第102話
城門前。
キノトの馬車ががらがらと出て来ると、門番が前に出て来て、
「キノト侯爵ー! しばしお待ちを!」
馬車が止まり、キノトお付きの騎士が出てくる。
「何用であろうか」
「使いが参っております。レイシクラン様から」
門番が手を出した方を見ると、メイドが頭を下げた。
クレールの側用人か、世話役であろうか。
「む、承知した」
騎士が馬を下り、メイドの方に歩いて行く。
「レイシクラン様の使いと聞いたが、手紙か?」
「は。こちらをキノト侯爵へ」
メイドが差し出した手紙を騎士が受け取り、
「うむ。この場で読んでもらった方が良いか」
「吉報ですので、出来れば」
「返事は」
「特に必要はございませんが、何かお言葉を頂けるのでしたら」
「承知した。しばし待たれよ」
騎士が頷いて、馬車へ歩いて行く。
ドアが開いて、キノトが顔を出し、
「どうしたい」
「レイシクラン様から、報せを受けました」
う、とキノトが気不味い顔をして、メイドを見る。
「キノト様、吉報だそうですが。出来ればこの場で、急ぎ読んで頂きたいと」
「吉報? 急ぎで?」
怪訝な顔で、騎士に差し出された手紙を受け取り、キノトが馬車に引っ込む。
封を開け、ぱらりと手紙を開く。
トミヤス道場への刺客、返り討ち・・・返り討ち!
ぐ! とキノトが拳を握る。これでしばらくトミヤス道場の方は安心。
「おおっ! さすが剣聖! こりゃ吉報だ! なるほどなるほど。魔術の武器を持って来たと。流石に剣聖を相手に出来る程の奴は雇えなかったか。魔術の武器を持たせたか・・・こっちを洗った方が良いかな」
マツは警戒の為、しばらくはトミヤス道場に滞在。
「うんうん。しばらくは安全と」
クラヨシの居場所、複数あり。影武者多し。
その後に、幾つも場所が書かれている。
大きな貴族や有力政治家、軍人ばかり。これは他にもありそうだ。
忍では入り込めても連れ出せない所もあるので、手助けを願いたい・・・
「はーん。影武者ときたか・・・やりやがるな。ふうん・・・」
文箱を開けて、さらさらと返事を書き、封筒に入れ、かちゃりとドアを開けて、
「おーい! そこのメイドさーん!」
にこにこしながらキノトが手を振ると、メイドが頭を下げ、つかつかと歩いて来た。
は! とキノトの笑顔が一瞬固まる。
このメイド・・・
「うんうん、こりゃあ吉報だった! これ、返事な。レイシクラン様に宜しく」
「はい」
メイドが頭を下げ、ポケットに封筒を入れる。
「あ、そうそう。確認しておきたい事があるんだけどさ。ちょっと。ちょっとこっち。内密な事だから」
キノトが手を招き、馬車から離れて行く。離れた所でちらちら周りを見て、口に手を当て、
「あんた、死んだんじゃねえのか」
にやりとメイドが笑う。
「そのようにして頂きました。片付くまではこのまま」
「あっ、あんたなあ!」
し、とメイドに扮したカオルが口に指を当てる。
ちっ! とキノトが舌打ちして、
「・・・あんたのせいで、俺や陛下が真っ青になってる所、笑って見てたって?」
「まさか。ここまでの大事となるとは思いもよらず。最初は殺したと見せて犯人を油断させるつもりでしたが、まさかミスジ様とは。このような事態になり、生き返るわけにも参らず」
「恨むぞ」
「ですので、クレール様はご実家には連絡など致しません。その点はご安心を。ですが・・・政に携わる者が我らに刺客を送ったという事実は変わりません」
むう、とキノトが苦い顔をして、
「まあ、そうだよ・・・悪いのは俺らの方だよ」
「陛下には、レイシクランの事は今の所はご安心をと。先はどうなるかまだですが」
「分かってるよ。それと、すぐに情報省と軍の諜報部で都内を調べ始めるからな。都内は忍だらけになる。変な所で見つかって斬られないように気を付けろ。この手紙の中にあるやつは全部とっ捕まえるが、新しく見つかったら教えてくれ」
「はい」
「それと・・・ううん・・・」
キノトが腕を組んで、難しい顔で黙り込んでしまった。
