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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

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第96話 エンドロール

最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編


 白キ戦艦に一時帰還してから四十八時間が経過していた。

 艦内のブリーフィングルームには、戦闘の疲労を抱えながらも、誰もが緊張感を忘れてはいなかった。円卓の中央で、イリナが淡々と端末を叩く。その指先が奏でるリズムは、張り詰めた空気の中で唯一の音だった。


「宙域周辺、星内環境、結晶体反応、生命反応……」

 イリナの声音は冷静でありながら、慎重さに満ちていた。彼女が示す映像データには、ノワリクトの星の断面が映し出されている。焼け焦げ、抉り取られた大地。だが、そこにすべてが失われたわけではない。


「膨大なエネルギーによって削り取られた部分は、ノワリクト星内の約半分程度でしょう。ですが――」


イリナは区切りを置き、言葉を慎重に選ぶように続けた。


「その他の場所には、まだ自然も、動物の反応も、生体反応も感知できています」


「本当か!」

 弾かれたように声を上げたのはコルトだった。その瞳に浮かんだのは、安堵の色。


「ええ」イリナが頷く。


「削り取られた大地は、もともと人の居住区域は少なく、ノワリクトの街の人々は強制労働として別の地域に収監されていたようです。……ですから、実質的に民へ大きな被害は及んでいないと見てよいでしょう」


 だが、その場に流れる空気が一瞬揺らいだ。


「……多少の犠牲は出してしまった、か……」

 よろめくようにブリーフィングルームへ姿を現したのは、全身を包帯に巻かれたラークラだった。その姿は痛々しかったが、瞳だけは強い光を宿している。


「おい、お前はまだ安静にしてろって言っただろ!」コルトが怒鳴る。


「……いや、私は生きている。ならば、今回の件で犠牲になった者たちに対し、ノワリクトの銀河政府として誠心誠意、償わねばならない」

 掠れた声が、静けさをさらに濃くする。


「ノワリクト政府として、お前はこの半壊した星をどうしていくつもりなんだ?」

 問いを投げかけたのはミルトだった。


「……分からない。ただ、民のために尽力はしていくつもりだ」

 ラークラは迷いを隠さず、しかし誠実に言葉を吐き出した。


 そのとき、低く落ち着いた声が割って入った。


「結晶体の力だが……」

 ヒューベルトが口を開いた瞬間、視線が一斉に彼へ集まる。


「白色の結晶体は光を失い……感覚だが、俺の中にあった結晶体の力も消えたように感じている。おそらく、この銀河から結晶体の力は完全に消滅したとみていいだろう」


 イリナが頷き、端末に視線を落とす。


「えぇ。膨大なエネルギー反応は、このエストリプス銀河からはもう感知できません。結晶体の力が失われたと同時に、エリムスも朽ちたと思って間違いないでしょう」


「脅威は……消えたってことか」

 コルトの呟きには、安堵と同時に言いようのない虚しさが滲んでいた。


 イリナはすぐに切り替えた。

「ナコさんについては、この後、捜索隊をノワリクトへ派遣します。同時に、星の細かい環境変化についても環境班に調査を進めてもらうつもりです」


「その捜索隊! 私も参加するから!!」

 鋭く、即答したのはアゲハだった。小柄な体を震わせながら、真っ直ぐにイリナを見据える。


「ま、やることは国の立て直しだろ!」

 豪快に声を上げたのはイクサだ。胸を拳で叩きながら続ける。


「結晶体の脅威が消え、悪魔も滅んだ。あとは俺たちがどれだけ星を立て直していけるか……未来の話をしようぜ!」


「リムスタングも脅威がなくなってから、少しずつ変わってきている。この星も、そうやって……皆が幸せに暮らせる星に戻していくことが大事だろう」

 ヒョウガの落ち着いた声に、ラークラは深く頷いた。


「あぁ。尽力するつもりだ」


「ま、手伝ってはやるからよ!」

 イクサが笑い、拳を鳴らす。その力強さが、わずかに場の空気を軽くした。


 ――白キ戦艦に帰還して七十二時間後。


 ノワリクト星内には捜索隊と環境班が派遣された。次々と調査が進められる中、変わり果てた大地の全貌が少しずつ明らかになっていく。


 そして。

 あの禍々しき建物が存在した場所――エリムスの間付近の荒野。瓦礫の上に、半分に折れた魔杖銃が静かに横たわっていた。その傍らに、守られるようにしてひとりの影が眠っていた。


 ナコ。


 彼女は淡い光に包まれながら、静かに横たわっていた。その光は、アゲハが駆け寄った瞬間、ふっと消え去った。まるで最後に残された結晶体の力が、ただ彼女を守るためだけに存在していたかのように。


 傷ひとつなく、ナコはゆっくりと身を起こす。眠りから目覚めるように。寝ぼけ眼を擦るような表情で、それでも柔らかな笑みを浮かべ、アゲハを見つめた。


「……アゲハ」


 その声を聞いた瞬間、アゲハは叫びを上げるより早く飛び込んでいた。ナコの胸に抱きつき、全身を震わせる。


「ナコぉ……!!」


 溢れる涙が、荒野の砂を濡らしていった。

最終話『未来への音』に続く。

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