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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十一章 亡国の危機

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第106話


 犯人は何をしようとしていたのだろう。

 マサヒデとクレールがベッドに寝転がっていると、こんこん、とドアがノックされた。


「開いてますよー」


 がちゃ。


「あっ」


 カオルが小さく頭を下げ、ドアを閉めた。


「入って来て下さいよー」


 そーっとドアが開き、カオルが気不味い顔で入って来て、


「お愉しみの所を・・・」


 む! とクレールが拗ねたような顔をして、寝転がったままカオルに顔を向け、


「違いますよ! 犯人の狙いを考えてるんです!」


「あ、左様で」


 よいしょ、とマサヒデが起き上がる。

 これだけで、ベッドがふわんふわんと揺れる。


「カオルさん、そこ座って下さい」


 と、マサヒデが隣のクレールのベッドを指差す。

 良いのか・・・?

 恐る恐る、カオルがベッドに座る。


「何か考えがあって来たんでしょう」


「は」


「教えて下さい」


「ダメ元で、民間に手を借りてみては、と」


 マサヒデが怪訝な顔をして、


「民間?」


 がば! とクレールが起き上がり、


「名探偵ですか!?」


 カオルが首を振って、


「いえ。殺し屋です」


「は!?」「はあーっ!?」


 マサヒデとクレールが声を上げる。


「かなり金も掛かりますし、相手の狙いも分からないまま終わりますが・・・少なくとも、我々が犯人に狙われる事はなくなります」


 こくん、とクレールが喉を鳴らし、


「その・・・殺し屋って、犯人が分かってるんですか?」


「目星はもうついているでしょう。そして、我々が迷走している事も」


「カオルさんの予想だと、誰で、何を狙っていると思います?」


「海軍大将、シキ=ハカヤマ。狙いは白露帝国か大中心国」


 マサヒデが目を細める。


「戦ですか」


「レイシクランとの仲が切れれば、もはやこの国の食糧事情は終わりも同然。同盟国の米衆連合に頼る事になりますが・・・そうなると、独立国家は看板だけの属国となります。それを避けるには土地が必要。農業改革には時間が掛かります。白露帝国か大中心国の土地を奪うのが簡単」


 マサヒデが首を傾げ、


「出来るんですか、それ? 両方とも、この日輪国より遥かに大きいですけど」


「出来ます。米衆連合も白露、大中心とは仲が悪い。攻めるとなれば、喜んで援軍を出します。そして、我が国の海軍は優秀です。白露、大中心は相手になりますまい。海軍を潰し、ある程度攻め込み、講和を持ち掛け、土地の割譲を条件に終戦。そのうちいくらかを米衆に渡します。米衆は大喜びでしょう」


 ううむ! とクレールが唸る。


「な、なるほど・・・米衆連合の前線基地が大陸に出来てしまう訳ですね」


「はい。我々は食糧事情の改善が出来、米衆連合は大陸への圧力が出来・・・食糧事情の改善を考えれば、狙いは大中心国ですね。白露では寒すぎます。農業には向きません。そして、シキ=ハカヤマは、以前から大陸攻めを意見しております」


「ふむ。聞けばありそうな話ではありますけど・・・疑問がひとつ」


「何でしょう」


「レイシクラン、クレールさんは分かります。マツさん、父上まで狙うのは何故」


 カオルが首を傾げ、


「その点、私も最初は疑問に思いましたが・・・あれは目眩ましです」


「目眩まし?」


「立ち会いのご様子の報告。カゲミツ様は掠りもせず、一瞬で終わってしまったと」


「らしいですね」


 カオルが指を立て、ぐっと身を前に出す。


「ここです。最初からカゲミツ様も奥方様マツも殺す気などなかったのでは? 日の高いうちに堂々と入って来て・・・キノト侯爵の仰る通り、それなら余程の達者が送られていなければおかしいです。余りにも簡単過ぎます。らしく見せるため、魔術の籠もった武器を用意したのでは?」


「ううむ」


「その程度の腕の者で本当に殺すつもりだったのであれば、何人もで闇討ちが正しいです。カゲミツ様が言うに、そこそこ腕があり、道場生にならぬかと誘われたが、カゲミツ様には遠く及ばぬ、という程度。そして、刺客自身もそれを自覚していた。あれは『殺す為』ではなく『死ぬ為』に雇われた者かと考えると・・・」


 む! とクレールが頷き、


「ううん、なるほどー! 狙いは最初から私1人だった! 他は目眩ましであったと! やけに弱い刺客だったのはそれでですか!」


「それ、キノト侯爵に相談してみましょうか・・・殺し屋なんてやめましょうよ」


 カオルは首を振り、


「一応、繋ぎはとっておきます。キノト侯爵でも尻尾が見えても掴めない、という事にもなり得ます。その際は・・・」


「・・・」



----------



 カオルが出て行き、マサヒデはアルマダの部屋へ。

 アルマダがソファーで開いていたのは、図書室から借りてきた過去の読売。


「どうしました、マサヒデさん。難しい顔をして」


「ううむ・・・ちょっと」


 アルマダの向かいに、マサヒデが座る。


「あのですね。カオルさんが・・・」


「む。何か掴んだんですか」


 マサヒデが首を振り、


「いえ。殺し屋を雇おうか、なんて言うんです」


「・・・は?」


 アルマダがぽかんと口を開け、読売を置く。


「犯人、予想は海軍大将のハカヤマ様じゃないかって」


「はあ・・・それを、殺し屋で?」


 こくん、とマサヒデが頷く。

 アルマダが呆れ顔で、


「出来ると思います? それ・・・殺すなら、ここにいる忍の皆さんでやった方が確実ですよ。もし犯人だったとしてもです。わざわざ殺しに行かなくても、何かでっち上げて捕えてもらった方が安全です。護送中や刑務所内で自殺。この方が楽です」


