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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

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第82話 再びリムスタングへ(後編)

最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

 リムスタングの大地に降り立った七人は、風に舞う砂塵を背に、遠く聳え立つリムスタワーを目指して歩き出した。


 この星は相変わらずの暖かな気候に包まれ、空気には独特の湿り気を帯びた温もりがある。街へ近づくにつれ、汽笛の甲高い音が響き渡り、煙を吐く蒸気機関車の姿が見えた。


 通りは人で溢れ、露店が軒を連ねて賑わっている。肉を豪快に焼き上げる香ばしい匂いと、果実を煮詰めた甘い香りが鼻腔を刺激し、皆の緊張感を少しだけ和らげた。


「やっぱりいい匂い~」

 ナコが思わず声を弾ませる。


「以前は落ち着いて屋台を楽しむ暇なんてなかったからな」

 ミルトが懐かしむように笑う。


「いいじゃん! ちょっとだけ何か食べてこうよ!」

 ルクスが無邪気に駆け寄り、指をさしたのは香ばしく焼けた串肉だった。


「ああ、この串焼きはうまそうだ」

 ヒューベルトが迷わず屋台に向かい、人数分を買い揃えて戻ってくる。


「いいのか? 世話んなってる上に、ここでももらっちまって」

 コルトが苦笑まじりに問う。


「構わん。俺が食べたかっただけだ」

 短くそう返したヒューベルトの手から串を受け取ると、アゲハはぱくりと齧り、瞳を輝かせた。


「美味しいー! もしイクサが一緒に来てたら、大騒ぎしてただろうね。『うんめぇぇ!』ってさ」


 皆の表情が和らぎ、束の間の安らぎが訪れる。


 やがて通りを抜けると、視界の先に巨大なリムスタワーが姿を現した。


「着いたか」

 ハリーが呟く。


 タワーの前には『蒸気の狼煙(じょうきののろし)』の若手が見張りをしており、七人の姿を見つけると目を見開き、そして顔を緩ませた。

「どうされたんですか?」


 事情を簡潔に説明すると、彼らはすぐに執務室へと案内してくれた。


 扉を開けた先――机に高く積まれた書類に囲まれ、慣れぬ事務作業に没頭するヒョウガの姿があった。


「ヒョウガ! 相変わらず事務作業ばっかりなのか?」

 コルトが声を張ると、ヒョウガは顔を上げ、驚きに目を見開いた。


「おいおい、なんだこのメンツは。ぞろぞろと……」


「お久しぶりです、ヒョウガさん」

 ナコが軽く頭を下げる。


「ヒョウガ、久しぶり!」

 ルクスは無邪気に片手を上げ、笑顔を見せた。


「ははっ。なんだよ、結局お前ら一緒にいるのかよ」

 ヒューベルトとルクスの並ぶ姿に、ヒョウガは小さく吹き出した。


「まあ、座れ。お茶と菓子くらいは振る舞ってやれる」

 促され、客間のソファに腰を下ろす。温かな湯気と共に、香り高い茶が配られた。


「で? 何があった?」

 ヒョウガの問いに、コルトが端的に事情を説明する。


「はぁぁ、また厄介なことに巻き込まれてるな」

 ヒョウガは嘆息しながら菓子を口に運んだ。


「ああ。そこでだ――ドギガイズの野郎が使っていた希少鉱物(レアメタル)の剣、まだ残ってるか?」

 コルトの問いに、ヒョウガは頷く。


「ああ。一応、うちの化学班に預けてある。……もっとも解析は全然進まなくて、連中は頭を抱えてるがな」


「案内してもらえるか?」

 ミルトの言葉に、ヒョウガは椅子を立ち上がる。


「構わない。どうせ俺たちには扱いきれない代物だ。……希少鉱物(レアメタル)も、多少は残ってる。量は期待するなよ」


「十分だ。そちらも譲って欲しい」

 ヒューベルトが静かに告げると、ヒョウガは肩を竦めた。


「いいさ。あんたらがいなきゃ、今もリムスタングはドギガイズに好き勝手にされてたままだったろうからな」


 案内された研究施設の奥。そこには、怪しく光る異様な質感を放つ剣と、わずかに残された希少鉱物(レアメタル)が保管されていた。


「……この程度なら、俺たちだけで持って帰れるだろう」

 ヒューベルトが剣を掴み上げる。仲間たちもそれぞれ鉱物を抱えたが、一塊だけ手が足りない。


「よっと!」

 軽やかにその塊を掴んだのは、ヒョウガだった。


「いくぞ!」

 意気揚々と歩き出す彼の背に、コルトが慌てて声を投げかける。


「おい、待てよヒョウガ! 行くってお前……」


「俺もその戦い、一噛みさせてくれないか」

 ヒョウガの口元に浮かんだ笑みは、猛獣のように鋭い。


「はっ? お前……まさか……」


「事務仕事ばっかじゃ身体が鈍っちまうんだよ。たまには暴れないとな」

 その言葉に、若手の見張りたちが一斉にあたふたする。


「つーわけで、しばらく俺はこの星を留守にする! お前ら、代行で事務仕事頼んだぞ!」

 肩を叩かれた若手は呆気に取られ、口を開けて固まる。


「え、ちょ……ヒョウガ様、えーっ……」


 ミルトがその肩に手を置き、穏やかに微笑んだ。

「諦めるしかなさそうだな。安心しろ、すぐ戻ってくる」


 走り出したヒョウガの後ろ姿に、ルクスが声を弾ませる。

「ヒョウガ、また一緒に戦ってくれるの?」


「ああ。大船に乗った気でいるがいい。ルクス!」


 彼の背を追うように声が響き渡る。

 その光景を見ながら、ヒューベルトはわずかに目を細め、小さな笑みを浮かべた。

第83話『再びグリムジャガーへ(前編)』に続く。

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