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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

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第86話 侵入

最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

 夜の闇は重く、漆黒が街を飲み込もうとしていた。ナコ達は息を潜め、影と一体になって街路を駆け抜ける。足音は最小限に抑えられ、風に乗る埃だけが彼らの通過を告げる。夜の街には人影がほとんどなく、窓明かりもまばらだ。


「静かだな……」ヒューベルトが低く呟く。


「ああ。前はもっと夜でも人がたくさん出歩いていたんだがな。気持ち悪ぃ」コルトが静かに答えた。


「おそらく昼間は強制労働で夜はどこか一定の場所にでも閉じ込められているんだろう」


 ハリーが周囲を警戒しながら続ける。


 冷たい空気の中、隊列は迷わぬ足取りで進んだ。マリウスは地図を頭に入れたまま淡々と周囲を見渡し、「だが好都合だ。兵の数もそれほどいない」と呟く。ルキは暗がりに溶け込み、目の前の警備に気づかれる前にそっと動いて一人を気絶させる。禍々しい漆黒の球体が重なり合った建造物が、やがて彼らの前にそびえ立った。


「侵入するにはおあつらえ向きだな!」

「最低限の見張りか……仮にも統治者がいる場所としては警備が軽すぎるな」ミルトが全員に注意を促した。


「中に入ったら兵がわんさかいるとか……」


 アゲハが小さな声で不安を漏らす。


「油断はできないよね」ナコがすぐに返した。


 クレイグは険しい表情で「いつでも武器を持てる準備をしておけ」と促し、ヒョウガもそれに賛同する。


「ま、先陣は俺が切ってやるよ!」


 イクサが先頭に躍り出て、寝ぼけ眼で立っていた入り口の守衛二名を一瞬で沈黙させた。動作は無駄なく、確実だ。


「よし! 入るぞ。ここからは敵の本陣だ」


 ヒューベルトは扉をそっと押し開ける。

「外の警備があまりにも杜撰だった。中に入ったらより一層の警戒をしろ」ミルトの声が続く。


 扉の先は曲がりくねった蛇のような通路──螺旋が上層へと伸び、中央には底の見えぬ大穴がぽっかりと開いている。縁に立てば、奈落の黒が視界を抉るようだ。


「おいおい、落ちたらひとたまりもねぇな」

「道は螺旋状の一本道で、上層まで続いている……か。厄介だな。前と後ろで囲まれたら逃げ場はない」


 ヒューベルトが冷静に仲間たちに警告する。


 そのとき、建物のあちこちから獣の咆哮が響いた。薄暗がりの影から無数の目が光り、獣が彼らを凝視しているのが見えた。ナコの声が割り込む。 「複数同位体(ケルベロス)!?」

 獣どもは理性の欠片もなく、牙を剥いて一斉に襲いかかってくる。通路は瞬時に戦場へと変貌した。


「ちっ! 構えろ!」


 ヒューベルトの掛け声で、武器が一斉に抜かれる。火花のように短い閃光が通路を切り裂き、影が踊る。


「なるほどな! 建物内に無数の複数同位体(ケルベロス)を放って侵入者を排除してるってことか! そりゃあ外の警備が杜撰でも問題ねぇわな!」


「んなら話は早えぇ! 獣ぶっ潰して最上階まで走ればいいんだろ! 簡単じゃねぇか!」


 その叫びに応えるように、襲い来る獣の群れにイクサが先陣をきって飛び込んだ。

第87話『侵入(第一層)』に続く。


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