 自殺に見せかけて、というわけだ。

 殺すならそうやって・・・アルマダも中々・・・

 アルマダは肩を竦めて、


「ま、私も同じ事を考えてましたよ。社会情勢を見るに、軍が怪しいです。海軍か陸軍かは分からないですが」


 マサヒデが顔を上げ、


「え? 陸軍も?」


「ええ。どっちも戦争したくて仕方ないみたいですね。南方の群島地域。大中心国。白露帝国。どこかに進出すべきだって意見が」


 ばさりとアルマダが読売をテーブルに置く。

 『日輪国の軍備は世界一!』

 大きな見出し。


「ま、この見出しを見ての通り。読者への戦意高揚プロパガンダ・・・」


 ばさ、ばさ、ばさ、とアルマダが読売を置いていく。


「どの読売にも載ってます。海軍力、陸戦兵、魔術兵。確かにこの国は精鋭揃いだと思いますがね。戦は無理です」


「負けるんですか」


「大中心国や白露帝国にも負けはしませんが、勝てもしません。痛い目を見て手打ちにしましょうで終わります。で、どちらの国でも俺達が勝った! あいつらは卑怯者だ! というような報道が流れます。互いを敵視して、険悪な情勢で終わります」


「カオルさんが言うには、米衆連合の援軍とか」


「まあ来ますよ。大陸に前線基地を置きたいでしょう。米衆連合はそれで良いです。ですが、この国はどうなると思います? すぐお隣の大国に睨まれて過ごすんです。何年かしたら、大国ふたつに手を組まれます。その時が来たら、米衆連合、しっかり守ってくれますかね。東の海の遥か向こうですよ」


「・・・」


 アルマダがひらひら手を振って、


「こちらが戦っている間、のんびり軍備を整え、そろそろ行くか。おお、日輪国の領土は取られているな。では我らが取り返そう。戦後は米衆連合にいくつか分けてもらおう。これで大陸への大きな足がかりが増える・・・と、こうなります」


「そうなるんですか」


「ええ、間違いなく。米衆連合は、我々に戦争を始めてほしくて仕方ないんですよ。今の首都の情勢を見るに、放って置いても戦争が始まりそうです」


「そうなんですね・・・」


 アルマダが何とも言えない顔で首を振る。


「軍には戦の後が見えていない。だから、戦をしようと言ってもいつも議会に反対される。勝った。後は政治家に任せる。それじゃあ済まないんです。言っても分からない彼らは、国民の戦意高揚をして、攻めざるを得ない状況を作りたい」


「それでクレールさん」


「そういう事です。戦乱期も基本的に同じでしたよね。食わせられないなら、他国を攻めて土地を奪おうって」



----------



 そしてその夜―――


 カオルが浪人姿で水車小屋であぐらをかいて座っていた。

 戸や窓には薄く酒を吹きかけ、前に立つと酒の香りがするようにしてある。


 さす、さす、さす・・・


 誰かが近付いてくる。

 ふ、とカオルが蝋燭を吹き消した。

 本来なら蝋燭など点けはしないのだが、一応は素人っぽく見せねば。


 こん・・・こん・・・


「誰だ」


「落とし物だよ。あんた、絵馬忘れてないかい」


「・・・」


 すっとカオルが立ち上がり、戸の前に立つ。


「この戸は・・・開けぬ方が良かろうな」


「それが俺達の世界の礼儀なのさ。で、誰を」


「無礼を許してもらいたい。今夜は出来るかどうかだけを聞きたい」


「誰だ。試しに言ってみな」


「海軍大将、シキ=ハカヤマ」


「これはこれは、大きく出たな。ま、この仕事してりゃ身に沁みて分かってる。世の中で一番信頼ならねえのは、権力者と役人だ」


「出来るか。ムラナカ殿」


 ぴん! と空気が変わった。


「誰かと間違えてやしねえかい」


「失敬。人違いか。そなたの声、ムラナカなる同心の声と似ておったものでな」


「似てるだけさ。あんたの声も誰かに似てるな。ありゃあ確か海の上で・・・な」


 やはりムラナカもカオルに気付いていた。似た者同士なのだ。


「残念ながら船幽霊にはなれずにな。お互い・・・知らぬが仏かな。今度こそ船幽霊になるやもしれぬ。で、出来るか」


「あんたで始末出来ねえなら、高いぜ」


「やれぬ事はないが、私も一応は役人でな。制約というものがある」


「ははは。役人か。こりゃまた信用出来ねえ」


「ふふ。あなたもな。そもそも、あなた方を雇おうとする者に、信用はあるかな。で、いくらか」


「前払いで金2000枚」


「結構。金は用意出来る。試すような口を聞いた無礼を許してくれ」


 カオルが窓を小さく開け、小袋を差し出す。


「礼を失した詫びだ」


 はん、と外の男が小さく笑い、


「気い使ってもらって悪いが、金をもらう時は、仕事の時だけって決めてるのさ」


 窓の隙間から、絵馬が差し出された。


「また落とし物でもするんだな。必要なら、な」


 カオルが受け取ると、外の男は歩いていった。


「・・・」


 小屋の外の気配を確認して、そっとカオルが狭い水車小屋の真ん中に戻る。


 名を出したのは早まったか?

 しかし、今回は知っている、と知らせておいた方が良い・・・と、思う。


 失敗したなら、今後あの者を敵に回す事になるが、殺し屋を使う事になるなら、どうせ危険はついてまわる。監視は以前に船に来た時につけてある。敵に回るなら、こちらが殺すのみ。


 だが、あの男を斬る事が、安々と出来るか。


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