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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十一章 亡国の危機

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第107話


 翌日。


 カオルは町娘姿で、商店街の通りから外れた道を歩いていた。

 昨日のクレールの言葉。


『名探偵ですか?』


 探偵を雇うのも良い。優秀な者ならば、掴めない尻尾を掴める、かもしれない。

 だが、今の所、犯人は絞れていないが・・・おそらく軍関係者。上部。

 おそらく、でしかない。


 尻尾が掴めないというだけで、候補から外す事も出来ないかもしれない。そうなると、金の無駄遣いになってしまう。が、仕事ぶりを見てみても良い。

 仕事内容いかんでは、今後首都では世話になる事にもなろう。


(ここか)


 クボウ探偵事務所。

 優秀らしいが、中々に変わり者だそうな。

 呼び鈴の紐を引くと、中でからりん、と音がした。


「はーい!」


 女の声。

 男だそうだが、手伝いか。

 がちゃりとドアが開くと、獣人族の娘。


「こんにちは」


「こんにちはー!」


「ご相談に来たのですが」


「今ユウサク忙しいのー」


「待て待て待て待て! 待ちなさいよ!」


 ばたばたと中から背の高い男が出てくる。


(これが探偵?)


 目立って仕方ない格好だ。

 着ている黒いスーツ。赤いシャツ。どちらも上等。

 室内で黒眼鏡?


「あはは。ごめんなさいね」


 言いながら男が獣人族の娘をどかして、


「ささ、どうぞどうぞ」


「もー! ユウサクー!」


「こら! お仕事なんだから静かにしてなさい!」


 娘は拗ねた顔で「はーい」と、奥に引っ込んでいった。


「お邪魔でしたか」


「いやいやいや。こんな明るいうちゴホン! お客様は大歓迎ですから!」


 ぺこぺこ頭を下げ、男が入って行く。カオルも続いて入って行く。


(変わり者か)



----------



 机を挟んで、革張りのソファーに腰掛ける。


「あ、コーヒーなんか飲みます?」


「では頂きます」


「いや、私コーヒーには自信があるんですよ」


 男が立ち上がって奥に入って行く。

 カオルは、さささと室内に目を配る。罠や仕掛けの類はなさそうだ。

 あの探偵の立ち居振る舞い。武術の心得はありそうだが、武器の類は見当たらない。


「さあさあさあさあ」


 男が戻って来て、カオルの前にコーヒーを差し出す。


「失礼します」


 つ、と口に入れ、


「んぐふ!」


 一体このコーヒーは何だ!?

