の記録は6分19秒。ただ、これは何もせず止まっていればの話。泳げば半分も持ちません。潜水したまま2分泳げるようになって下さい。これは時間をかけて訓練するしかない」


 こくり、とマサヒデとイザベルが頷く。


「最後に着衣泳法を行いますので・・・」


 クレールがすぱすぱとサンダルを鳴らして戻って来る。

 シズクが、がりがりとりんごを齧りながら、


「楽しそうだねえー」


「きつそうです・・・」


「泳げるって羨ましいよ。私は泳げないもん」


 え、と意外そうな顔をクレールとラディが向ける。

 むむ、とシズクが2人を見て、


「何だよー。私は重いんだよー。仕方ないだろー」


 ラディが怪訝な顔で、


「もし水に落ちたらどうするんですか?」


「思いっ切りジャンプ。海の底じゃなきゃ大丈夫だと思うよ。川くらいなら平気」


「・・・」「・・・」


 にやっとシズクが笑って、


「鬼族は皆、川の底歩けるんだぞ! 凄いでしょ!」


「凄い・・・ですね」


 それは凄いが、全く羨ましくはない。


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