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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河


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第10話


 その頃、とある道場―――


 新人の型稽古を見て、高弟が怒鳴る。


「おめえはもっと素振り! しばらく素振りだけだ! 振り方からなってねえ!」


「はい!」


 ぶん! ぶん! ぶん! ぶん!

 高弟が戻って来る。


「・・・」


 じー・・・

 ぶん! ぶん! ぶん! ぶん!


「なんで素振りばっかやってんだよ!」


「は?」


 呆けた顔で新人が手を止めて、高弟の方を向く。


「言われた事しかしねえ奴はいらねえんだよ!」


「あの・・・先程、振り方すらなっておらぬゆえ、しばらく素振りだけとご注意を頂きましたが」


「お前は本当に分かってねえな!」


「はあ・・・」


「はあじゃねえんだ! すっとろい返事しやがって!」


「ああ! まず素振りの仕方すらなっておらぬのでしょうか」


 かーっと高弟が顔を赤くして、


「馬鹿か! おめえは! 本っ当ーに! 分からねえ奴だな!」


「・・・」


「言われる前に他の事もやれってんだよ!」


「あの・・・では、型稽古の続きをしても」


「おめえは基礎も出来てねえだろうが! 素振りだ! まず素振りだけやって基礎を固めろっつったろーが!」


 どうしたら良いのだろうか・・・新人が困惑した顔で真っ赤な顔の高弟を見つめる。


「基礎が出来てねえのに他に手え出して変な癖ついたらとんでもねえ事になんだ! とんでもねえんだ! 直すにどんだけ掛かると思ってんだ! とんでもねえぞ! もう駄目! 剣術は全部駄目になるんだ! 全部だ! ぜーんぶパアだ! パア!」


 それはないと思うが、ここは言わない方が良さそうだ。


「・・・申し訳ありません」


「ったく、言われた事しかやらねえ奴はいらねえんだ! 少しは頭使えってんだ! 何回言っても分かりゃしねえ! おめえは馬鹿か!」


 これは何とか宥めねば・・・


「ああ・・・ええと、私は幼い頃から頭が空っぽだとよく馬鹿にされまして。分かりが悪くて、申し訳ありません」


「ふん! 自分で分かってりゃ世話ねえな! じゃあその空っぽの頭で少しでも良いから他の事もして上達しようって考えてみろ!」


「はい・・・では、型稽古を」


 だんだんだん! 高弟が足を踏み鳴らす。


「まずは基礎だっつったろおが!」


「私は他の事をしても良いのですか? 素振りだけなのですか?」


「まーずーはー! 基ー礎ーをー! かーたーめーるーの! 分かったか!」


「はい。では素振りをしております」


「それでいいんだよ! たく! どーして新人は馬鹿ばっかなんだ!」


 ぶん! ぶん! ぶん! ぶん!

 一回りして、高弟が戻って来る。


「・・・」


 じー・・・

 ぶん! ぶん! ぶん! ぶん!


「お前はなんで素振りばっかやってんだよ!」


「・・・申し訳ありません・・・」


「言われた事しかやらねえ奴はいらねえっつったろーが! おめえは破門にされてえのか!? 馬鹿か!? 馬鹿なのか!?」


「先程、素振りをして、まずは基礎を固めろと・・・」


「今! 言われた事しかやらねえ奴はいらねえっつったろーがッ! 聞こえなかったのか!?」


「されども」


「されどもじゃねえ! ちったあ他の事もしようって気にならねえのか!? 言われなきゃやらねえのか!? そんなのは車道流にはいらねえんだ! 何して良いのか分からねえならまず俺に聞け!」


 ちらりと高弟の向こうから、門弟達が首を振っているのが見えた。

 肩を竦めて苦笑している者もいる。

 新人は気を付けをして頭を下げ、


「は。大変申し訳ありませんでした。何卒、私めにお教えを願えませんでしょうか」


 び! び! と高弟が新人を指差し、


「自分の頭で考えろ! おめえ1人だけ見てるわけにゃいかねえだろーがッ! 周り見てみろ! 何人いると思ってんだ! 見えるだろうが!」


 聞けと言われて聞いてみたが、自分の頭で考えろと言われてしまった。

 言われた事だけやれと言われ、それをやっていれば言われずとも他をやれと言う。

 この人は一体何を言っているのだ?