 えらく苦い。苦さを通り越し、何か変な甘みのようなものを感じ、口が痛い。あまりの味に身体が震える。

 が、毒の類は感じない・・・口がやられたので断言は出来ないが。


 震えながら口に入れた分を飲み込み、そっとソーサーにカップを戻す。


「中々でしょ? これ研究したんですよー」


「・・・結構な、お点前です」


「いやあ、あまり味が分かる人は居なくてですねえ」


 男の方はにこにこしながら、平気な顔でコーヒーを飲んでいる。

 どういう味覚をしているのか・・・

 部屋の向こうで、先程の獣人の女と別の女が、2人でこちらを見てくすくす笑っている。


「で、今回はどのようなご相談でしょうか」


 カオルが女2人を見て、


「お話しする前に。あのお二人は、助手であるとか?」


「友達です」


「「恋人ー!」」


「こら! てい! 黙りなさい!」


「「はーい」」


 ふう、とカオルが溜め息をつき、


「いやあ、すみませんねえ」


「出来れば、私達だけで。少々込み入ったお話です。おそらく、想像以上に」


「ああ、そうですか。まあまあ良くありますよ。込み入った話でなきゃ、探偵の所なんて来やしませんから」


 カオルは口に手を当て、女2人に聞こえないよう、


「政府関係者。もしくは軍関係者」


「あー・・・はいはいはい。そういうお話ですか・・・」


 男が女2人の方を向いて、


「ナミ! チエリ! ちょっと出ててくれる?」


「えー」


 男が女の所に行き、背を押して、


「すごく大事な話なの。ね、ね、外で待ってて。ね? 後で可愛がったげるから」


「今可愛がってよおー」


「お仕事の話だから。ね。ちゅちゅちゅー! んーまっ!」


 ドアを開けて女2人を押し出し、ばたんとドアを閉めて、窓の方に行き、ちら、ちら、と外を見て、さっとカーテンを閉める。

 男は黒眼鏡を外してポケットに入れ、カオルの前に戻って来て座り、


「すみませんねえ。あの2人、騒がしくて」


「いえ。構いません」


「改めて自己紹介。私、ユウサク=クボウ。探偵をしております、と」


 カオルが頭を下げ、


「・・・大変申し訳無いのですが、私、名乗る事を許されておりません。とある貴族にお仕えしております」


「ふーん・・・あそう。まあ良いです。政治家、貴族と来たら、名乗れないって人も大勢いますから。慣れてます。で、お仕えしてる貴族は聞いても良い?」


「レイシクラン」


 お、とクボウが少し驚き、


「ああ。レイシクランですか・・・うんうん・・・確かに込み入った話みたいですねえ、うん」


 腕を組んで、顎に手を当てる。


「話を聞くまで、引き受けられるかどうかは分からないですよ。だけども、聞いた以上は引き受けなきゃあならないって言うなら、帰ってくれますかね?」


「いえ。話の後、引き受ける、引き受けないは、ご随意に」


 むう、とクボウが顔をしかめて、ふう! と息をつき、


「正直言うと、今ので帰ってくれるのを期待してたんですけどね。ま。仕方ないから、お聞きしましょう」


 クボウが真面目な顔でカオルに向き直る。

 カオルが頷いて、


「先日、トミヤス様の内弟子が暗殺されたとのお話は」


「聞きましたとも」


「流石、お耳が早い」


 はあ、とクボウが溜め息をつき、窓の方を見て、


「外務大臣のミスジさん。何か急病になったとか? 昨日も城の魔術研究所で騒ぎがあったとか何とか・・・もしかして、その辺も関係してるって事?」


 魔術研究所はつい昨日の事ではないか。王宮内の事も、この男には聞こえているのだ。なるほど、優秀だという噂は嘘ではなさそうだ。


「如何にも」


「で、内弟子さんを暗殺した犯人は、その辺に関係してて? 犯人を探して欲しいとか、証拠を見つけて欲しいと」


「はい。物証は無くとも、犯人だと分かれば十分です」


「ああー・・・後はそっちで片付けます、という・・・そういう事で」


「はい」


 難しい顔で、クボウがうんうん、と頷く。

 カオルが返事を待っていると、がちゃりとドアが開いた。

 む、とドアの方を見ると、ぱ! とクボウが立ち上がり、


「こおら! クボウ!」


「ああこれはムラナカさん! ささ、どうぞどうぞ。コーヒーでも」


「お前のまずい珈琲なんぞいらん! まあた、お前はこんな明るいうちから女を連れ込んで・・・」


「いやいや、依頼人ですから、依頼人」


「依頼人!」


