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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十一章 亡国の危機

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第103話


 車道流道場には、キョウイチは居なかった。

 弟のオクマツが言うには「今日は王宮魔術師のお勉強だよ」とのこと。


 というわけで、急いで御側御用取次役のオカに連絡し、クレールの視察という名目で王宮の魔術研究所へ訪問する事となった。マサヒデは護衛、メイド姿のカオルは世話役、といった感じ。勿論、カオルの事は情報省から城内の忍には通達済み。


「ふわあ・・・」


 廊下を歩きながら、マサヒデがつまらなそうに欠伸をする。

 クレールがむっとして、


「さっきから欠伸ばっかり!」


「いや、何か刺激がないというか・・・静かで」


 廊下から広い中庭。

 四方に騎士が立っており、長椅子には生徒が座って何やらおしゃべりをしている者、読んだり書いたりしている者、昼寝している者。


「ん」


 マサヒデが足を止めて、中庭をじっと見る。


「どうなさいました?」


「ううむ・・・マツさんが呪いの鎧とやり合ったのって、ここですかね」


「ああ。おそらくここでは」


 呪われた鎧を着ていた者は、鎧の中で肉片になっていたそうな・・・

 想像して、何か嫌な気分になり、マサヒデは歩き出した。

 クレールが立っている騎士に、


「失礼します。陰陽術の授業棟はどこでしょうか」


「授業棟? ・・・ああ、陰陽寮ですね。この先です」


「ありがとうございます」


 クレールが綺麗に会釈して、マサヒデ達も軽く頭を下げる。

 静かな廊下を歩いて行くと、ドアの隙間から小さく声が聞こえてくる。


「お勉強ー、お勉強ー」


「しっ!」「ご主人様。お静かに」


 マサヒデがぴたりと足を止め、歩いて来た後ろを見て、まだ先に続く廊下の向こうを見て、


「たくさん部屋が並んでますけど、キョウイチさんはどこに居るんです」


「・・・」「・・・」


「私達、視察の名目で来てるんですから、適当に押し入ってキョウイチ=ニシムラはどこだって聞くわけにもいかないでしょう。どうするんです」


「・・・」「・・・」


「あ、押し入るだけなら良いですか。視察ですし・・・一部屋ずつ見て回りますか。ささっと見てキョウイチさん居ない、じゃ別の所に・・・これじゃ視察っぽくないですね。どうしましょう」


「ど、どうしましょう・・・」


 む、とカオルが頷いて、


「キョウイチ様は特待生。陰陽博士か使部じぶに聞くのが早いでしょう」


「陰陽博士? 何か凄そうですね。じぶって何です」


「いわゆる庶務の方です。博士は教師、先生の事です。昔は定員1名でしたが、現在は数も増えました。研究員もこれに含まれます」


「え? 先生1人で教えてたんですか?」


 カオルが頷き、


「昔は陰陽術は限られた者にしか教えられませんでしたので、非常に狭き門でした。生徒は20人も居なかったそうで。今もそう広く教えられているとは言えません。昔より多少人数が増えた、という程度です」


「へえ」

「ほえー・・・」


「忍の術と似ています。市販の本で学べる事はほんの触りの一部です。まともに学ぶには、ここに来るしかないのですが、資質は当然、教養も求められます。ここで授業を受けられるのは、言葉通りの、まさにエリートです」


