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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第一章: 『ノワリクト』脱出編

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第9話 決死の逃亡劇(前編)

第一章: 『ノワリクト』脱出編

 耳をつんざく警報音が、鋼鉄の壁を震わせる。


「——なっ、何だ!? おい、聞こえるか!」

 イヤリング越しのハリーの声が、明らかに焦っている。続けてコルトの低い唸り声。

「どういうこった……セキュリティは完全に掌握してたはずだ! くそっ、とにかくアゲハを連れてすぐ戻れ、ナコ!」


 アゲハの手をもう一度しっかりとつかむ。「行くよ!」

 アゲハは状況を問う暇もなく立ち上がった。振り返ると、背後の鋼鉄ゲートが、轟音とともに降りてくる。

「——閉まる!」

 思わず叫び、二人同時にその隙間をすり抜けた瞬間、重い金属音が背後を塞いだ。


「な、なにがどうなってるの!? ねぇ、ナコがなんで」


「お願い、説明は全部後でするから! 今は私についてきて!」


 頭上スピーカーから響く無機質な声が館内に満ちる。

《侵入者を確認。全館封鎖。排除プロトコルを実行します》


 その言葉に呼応するように、制御下だったはずのロボット兵たちが赤く光るセンサーアイを点灯させ、レーザー銃口をこちらに向けた。


 乾いた光が床を焦がす——撃たれたのは足元ばかり。

「足を狙ってる……殺さず、逃がさないつもりなんだ!」アゲハが息を呑んだ。


 左右の通路からもロボット兵が迫る。あっという間に集まってきた数体のロボット兵がふたりを取り囲み、レーザー銃口が、一斉に向けられる。


「だめ、逃げられないっ——」


 その時、背後の影が閃き、迫っていた一体が横倒しに吹き飛んだ。

「遅ぇぞ、嬢ちゃん!」

 ミルトだ。金属脚部を蹴り飛ばした反動で片足を着地させるや否や、さらにもう一体を叩き伏せる。


 上空では、ドローンが機関的な唸りを上げ、レーザービームを放つ——が、それらは鋭い銃声と共に爆ぜた。


「走れ!」

 煙の向こうから、銃を構えたハリーが現れる。


 ミルトとハリーの援護を受け、ナコとアゲハは必死に走る。コルトの声が耳に届く。


『最短ルートが閉じられた! 迂回だ、左へ——』

 だがその間にも、廊下の奥から人間の警備兵たちが続々と現れ、銃口をこちらへ向ける。


 汗と金属臭の中を、四人は曲がりくねった迂回路を全力で駆け抜ける。心臓の鼓動と靴底の衝撃音が一体となり、時間の感覚が曖昧になる。


 ステルス機能が効いている限り、コルトの待つ非正規銀河鉄道の存在は認知されていないはず。そこまで辿り着ければ——


 やっと搬入口の光が見えた瞬間——その前に立ちはだかる長身の影があった。


「……やはりか。妹を捕らえておけば、必ずジャコウが何かしらの行動を起こすだろうと見ていたが、まさかこんなにも大胆な方法を取ってくるとはね。あえてセキュリティをゆるくしておいた甲斐があったというものだ」


 その姿は、政見放送で何度か見たことがある。


 銀河政府筆頭秘書官、ラークラ。その手には、黒い模様が蠢く数枚のカードが挟まれている。


「見たところ……ジャコウの姿がないな。君たちは捨て駒か?」


「ジャコウさんの居場所は知らない……あなた達銀河政府は、一体何を隠してるの?」ナコはラークラを鋭く睨みつけながら答える。


「禁書なんて最初から盗まれてなんていないんだろ! 一体何を企んでやがる! ジャコウは何を知ってる!」ミルトが続いた。


「……外れか。愚かな」


 ラークラはカードを一枚抜き取り、ゆるく笑みを浮かべた。


「——呪いのカード、炎界の獄(えんかいのごく)

 カードが宙を舞い、描かれた炎の絵が現実に燃え上がる。瞬く間に搬入口を塞ぐ炎壁が生まれ、熱波が肌を刺す。


「おいおい、なんだこれは!」


「聞いた事がある。銀河政府筆頭秘書官ラークラは、『呪いのカード』というカードに描かれた事象を、その場に再現させる特殊技術を使うって……」


「ケッ! 一体どんな技術使ってやがんのか、ご教授いただきてぇもんだなっ!!」瞬間、搬入口の中央車両からコルトが飛び出す。


 手に持った大型の水砲が一閃——炎の壁に一瞬の穴を空ける。


「な、後ろにもいやがったのか!」


「くそっ、行くしかない!」ミルトが叫ぶ。「おらよっ!」ハリーが銃弾をラークラの手元に打ち放った。


 瞬間——ナコはアゲハの手を握り、炎の中へと飛び込む。焦げた匂いと熱気が一瞬で全身を包み、視界が赤く染まる。


 炎を抜けると、そこには待機する非正規鉄道の車両。

「乗れ!」コルトの声が響く。四人は転がるように車内へ飛び込み、直後に扉が閉まる。


 コルトが運転席で端末を叩く。


「くそっ、貨物ルートがすぐ閉鎖される……仕方ねぇな! 奥の手の奥の手だったが——こいつも運命だろうよ!」


 端末に指を叩き込み、にやりと笑う。

「ルート転移だ。銀河軌道線の非正規裏ルート《ルートΨ(サイ)》に移る……星と星を繋ぐ銀河軌道線だ! 宇宙の旅のはじまりだな、くそが! 高まるぜ!」


 後方から迫る炎と追撃をギリギリで振り切り、車両は貨物ルートの奥へと滑り込んだ——一瞬、車内が重力から解き放たれた。


 窓の外、夜の宇宙がぱっと開ける。光の粒子が流れ、黒い海原が彼らを包み込んだ。


 アゲハを加えた五人は、銀河の闇へと飛び出した。

第10話『決死の逃亡劇(後編)』に続く。

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