 ムラナカがカオルを見て、にやりと笑う。


「な、お嬢さん。こんな胡散臭い探偵に依頼なんかしちゃあいけないよ。ここには奉行所ってもんがあるんです」


 カオルの事を分かっていて言っている。中々の狸だ。


「・・・」


「クボウ! お前は奉行所の仕事をまた奪いおって。これは公務執行妨害! さあちょっとこっちに来なさい!」


「まままま、ムラナカさん、そろそろお昼の時間じゃありません? そういやあこないだ8丁目の辺りに美味しいパン屋が出来たって」


 す、とクボウがムラナカの袖に小さな紙包みを差し入れた。

 賄賂・・・


「お! ううむ、そうだそうだ。うんうん。何か腹が空いてきた。急にパンが食べたくなってきたぞお。む! クボウ君、そのパン屋、気になる! 実に気になる!」


「でしょう?」


「うんうん。良し! そのパン屋に行ってこようではないか!」


 ムラナカはちらっとカオルを見て、さっさとドアを開けて出て行った。

 ささ、とクボウがソファーに戻って来て、


「あの・・・」


「ごめんなさいね。あの人、いつもああやって邪魔しに来るんですよ。本当、どうしようもない腐り同心で」


 がちゃり。


「クボウ君。呼んだかね」


「私が? あなた、呼んだ?」


「いえ」


「空耳か。悪かったな」


 ばたん。

 はあー、とクボウが溜め息をついて、


「陰口には耳がきくんですよね、ああいう人達・・・や、でもね。あの人も昔は凄い腕利きってちょっと有名だったんですよ」


 腕利き? あのムラナカが? 昔から、昼行灯の汚職同心の顔をしていたのではないのか?


「あの方が? 先程、袖の下を」


 クボウが気不味い顔で、


「ああ、もう! 見つかっちゃってた? いや見てるよねえ。昔はこんな事はしなかったんですよ。上役が悪かったもんで、もう真面目に仕事しなくなっちゃって」


「上役が?」


 ううむ、とクボウが腕を組み、


「いくつ前のお奉行だったかなあ・・・まあこれが酷くて。当時、若年寄だった何とかって人と手え組んじゃっててね。冤罪で何人も。当時のムラナカさん真面目だったもんで、まあ散々利用されて振り回された挙げ句、命まで狙われたって事がね」


「そのような事が・・・」


「奉行所へどうぞなんて言ってたけど、あれ、本人が全く奉行所を信用してないの。あんなだけど、実は凄いのよ? 車道流の分派とか、何とか流とか、一剣流とか。全部で5つも剣術の免許状持ってるんだから。真面目にやってくれりゃあねえ」


「ええ!? そんな凄い剣客だったんですか!? あんな方が!?」


 5つも! まさに天才ではないか! 剣聖並ではないのか!?

 剣術となれば、体術、柔術なども含むから、大量の免許があるはずだ・・・

 以前見た時は分からなかったが、隠しても隠しきれない腕があるのだ。

 あの男を絶対に敵には回してはいけない!


「そーうなのよ! まあ、それだけの人をあんな風にしちゃうってさ、奉行所も奉行所だけどね」


「・・・」


 クボウが首を振って、


「話を戻しましょうかね。とりあえず、調べは調べますよ。成功報酬、レイシクランなら期待しちゃっても良いですよね?」


「ありがとうございます。では、こちら前金に」


 カオルが金貨を10枚、1枚ずつ順に置く。

 クボウが驚き、


「前金でこんなに!?」


「成功で更に100枚です」


「ふうん・・・気前の良い事ですなあ」


 一瞬は驚いたが、すぐにクボウは胡散臭そうに金貨を見つめる。


「何しろ、相手は政治家か貴族か、権力を持った者だとは分かっておりますし。クボウ様に危険が及ぶ事もあるかもしれないのです」


 クボウが渋い顔で目を逸らし、


「ですよねえ。経験上、気前の良い客からの仕事って請けない方が良い、って相場は決まってるんです」


「如何致しましょう。その辺りは良く承知しておりますので、別に断られても」


「ううん・・・ねえ? どうしましょうかねえ?」


「この前金を取り、請けて頂き、何もせずとも結構です。私共でも調べは致しておりますので」


「あ、そう? じゃあ請けます」


 カオルがにっこり笑い、


「我らより早く見つけられましたら、金貨100枚、しかと」


「連絡はあそこ? 港の白いでかい船?」


「はい。宜しくお願い致します」


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