「は! されば私めはまだ入って間もない素人。素振りを」


「だーかーらー! お前はほんっとおーに分からねえ奴だな!」


「申し訳ございません。されば組太刀」


「馬鹿野郎! 基礎の基礎が出来てねえ奴が・・・」


 一体どうしたら良いのか・・・ちらりと高弟の向こうの門弟を見ると、苦笑して首を振り、ぺこ、ぺこ、と小さく頭を下げて頷く。適当に謝っておけば良いのか。


「誠に申し訳ございません」


「ちったあ分かったのか! 本当に分かったのか!?」


「は。私のような新人にまでお言葉を掛けて頂き、ありがたく存じます」


「ならいいんだよ! しっかり基礎を固めろ! まずは素振り! 他の事はするな! たく、わざわざ教えてやってるのに言われた事しかしやがらねえ・・・」


 高弟がぶつぶつ言いながら去って行った後、新人は隣の門弟に困惑した顔を向け、


「言われた事だけをしていてはいけない、されども他の事はするな、分からなければ聞けと言われて尋ねてみれば自分で考えろ。私は一体どうしたら良いのでしょうか」


 門弟は肩を竦め、


「とにかく頭を下げておけば良いのです。ではこうします、と自分の意見を言ってはいけません。先程こう言いました、と言ってもいけません。頭を下げるだけ。あのような方以外の教えだけ聞けば宜しい。他にも何人もおりますから気を付けて下さい」


「はあ・・・高弟の方ですが、それで良いのでしょうか」


「はい。それで良いのです。他の方にはこう教えられました、は禁句です。ヤナギ先生にこう教えられました、だけは大丈夫です。謝るだけでなく、私には分かりませんでした、流石ですとか言って、褒め殺しするのも良いです。その時は実に関心しました、という顔を上手く作るのを忘れずに」


「分かりました」


 ふ、と門弟が苦笑いして、


「あのような方を上手く受け流すのも修行のうちです。車道流は心が大事とは、まさにこの事ですね。あ、先程の最後のお礼は素晴らしかったですよ」


 向こうで怒鳴り散らす高弟を見て、門弟が溜め息をつく。


「実際に腕が立つ上に上級貴族なので、宗家もやむなく高弟にしたのですが・・・あれは心の鍛錬の相手だと思って下さい。皆も分かっています。別に言う事を聞かなくてもいいです。自分が悪くなくても取り敢えず謝り、全く仰る通りです、で結構。そして適当に褒め殺し、深くお礼を言って、良い気分にさせれば去って行きます」


「ありがとうございます。まさしく心の鍛錬ですね」


「級が上がった時などは、お教えのお陰ですとお礼を言っておくと尚良いです。とにかく常に気分良くさせておくのです。そうすると叱られなくなり、全く上達してなくても目に見えて良くなった、とかやたら褒めてきます」


「それはいわゆる幇間稽古というものでは?」


「皆さん、反面教師と分かっております」


「反面教師・・・」


「ああいう方が機嫌良く褒めてきた時は上達していません。ですが、褒められたら喜んだ顔でお教えのお陰ですは忘れずに。お叱りもお褒めもなるほど流石、と心から関心した顔で頷いて聞き流し、まともな方のお教えだけ心掛けて下さい」


「分かりました。ありがとうございます」


「試しにまた来たらすぐ素振りをやめて、お教えのお陰で分かりました、とお礼を言ってみなさい。きっと振りが良くなった、とか褒めてくれますから」


「はい」


 ぶん! ぶん! ぶん! ぶん!

 高弟が戻って来る。


「・・・」


 ぶん!

