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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

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第80話 再びストラトバティスへ(後編)

最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

 ソギ―を先頭に、ナコたちは静まり返った遺跡の内部へと足を踏み入れた。かつて訪れたときには無残に散乱していた割れた椅子やベッドの残骸は片付けられ、壁沿いに並んでいた小部屋の壊れた扉も取り外されている。


 しかし、それでもなお、この場所の持つ空気は一行の肺を重く満たした。


 鼻を突く土と苔の匂いが依然として漂い、石造りの壁や天井は絡みつくような蔦と湿った藻で覆われていた。ただ、以前よりは清掃の手が入っているらしく、緑の塊は削がれ、かすかに石肌が覗いている箇所もある。


 通路の両脇には作業に没頭する人々の姿があった。松明や簡易灯を掲げ、古びた壁の模様を写し取ったり、瓦礫を運び出したりしている。彼らの気配はこの荒れ果てた場所にかすかな生活の息吹を与えていたが、それがかえって、かつての静寂の異様さを思い起こさせもした。


 やがて一行は、崩れた天井の下に広がる巨大な広間へとたどり着いた。かつてそこは、天井の割れ目から射しこむ光に藻や茎が絡み合って鈍く照り返す、異様な実験室だった。今では藻や茎はある程度取り払われ、壁際に眠る機械群が露わになっている。鈍色の鋼鉄に光が反射し、冷たい輝きを放っていた。


「なにこれ。こんな施設がここにあったんだ」


 ルクスが目を輝かせて機械に近づき、手を伸ばす。

「機械は……随分と古い型みたいだけど」

 無邪気にはしゃぐ声に、場の空気がわずかに和らいだ。


「……機能している機械はあるんでしょうか」

 イリナは周囲を見渡しながら、端末を手に呟いた。


「最奥のメインコンピュータはまだ機能していた。連動して一部はまだ動くんだろう」

 ハリーが冷静に答える。


「興味深いな……こんな時じゃなければ、じっくり調べてみたいところだが」

 ヒューベルトが息を吐き、杖を支えに広間を見回した。


 最奥の扉へと続く通路。その先に設置された操作盤はすでに解放状態になっており、ソギ―が手のひらで叩くと、重々しい音とともに扉は滑るように開いた。


「ここだ」

 コルトの低い声が響く。


 開かれた先の空間に、思わず誰もが息を呑んだ。


 壁も天井も床も、すべてが透き通ったクリスタルに覆われていた。無数の結晶群は境界を持たず、青、紫、紅、緑――刻一刻と色を変え、混ざり合いながら揺らめく。異なる世界が幾重にも重なり、重力や時の流れすら歪めるかのように見えた。そしてその中央には、祭壇のような石台が鎮座し、かつて赤色の結晶体が安置されていた場所を静かに示している。


「ここに赤色の結晶体が眠っていた。ま、俺らが来た時にはジャコウにエネルギーを吸収された後だったから、結晶体は抜け殻だったが」

 コルトの声が、幻想的な空間に溶けていった。


「イリナ、どうだ?」

 ヒューベルトが促すと、イリナは端末を操作し、壁の結晶を採取して成分を解析していく。


「……間違いなく結晶体が作り出した希少鉱物(レアメタル)の塊で間違いないでしょう。純度も相当に高い。こんなものが眠っていたなんて」


 イリナの声は、驚きと熱に震えていた。


「やっぱり、ここのクリスタルは全部希少鉱物(レアメタル)なの?」

 ナコが問いかける。


「えぇ。これを持ち帰って加工すれば、相当な力を持つ武器の作成も可能かと」


「よし。すぐに回収班に連絡しろ。ここのクリスタルを白キ戦艦に持ち帰る」

 ヒューベルトの声が空間に響いた。


 傍らに立つソギ―に、コルトが気まずそうに笑みを浮かべる。

「すまねぇな。ちょっとばかし騒がしくする。許してくれ」


「構わない。ストラトバティスはお前たちに救われた。このクリスタルがお前たちの役に立つのなら、よろこんで恩返しをしよう」

 ソギ―の声には揺るぎない誠意があった。


 それから数時間――。白キ戦艦から降り立った回収班が広間へ入り、結晶の採取と搬出を行った。鈍く光る鉱物の塊が次々と切り出され、堅牢なコンテナに収められていく。その合間、ソギ―とコルトは並んで祭壇を見下ろしていた。


「ソギ―、どうだ? この星の復興はうまく進んでるのか?」

 コルトが問いかける。


「ああ。もともと少人数の集落で散り散りに隠れ住んでいたからな。今は人を使って集落を見つけては連絡を取り、地上に出て街の復興と、資源・食料の量産のために畑や森を広げる準備をしている。もちろん水もだ。まだまだ程遠いが、確実に一歩ずつ進んでいる。この星の未来は明るいさ」


「良かったな。作業をしている人たちの顔も、心なしか柔らかい表情をしている。いい星になっていくだろう」

 ハリーの言葉にソギ―は頷いた。


「二千年以上前から続いていた鬼の支配がなくなったんだ。皆の穏やかな笑顔が見れるだけでも、お前たちには本当に感謝しかない」

 その声は重みを持って広間に響いた。


「お前たちの方は……まだ大変そうだな」

 ソギ―の言葉に、コルトは笑って肩をすくめた。


「なに、俺たちももうちょっとの踏ん張りだ。仲間も増えた。さっさと片付けて、今度ここに来るときは最高の土産話を持ってきてやるよ」

 コルトは拳でソギ―の肩を軽く叩いた。


「ふっ。できることなら俺もお前たちについていってやりたいが……おそらく俺の戦力じゃ足手まといにしかならんだろう」

 ソギ―は苦笑しつつも、どこか名残惜しげに目を細めた。


「お前にはこの星の復興を先導する役目があんだろ! 気にすんな」


 その時、回収班の声が響いた。

「よし! 積み込みが終わった。いくぞ!」


「んじゃ、行きましょうかね」

 コルトが立ち上がる。


 ソギ―も立ち上がり、右手を差し出した。コルトも力強く握り返す。


「死ぬなよ! 目的を果たして、またここに遊びに来い」


「たりめーだ! すぐに戻ってきてやんぜ」


「ああ。その時は、盛大な歓迎パーティーを開いてやる」


「いいねぇ。約束だぜ! んじゃな!」


 熱を帯びた握手を交わし、しばしの再会を終えたコルトたちは小型艇に乗り込み、赤い空を背にして再び白キ戦艦へと帰還していった。

第81話『再びリムスタングへ(前編)』に続く。

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