 うんうん、とクレールが頷き、


「魔術と違って、陰陽は非常に技術的なものですからね。頭は良くないと、とても出来ませんよね」


 ふ、とマサヒデが苦笑して、


「さりげなく自分は頭良いって言ってますね」


「ふふーん! さ、使部の方を探しましょう」


 かつかつかつ・・・

 すたすたすた・・・

 クレールはヒールを鳴らしながら、マサヒデは草鞋を鳴らしながら歩いて行く。カオルの足音はしない。


「随分奥まで来ましたけど、廊下、誰も居ないですね」


「ううん・・・」


 は、とマサヒデが小さな溜め息を吐き、


「奥の方は偉い人が居るって決まってるんです。入口の方に戻って、適当な部屋に入りましょうよ」


「そうしましょうか」


 かつかつかつ・・・

 すたすたすた・・・


「ん」


 ざわざわと声が聞こえ、がちゃがちゃとドアが開いて人が出て来た。


「お勉強は終了ですか」


 マサヒデ達は廊下の隅にどいて、出てくる生徒達を眺める。

 生徒たちも、ちらちらとマサヒデ達を見る。

 年嵩の者が出て来て、ん、とマサヒデ達を見て、歩いて来た。


「何か御用でしょうか・・・」


 怪訝な目でマサヒデ達を眺める。

 ドレスを着た若い娘。

 側に居る世話役らしきメイド。

 刀を差した男。

 どう見ても貴族と護衛。


「見学に参りました。私、クレール=フォン=レイシクラン」


 クレールが名乗って、優雅に礼をする。

 おっ!? と男が一瞬うろたえ、頭を下げる。


「これはこれは・・・貴方様が。お初にお目に掛かります。私はサカタと申します。陰陽博士で。ここで生徒を教えております。もしかして、そちらがトミヤス様?」


 ん、とマサヒデが軽く頭を下げ、


「マサヒデ=トミヤスです」


「おおっ! お噂はかねがね。この所、読売に何度も名前が」


「いやあ・・・あまり名が売れるのは、正直に言うと嫌なんですが。今日はクレールさんの護衛みたいなものです。私、魔術とかはからきしなもので」


「いやいや、足を運んで頂けただけでもありがたく。どうぞ、次の授業にご参加なさって下さい」


「ありがとうございます!」


 クレールとマサヒデが喋っている間、カオルは廊下を歩く生徒達に油断なく目を配っている。


「授業はどんな事を・・・」

「次の授業は・・・」

「生徒さん達は・・・」


 クレールと陰陽博士が喋っている間、マサヒデとカオルは廊下を見ていたが、もう人は途切れたのにキョウイチが出てこない。

 カオルが目配せするとマサヒデが頷き、


「失礼。キョウイチ=ニシムラっていう人、居ます?」


「おりますよ。彼が何か」


「いやあ、実は先日、車道流の道場で凄い腕利きだって聞いたんですよ。しかも陰陽術まで勉強してて、ヤナギ先生もご自慢だとか。一度会ってみたいなあと」


 陰陽博士がにこりと笑って頷き、


「いつも通りなら、まだ教室に居るでしょう。彼は食事とトイレ以外、ほとんど休みを取らないんですよ。休み時間もずっとペンを走らせています」


「へえ!」


「道場でも同じなんでしょうね。凄い努力家です」


 マサヒデが陰陽博士が出て来た部屋を指差し、


「あの教室?」


「そうですよ」


「ありがとうございます」


 マサヒデが頷いて、教室に入って行く。

 クレールとカオルも頭を下げ、マサヒデに続いて入って行った。



----------



 キョウイチは眉を寄せ、後ろの席でノートを2冊並べ、見比べては何か書いてペンを走らせ、ペンを止めては何か難しい顔で何か見比べて、と繰り返している。

 クレールがマサヒデの袖を引き、口に手を当て、


(凄く集中してますね)


(話し掛けるのがちょっと)


(ご主人様。悠長な事を言っている場合ではありません。急ぎです)


(分かってますけどね・・・)


 ゆっくりとキョウイチの側に歩いて行く。机の隣に来た所で、やっとキョウイチが顔を上げ、


「あっ・・・クレール様、トミヤス殿」


「邪魔してすみません。急いでお聞きしたい事が。人の命に関わる事です」


「む」


 キョウイチがペンを置き、


「何でしょう」


「実は、とある重要人物の姿が複数で同時に確認出来ています。それも、忍ではないです。そして、どれも本物と見分けがつきません。一流の忍が見ても、キノト侯爵程の達人が見ても、違いが分からない」


「ふむ」


「これ、式神って考えられます? 式神って、意識を持った物を作れるんですよね。そっくりの人形を作れば、皆同じような意識を持つとか」


 キョウイチが難しい顔で頷く。


「出来ますが、相当です。まず、動物などと違って簡単に死霊術のように呼び出せる物ではない。人形が必要です。さらに、人間と分からないくらいの独自の意思を持たせるのは相当の腕利き。ここもほとんど本能と瞬間の判断で動く動物とは違います」


「ほう」


「しかし、見分けのつかないような人形を用意するのがまた大変。次に、上位式神・・・意識を持った式神で、人と同じ大きさだと、これまた作るのに大変です。金も時間も掛かります」


「なるほど。では、時間や金云々を置いておいて、腕利きなら出来ると」


「例え超腕利きで、ささっと式神を作れる者であっても、人形を用意するのには相当な時間が掛かるはず。かなり前から準備していたと見て間違いないでしょう」


「ふうむ・・・それ程の陰陽師、心当たりはありますか?」


「ツチカド様に尋ねてみましょう。陰陽頭です。この時間なら部屋におられるはず」


 ささ、とキョウイチがノートを閉じ、鞄に入れて、椅子から立ち上がる。


「ご案内します」



----------



 廊下を奥の方まで歩いて行き、突き当りのドアの近くで、は! とカオルが表情を変えた。


「皆様、お待ち下さい」


「どう・・・」


 言いかけて、ぴた、とマサヒデも止まって、眉をひそめた。まさか・・・


「血だ」


 ささ! とカオルが前に出て、前掛けの下からナイフを出し、広い廊下の隅々に目を配る。いきなりナイフを出したカオルに、うっとキョウイチが驚き、


「あなたは」


「し! 今はお静かに・・・ついて来て下さい」


 カオルを先頭に歩いて行くと、はっきりと血の臭いが漂ってきた。

 カオルが突き当りのドアを指差し、キョウイチを見ると、キョウイチが頷く。

 あれがツチカドの部屋。


「・・・」


 カオルがドアの横の壁にしゃがんで張り付く。

 マサヒデがすらりと脇差を抜く。

 クレールが蜂を大量に出す。

 マサヒデが下がるようキョウイチに手で合図すると、キョウイチも頷き、懐から札を取り出す。


 こん、こん・・・


 カオルがノックするも、返事なし。


 かちゃり・・・鍵は開いている。

 少し開けると、むわっと強い血の臭いが廊下に出てきた。

 カオルが覗き込んで「ち!」と舌打ちをした。

 ナイフの柄で、くっとドアを押すと、大きな血溜まりの中にツチカドが転がっているのが見えた。


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