第84話 再びグリムジャガーへ(後編)
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編
白キ戦艦は進路を大きく変え、グリムジャガーの宙域へとゆるやかに滑り込んでいった。
複数の小型艇が切り離され、白キ戦艦から放射状に降下していく。さらに作業艇の群れが展開し、中型艇が銀河鉄道を収容する準備を整える。浜辺に横たわる長大な鉄の軌道車両。その回収は一大作業であった。
コルトは胸に込み上げるものを押し殺しながら、久方ぶりにその銀河鉄道の車体に手を触れた。
「うっし、墜落した時と比べて特に変わったとこもなさそうだ」
アゲハが扉を押し開き、内部を覗き込む。
「中も墜落した時のままだね。あ、でも砂が大分入り込んでるかも……」
埃にまみれた座席や、軋む床板。けれど、彼らが幾度も乗り込み、銀河を駆け抜けた記憶は色あせていない。
ハリーは一歩踏み入り、深呼吸をする。
「ふ。なんだか実家のような安心感を感じるな」
外で見上げていたルキが、苦笑を浮かべながら作業艇に指示を飛ばした。
「なかなかにでかいなー。ちょっと骨が折れそうだ」
クレーンが伸び、錆びついた連結部分を掴み上げていく。ルキやミカエルの細やかな指示のもと、コルト、ハリー、アゲハらも動き回り、横たわった銀河鉄道は少しずつ宙へと引き上げられていった。
一方その頃、ミルト、イクサ、ナコ、ヒューベルト、ルクスは、鍾乳洞を抜け、かつてイクサと出会ったあの研究施設へと足を運んでいた。
朽ち果てた研究室は冷気と湿気に満ち、壁には無数のひびが走っている。錆びついた機器は影のように沈黙し、床には古びた紙片や破損した器具が散乱していた。大きな机、その背後に並ぶ書棚――かつてここでイクサのおじいさんが未来を切り開こうとした残滓が、無言のまま横たわっている。
「随分と荒れ果ててるね」ルクスが肩をすくめる。
「ま、二千年の時が流れてるからな」イクサは机の上に転がる実験器具を手に取り、感触を確かめながら答えた。
その背後で、ヒューベルトがいつの間にか書棚から本を取り出し、食い入るように目を走らせていた。
「なるほど。確かにこれは価値が高い」
ミルトも別の資料を開き、低く唸る。
「確かにな。あの時はゆっくりと見ている時間はなかったが……パッと手にしただけでも相当に有益そうだ」
ナコは辺りを見渡し、懐かしげに微笑んだ。
「私の魔杖銃の鉱石も、ここでイクサにもらったんだったね。カマイタチ」
ヒューベルトは顔を上げ、イクサに問いかけた。
「イクサ。この研究資料。持ち出しても構わないか?」
「あぁ。もちろんだ。じいちゃんの研究、役立ててくれ」イクサはまっすぐにうなずいた。
「ルクス、本艦のイリナに連絡を取れ。こちらにも人手が欲しい」
「おっけー! すぐに連絡するよ」ルクスはすばやく通信機を取り出した。
やがて、白キ戦艦からの増援が研究施設へと雪崩れ込み、重要そうな資料や残存する実験器具、書物が次々に運び出されていった。埃と錆に覆われた空間が、再び人の声で満ちていく。
同時に、銀河鉄道の回収も終盤を迎え、巨大な車体は中型艇に収納されていく。砂にまみれ、浜辺に沈んでいた車体が、ようやく再び星々の道を駆けるための準備を整えつつあった。
こうして研究施設から持ち帰った資料は、すぐさま化学技術班へと渡され解読と解析が始まる。銀河鉄道は修理ドッグへ運ばれ、各班が修復作業に取り掛かった。
すべての準備が整った頃、再びブリーフィングルームに仲間たちが集う。
投影された星図の中央にはノワリクトの姿。冷たい光を帯びたその星影を見据えながら、彼らは作戦の細部――侵入経路、戦闘のタイミング、そして決戦に至るための一手一手を詰めていった。
戦いの舞台は、いよいよ最終局面へと近づこうとしていた。
第85話『少数精鋭』に続く。