「何か?」
「この影武者なあ・・・多すぎるぞ」
「お疑いで」
「いや、そうじゃない。相手、忍だと思うか。だよな」
「おそらく」
「情報省か軍だと思うか」
「違うと思います。であれば、私は本当に死んでおります」
「ううん・・・実は、今、城でクラヨシ様に会ってきた」
「城内にも・・・」
「あれは忍じゃねえなあ。で、クラヨシ様はしばらく城から出てない。歌会にも行ってない。それは陛下もオカさんも確認してる。門番もきっちり出入りは見てるからな。仮に忍だとしても、城内からバレずに出られるわけねえから、嘘じゃあねえ」
「はい」
キノトが指を立て、
「しかしだ。ミスジさんの歌会に出てたやつは、見事に歌を詠んだって言ってたな。ミスジさんの目だけじゃねえ。歌会には、他にも一級の歌詠みが集まる。全員誤魔化せると思うか」
「ううん・・・」
「ミスジさんの歌会って、連歌会だぞ。誰かが上の句作って、合わせて下の句作るってやつだ。先に準備出来るもんじゃあねえ。じゃあ、一体誰が出てたんだ? 影武者に出来る事じゃねえぞ。でも、城にいるクラヨシ様は、俺には本物に見えた。だが、出てない。どういう事だ」
「あ! そもそもミスジ様が偽物であった?」
む、とキノトがカオルを見て、
「俺がそれを見逃すと思うってか」
これは失言。カオルが肩をすぼめ、
「あ、いえ。そのようなつもりは・・・失礼しました」
ふん、とキノトが鼻を鳴らし、
「今、ミスジさんは病気療養って名目で自宅謹慎してる。情報省の一級の忍に囲まれてだ。その忍が、ミスジさんが偽物だって見逃すと思うか?」
「考えられません」
「て事はだ。やっぱり、歌会に出てたクラヨシ様が偽物だったって事だが・・・」
「ううん・・・」
キノトが首を振り、
「駄目だな。このからくりを解くにゃあ、全員とっ捕まえるしかねえ。よし、取り敢えずあんたらが見つけた潜伏先と、レイシクランはひとまずは安心と伝えてくる。しばらく大人しくしてろよ。外に出る時は必ずどこへ行くと船員さんに伝えて、そこ以外には行かないでくれ」
「は」
「何かあったら連絡するからな。じゃ、またな」
「失礼致します」
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シルバー・プリンセス号、マサヒデとクレールの部屋。
「というわけでして・・・」
マサヒデが腕を組んで首を傾げる。
「ふうん。本物は出てないのに、本物がミスジ様の歌会に出てた? わけ分からないですね」
「私が思いますに、死霊術や陰陽術の式神のようなもので、何と言いますか・・・分身など作れるか、と」
「ああー・・・なるほど」
マサヒデとカオルがクレールを見る。
クレールは首を振り、
「死霊術では無理です。死んだものを呼び出す技術ですから。でも、式神はどうでしょうか。自意識を持った物を作れますから・・・例えば、クラヨシ様そっくりの人形を作ったりしたら、クラヨシ様と変わらない意識を持った物が作れるんでしょうか・・・」
「キョウイチさんに聞いてみますか。しかし、それが出来ても疑問がひとつ」
「何でしょう」
「もし、そういう式神が出来たとしてです。クラヨシ様って、魔族と融和的な考えを持つ方では? ならば、出来上がったクラヨシ様そっくりの式神がクラヨシ様と同じような考えを持つとしたらですよ。私とクレールさんを狙いますかね」
「む! 確かに!」「ううん・・・」
クレールもカオルも腕を組んだが、あ、とマサヒデが手を叩く。
「ああ! 大事な事を忘れてました。そりゃあ普通に狙いますよ。ははは」
「え?」「は?」
苦笑いするマサヒデを、クレールとカオルが見る。
「だって、式神って作った人の言う事を聞くんですから。自分の考えを持って、それで判断して、主人が命じた目標を達するんですよね。別に融和的な考えの人の式神だって関係ないんですよ」
「あ! そうでした!」
「流石はご主人様です!」




