第87話 侵入(第一層)
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編
「うっしゃあぁぁ!!」
先陣を切ったイクサが獣の懐に滑り込み、拳に嵌めた希少鉱物の手甲を叩きつける。
衝撃が獣の腹を引き剥がし、呻き声とともに吹き飛ぶ。イクサはそのまま勢い良く跳躍し、手甲から伸びた白いエネルギーの爪を構えて振り下ろした。
「聖白の爪!!」
爪が鋭く獣の頸を裂き、血潮が暗闇に煌めく。裂かれた獣はそのまま奈落へと落ちていき、黒い闇の中へと消えた。
「うっし! いっちょあがり!」
イクサが笑顔を返す余裕も束の間、左右から別の獣が飛びかかってくる。暗闇の中で牙が閃き、唸りがひびく。
「油断するなっ!」
マリウスが飛び込み、チェーンクロスを振るって獣に絡め取る。鎖が締め上がるたびに白炎がまとわりつき、獣はたちまち炎に包まれて苦悶した。
「白炎鎖棘!」
その叫びとともに、炎と鎖が獣の体を切り裂く。
同時、クレイグが振るった希少鉱物の斧が衝撃波を吐き、別の獣を粉砕した。刃の軌跡が光る——「爆砕白戦斧!」。
ヒューベルトは周囲を見回しながら走る。
「数が多すぎるな! 最低限を屠りながら上層へ走るぞ」
「体力も温存しときてぇしな!」
コルトが改造されたフリーズガンを構え、上空へと撃ち抜く。巨大な氷塊が砕け、つらら状の無数の刃となって獣たちの群れに降り注いだ。獣が凍え、砕け散る音が闇を切り裂く。
「ひゅー! 改造されたフリーズガン、半端ねぇな」
コルトが叫んだ。砕けた氷が月明かりを反射して目を眩ませる。
螺旋状の通路を駆け抜け、第二層への分岐手前の少し広い空間に出ると、そこには巨大な複数同位体が横たわる影のように待ち受けていた。カマキリを彷彿とさせる巨躯。その刃は鋭く、振り上げられるだけで空気が裂けた。
「うおぉ!!」その咆哮は骨まで響く。
ミルトが低く唸った。
「第一層の主、的なものかな……」
ナコは魔杖銃を構え、冷静に狙いを定める。
「倒さないと、先に進めなさそうだ」ルキは暗い声で呟く。
だがクレイグが前に躍り出る。大柄な体躯を揺らし、斧を高く掲げて。
「全員で相手する必要もないだろう。時間をかければ兵も集まってくる。ここは俺に任せてお前らは先に行け」
クレイグの視線は獣を真っ直ぐに射抜いている。覚悟が、その声に滲んでいた。
マリウスも前へ進み、チェーンクロスを手にした。
「行け! 後で必ず追いつく」
その言葉に、ヒューベルトは短く頷いた。
「クレイグ、マリウス……わかった。お前たちに任せよう」
獣のカマが振り下ろされる。クレイグは斧で受け止め、体を回して反撃する。一瞬の隙を突いてマリウスが脚へ鎖を絡めたが、カマキリ獣の反射は速い。触角のような触手がクレイグへ向き、壁へ叩きつける。衝撃で瓦礫が飛び散り、クレイグは顔を歪めながらも立ち上がった。
「クレイグさん!!」アゲハが叫ぶ。だがヒューベルトの声が全員を前へ押し出す。「足を止めるな! あいつらの覚悟を無駄にしたいか!」
ヒューベルトたちは脚を止めず、第二層への螺旋を駆け上がった。背後で、金属と肉が擦れる鈍い音、獣の咆哮、斧の喰い合う音が鳴り続ける。瓦礫に埋もれながらも、クレイグは立ち上がる。血と砂で顔を汚し、斧を握り直す。
「へ、さてと! 俺たちもさっさとこの獣をぶっ潰して、後を追うぞ! マリウス」彼の声にはしっかりとした覚悟と怒りと決意が混じっていた。
「ふ、当たり前だろうクレイグ! いくぞ!」マリウスの眼には闘志が宿っている。
第一層最奥で、カマキリ獣とマリウス、クレイグの戦いが始まった。
刃が飛び、鎖が跳ね、岩が砕ける。二人は互いの息遣いを確かめ合いながら、巨大な敵へと肉薄していった——勝負の火ぶたは切られた。
第88話『侵入(第二層)』に続く。




