第85話 少数精鋭
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編
ノワリクトがエリムスの手に落ちてから半年以上が経過していた。
ストラトバティス、リムスタング、グリムジャガーを再び巡り、ヒューベルト含め仲間たちの傷が完全に完治した頃、白キ戦艦のブリーフィングルームではいよいよ対エリムスに向けた最終決戦の作戦会議が始まっていた。
急ピッチで進められた希少鉱物の武器は、リムスタングで得たドギガイズの剣を解析したことで、加工の工程が紐解かれ、いくつもの試作品を得て十数本の完成品が作られた。そのどれもが白色の結晶体から力を取り込み、大きな力として奮うことが可能だ。
加えて、グリムジャガーから持ち帰ったイクサの祖父の研究資料も、着実に新たな力を生み出していた。
「……この半年間、俺たちは先行潜入隊をノワリクトに送り込み、情報を探ってきた」
ヒューベルトの言葉に応じて、ミカエルが端末を操作する。スクリーンには、暗く沈むノワリクトの街並みが映し出された。
「情報によれば、ジザーランドが殺され、エリムスが惑星放送で統治者へと即位した時には、いくつもの抵抗の火種があったようだ……だが、圧倒的な強さと残虐さでそれを全て鎮圧し、瞬く間に恐怖でノワリクト全土を支配下に置いたということだ……」
「現状では、銀河政府の中枢『統治の間』があるノワリクトパレスの改修に、何千人もの人手が強制労働を課され、銀河中央図書館は解体予定との情報が入っています」
ミカエルが淡々と告げた瞬間、ミルトが立ち上がり、机を叩いた。
「銀河中央図書館を解体するだとっ! バカな。積み上げてきた歴史的資料を全て闇に葬るつもりか」
空気を切り裂く怒声に、一瞬沈黙が走る。やがてイリナが静かに続けた。「国民は最低限の食糧だけを与えられ、長時間の強制労働に駆り出されているようです。気まぐれで処刑される者も後を絶たないとか……」
「……リムスタングと同じか。胸糞悪ぃ」
ヒョウガが机を拳で叩き、唇を噛みしめる。
「エリムスにとって国民は、ただの奴隷に過ぎないんだろう」
コルトが低く唸るように言葉を吐いた。
その時、アゲハがぽつりと声を洩らした。
「……兄さんは? ジャコウ兄さんは、どうしてるのかな。リムスタング以来、顔を見せていないみたいだけど」
その瞳はどこか頼りなく、不安に揺れていた。だが、ナコとコルトは答えられない。バルエクスでジャコウが果てたことを、彼女には未だ告げられずにいた。
二人の沈黙を悟ったヒューベルトは、あえて何も言わず、話題を切り替えた。
「――んで、結局あの化け物女がいるのはどこなんだ?」
ルキが声を荒げた。
「ノワリクトパレスの横に建造された『神々の祭壇』と呼ばれる建物」
イリナが映像を切り替えると、画面には漆黒の球体が幾重にも重なり合った、不気味な建造物が映し出された。見る者の心を黒く染めるような、禍々しい気配を放っている。
「おいおい、なんつー悪趣味な建物だよ」
イクサが顔をしかめる。
「闇が渦巻いている……吸い込まれそうだ」
ハリーが声を落とす。
マリウスが冷静に見据える。
「だが、言ってしまえば作られたばかりだ。難攻不落というには、まだ脆いだろう」
「その通りだ。好機は今しかない」
ヒューベルトの声音が一段と力を帯びる。
「これ以上の時間は、俺たちの勝利を遠くする。まだ整いきっていないこの機を逃す手はないだろう」
「だがどうする? 正面きって戦争を仕掛けるわけじゃねぇんだろ」
コルトが鋭い視線を向ける。
「ああ。俺たちは少数精鋭で潜入する。夜の闇に紛れてノワリクトへと降りるぞ」
ヒューベルトが立ち上がり、指示を飛ばした。
「白キ戦艦をこの場に残し、ここからは小型艇で宙域を進む。残す本艦の指揮はミカエル、イリナ、ルクス……お前たちだ!」
「任せておけ。何かあればすぐにいけるよう準備を整えておく」
ミカエルが力強く頷いた。
「突入メンバーは……俺とルキ、クレイグ、マリウス、コルト、ミルト、ハリー、ナコ、アゲハ、イクサ、ヒョウガ。――五時間後、小型艇のドッグに集合だ」
ヒューベルトは一人ひとりの瞳を見据えるように告げた。
「忘れるな。希少鉱物の武器、必要な装備を各自で整えておけ。これが最後の戦いになるだろう」
「うっしゃぁあ! やってやんぜ!」
「殺された十士の仇、弔い合戦だ!」
「……終わらせなきゃ。私たちの手で」
第86話『侵入』に続く。




