第83話 再びグリムジャガーへ(前編)
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編
リムスタングでの回収作業を終えた白キ戦艦は、静かにその巨躯を宙へと押し出した。甲板を伝うかすかな振動と、エンジンの低い唸りが船体全体に広がり、星海を渡る旅路が再び始まる。窓の外には漆黒の宇宙と無数の光点が瞬き、やがて戦艦はエリムスの待つノワリクトへと進路を定めようとしていた。
――ブリーフィングルームにはいつものメンツと、そして新たに加わったヒョウガの姿があった。重厚な扉を閉めれば、そこはもはや戦艦の頭脳。大きな円卓の中央に光学投影装置が浮かび、ノワリクトの宙域図が淡く揺らめいている。
椅子に腰をかけたコルトが、腕を組んで唸った。
「すまねぇが、もう一つだけ寄ってほしい星があるんだが……」
視線が集まる。ヒューベルトが落ち着いた声で応じた。
「それはグリムジャガーか?」
その一言に皆の表情が変わる。
「あぁ」コルトは力を込めてうなずいた。
「グリムジャガーには俺たちが最初に宙域を移動するのに使っていた銀河鉄道が放置されたままだ。故障して動かねぇが、この白キ戦艦になら丸ごと回収することもできるんじゃねぇかと思ってな……頼めねぇか?」
静寂ののち、ヒューベルトが口を開いた。
「……いいだろう。お前たちは既に白キ戦艦の一員だ。銀河鉄道を回収し、うちの技術班で修理を受け持とう」
「ありがてぇ。何から何まですまねぇな」コルトの声には、長く背負ってきた重荷を下ろすような安堵が混じっていた。
そのとき、ブリーフィングルームの扉が開いた。
「それならよ!」
勢いよく現れたのはイクサだった。
「めずらしいね! 小難しいことはわかんないから作戦会議は任せるって言ってここには寄り付かなかったのに」ルクスがすかさずからかう。
「いや、新しい仲間が増えたってきいたからよ」イクサは目を細め、席に座るヒョウガを見やった。
「ヒョウガだ」ヒョウガは短く答え、腕を組んで笑う。
「こいつらとはリムスタングでの戦いを一緒にした仲でね。この戦いに俺も参加させてもらうことにした」
「おう! 俺はイクサ。あんたのその感じ、強そうだな。よろしく」
厚い掌が差し出され、ヒョウガも豪快に応じる。
場の空気が少し和らいだところで、ヒューベルトが低く問いかけた。
「で、イクサ。それならなんだって言うんだ?」
「あぁ。そうだ」イクサは頭をかき、照れくさそうに笑った。
「もしグリムジャガーにも寄るんならよ、じいちゃんの研究室も調べて欲しいんだ」
「じいちゃんの研究室?」ルキが思わず声を上げる。
「ああ。コルト達の銀河鉄道が横たわってる島にあってよ。その、俺にはさっぱりな部分も多いんだが……きっと役に立つ研究資料が残されてるんじゃないかって思ってよ」
その声音には、強がりと同時にどこか孫としての誇りが滲んでいた。
ミルトが興味深げに顎を撫でた。
「なるほど。ヒューベルト、イクサの祖父はイクサを人造人間にしてしまうくらいの科学者だ。確かに俺たちではさっぱりなところもあるかもしれないが、見る人が見れば大きな宝の山にもなりえるだろう」
「グリムジャガーの科学者、か。興味深いな」ヒューベルトの瞳が鋭く光った。「よし、進路を一旦グリムジャガーに変更する」
「了解です」イリナがすぐに応じる。
「ねぇ。グリムジャガーには希少鉱物、残ってないのかな?」ルクスが小首をかしげて尋ねる。
ヒューベルトは静かに首を振った。
「難しいだろうな。そもそも希少鉱物は長い間、一定の空間に鎮座されていた結晶体のエネルギーが、その周りに流れ出して形成される……いってみれば結晶体のエネルギーの残滓が固まったものだ」
「ストラトバティスは二千年間、ずっとあの空間に結晶体が鎮座していた。リムスタングでは十年前にドギガイズが結晶体を引っ張り出すまでの間、地下の大空洞に結晶体はずっと眠っていた。どちらも一定の場所に何千年も長く置いてあったからこそ、その空間にエネルギー残滓が溜まり、固まったんだ」
ミルトが腕を組んでうなずく。
「なるほどな。グリムジャガーはあのでかい石像の頭に結晶体がくっついていたせいで、漏れ出したエネルギーが石像の生体エネルギーに流れていたということか。バルエクスは……論外だな。実験にエネルギーを使われすぎてる」
「そういうことだ」ヒューベルトが言葉を締める。
「だが、イクサのじいさんの研究についてはきっと大きな価値があるだろう。万全の状態でエリムスを討つためにも、次の目的地はグリムジャガーにするのが最善の策だな」
円卓を囲む面々は、固く決意を共有するように黙ってうなずき合った。
第84話『再びグリムジャガーへ(後編)』に続く。