 新人が素振りをぴたりとやめ、高弟に頭を下げる。


「先程はお叱りをありがとうございました! ご丁寧にお教え下さり感謝します! 私のような素人でもやっと分かりました!」


 目に見えて高弟の顔が明るくなり、


「そうか! やっと分かったか! うんうん、何か急に振りが良くなったから、おっかしいなあーと思ったんだよ!」


「先輩のお陰です! 感謝致します!」


「それで良いんだよ! よし! もうちょい振ってみろ!」


「はい!」


 ぶん! ぶん! ぶん!


「おお、お前、やっぱ急に良くなってるな! 才があるわ!」


 新人はすごく嬉しそうな顔をして、


「いえ! 先輩のお教えをそのまま! 先輩のご慧眼とお教えで急に振りが変わり、ずぶの素人の私がここまでと、自分でも驚くばかりです!」


「そうかそうか! いや、違う。お前には元々才があるんだ。だが、変な稽古でその才を潰さないように気を付けて稽古しろよ。俺が見ててやるからな」


「はい! 今後ともご教授を願います!」


「よし! そのまま素振り続けてろ!」


 高弟がにこにこしながら去って行く。

 新人が隣の門弟に顔を向ける


「言った通りでしょう」


「はい」


「こういうの、逆幇間稽古って私達は呼んでます」


「逆幇間稽古?」


 くす、と門弟が笑って、


「教えられる側がやたら褒めるからです」


「ぷ」


「さ、笑わずに真剣な顔を作って。次に来たら、適当にどうでしょうか、とか言ってみなさい。極々稀にまともな教えをくれる事がありますから、何か覚えていたらヤナギ先生やまともな高弟の方々に尋ねてみると良いです。覚えていたらで構いませんよ。聞き流して全く問題ないです。まともな高弟の方が普通に教えてくれる事しかないです」


「ぷ、ぷ・・・」


 む、と高弟が戻って来る。


「何笑ってやがる」


「あ、先輩! 先輩のお教えで、自分の振りの変わりに驚いてしまって、嬉しくて、どうしても笑いがこみ上げてきてしまうんです!」


「はっはっは! そうか! それじゃ仕方ねえな! あんなに急に変わっちまったもんな!」


「先輩、ちょっと見てもらえませんか。一言で良いのです。先輩の教えがもっと欲しいのですが、ほんの一時、お時間を」


「よし。構えてみろ。基本の正眼」


「はい!」


 じー・・・


「もうちょい右足下げてな。半身にちょい崩すくらい。切っ先はな、右目につけるくらいにするんだ」


「右目に・・・こうですか?」


「そうそう。それがうちの正眼なんだ。左前の半身で、切っ先が右目。新人は思い込みで真っ直ぐ喉元とか水平にしちまうけど、身体の構造的にこれが自然だ」


「なるほど! 構えひとつでも深いですね! これが自然なのか・・・流石です!」


「だろ? 車道流ってすげえだろ」


「いや、これを気付かせてくれた先輩が凄いです」


「それは褒めすぎっつーの。こんなの基本なんだから」


「なるほど・・・こう、こう、うん、こっちの方が自然ですね。何と言うか・・・収まる気が・・・うん、収まりますよ! 凄いです!」


「だろ?」


「ああ、やはり私は基本もなっていなかったのですね。先輩の仰られた通りでした」


「そうだ。でも、ちょこーっと教えただけでぐーんと良くなったろ! お前、才があるぜ!」


 新人はがっくりと肩を落とし、


「いえ。自分で分かっております。私に才など全くありません。私には先輩のお教えだけなのです」


 ばん! と高弟が新人の肩を叩き、


「何言ってやがる。まだまだ始めたてじゃねえか。そう気を落とすな。お前にゃ才があるんだって。よし、素振り続けてろ。構え崩さねえように気を付けてな」


「はい! 頑張ります!」


 高弟が去って行く。

 新人が門弟の方を向いて、


「今の、正しい構え方ですか?」


「はい。あの人がまともな教え方するなんて珍しいですね。運が良いですよ。帰り道、瓦が落ちてこないよう気を付けて下さい。あと、あの人の言う才はおだての才です」


「ぷっ・・・」


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