第94話 最終決戦(中編)
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編
「グギャエツヂチギグバビビェ!」
扉の奥から、耳をつんざく悪魔エリムスの咆哮が響き渡った。振動が石壁を揺らし、まるで世界そのものが軋むかのように空気が震える。
螺旋の奥に広がった広間。そこはまるで地獄の胎内だった。赤黒い肉塊が脈動し、そこから無数の触手が生え、いやらしくうねっている。その中心に鎮座する巨大な顔は、嗤いを浮かべ、周囲にまとわりつく苦悶の仮面は、以前よりもさらに苦しみに歪んでいた。
「うぇっ! なんつー気持ち悪さだよ!」
扉をくぐった瞬間、襲い掛かってきた触手を紙一重でかわしながら、イクサが叫んだ。彼は壁を蹴り、床を転がり、跳躍しては、持ち前のスピードで触手を切り抜ける。
「文字通り異形の悪魔だな!」
ヒョウガは反対側へ走り、迫りくる触手を回転しながら避けつつ、ガンブレードを振り抜いた。鋼が閃光を描き、触手を切り刻む。
「うぉらぁぁぁぁ!!」
コルトは正面突破を選び、中央の顔へ向かってフリーズガンを撃ちまくった。凍てつく弾丸が次々と放たれるが、触手が盾となり、弾道はことごとく弾かれる。それでも彼は歯を食いしばり、ひたすら撃ち続けた。
三人は左右中央に散り、それぞれの持ち場で触手の群れと交戦する。触手は縦横無尽に走り、時に炎を噴き上げ、フロアを焼いた。さらに水刃の竜が空間を裂き、しぶきを撒き散らしながら舞い踊る。
「くっそ! 厄介すぎんだろ!」
イクサは水刃をギリギリでかわし、バク転から身体を捻り、手甲から伸びるエネルギーの爪で触手を切り裂いた。だが切断面からは瞬く間に肉が再生し、同じ触手が再び襲い掛かってくる。
ヒョウガのガンブレードも豪快に触手を斬り払うが、そのたびに再生する音が耳を打つ。粘着質の肉が膨れ上がり、新たな触手が生まれる様は、悪夢そのものだった。
「まだだ! ひたすら触手を潰せ!」
コルトの声が轟く。彼は横回転しながら弾丸を連射し、氷の槍を連続で叩き込む。凍り付いた触手が砕け散るが、また新たな肉が盛り上がり、再生する。
「キリがねぇぞ!!」イクサが跳ね回りながら怒鳴る。
「だがやるしかあるまい!」ヒョウガは地を滑り、ガンブレードを回転させて薙ぎ払った。
「キバボキュガグベガギュゲギギガギュグヘヘガギィ!!!」
中央の顔がケラケラと嗤い、その声は鼓膜を破るほどに不快な音を立てる。笑いながら人の苦悶を弄ぶようなその声は、仲間たちの心を逆撫でしていく。
「減らせ減らせ! 再生が追い付かなくなるほどに潰して潰しまくれ!」
コルトはさらに弾丸を重ね撃ち、氷結の嵐を叩き込んだ。
三方向から攻め立てられ、触手の群れは一瞬だけ数を減らす。その刹那、中央の顔への道がわずかに開かれた。
「いっくぜぇぇぇぇ!!!」
「うおぉおおお!」
「吹き飛びやがれぇぇぇ!」
イクサ、ヒョウガ、コルトの咆哮が重なり、無数の触手が同時に切り裂かれる。
「今だぁぁぁぁあ!! ラークラぁぁぁぁ!!!」
コルトの絶叫が響いた瞬間、ラークラが宙を駆けた。黒い外套を翻し、一直線に中央の顔へと飛び込む。
だがその直前、周囲に散らばっていた苦悶の仮面が一斉に集まり、巨大な仮面へと変貌した。裂けた大口から牙のような刃が突き出し、ラークラを噛み砕かんと迫る。
しかし、それこそが彼の狙いだった。
血飛沫が舞い、肉を噛み千切られる。だが、ラークラは即座に自らの傷口にカードを掲げた。
「刻時の獄!」
白光がほとばしり、時間がねじれる。傷口の時間の流れが遅延し、肉が千切れたまま悪化を免れる。そのまま彼は全身で苦悶の仮面を抱え込み、動きを封じた。牙はさらに深く食い込むが、それでも彼は離さない。
三つの苦悶の仮面が融合しているせいで、中央の顔の上、右、左にくぼみが露出した。そこには赤・黄・青の結晶がむき出しとなり、脈打ちながら輝いていた。それはエリムスが取り込んだ三つのエネルギーの核。
「ナコ……!」
コルトが振り返るより早く、少女は走り出していた。
魔杖銃を抱え、触手の嵐の中を駆け抜ける。コルト、イクサ、ヒョウガが必死にこじ開けてくれた隙間を抜け、ラークラの隣へ跳躍する。彼女の目には涙の光が宿りながらも、迷いはなかった。
「お願い!! 取り込んでぇぇぇえ!!」
ナコが魔杖銃を構えた瞬間、赤・黄・青の結晶から奔流のごときエネルギーがほとばしり、銃身へと流れ込む。銃に宿された白の結晶体の力と交わり、四つの結晶がひとつに重なった。
「いっちまぇぇぇぇ!! ナコぉぉぉぉ!!」
コルトの絶叫が響く。
「四大起源結晶魔!!」
ナコは全身の力を振り絞り、魔杖銃を中央の嗤う顔へと突き立てた。
瞬間、銀河が震える。
目を焼く閃光が広間を満たし、世界が白に染まる。
「エケボブギャビュギェグバビュビベギグギィガグギゲボォギュア!!!!!」
最後に響いたのは、この世のものとは思えぬ悪魔の咆哮と、星そのものが爆ぜたかのような轟音だった。
第95話『最終決戦(後編)』に続く。




