第8話 第五層侵入作戦(後編)
第一章: 『ノワリクト』脱出編
非正規鉄道は、二箇所の生体認証ゲートと監視ドローンの巡回区画を、まるで幽霊がすり抜けるように通過した。ステルス機能の緑色の稼働ランプが静かに瞬くたび、車窓の外の世界は透明な膜の向こう側に押しやられたかのように、こちらを認識しない。
やがて前方に、銀色の装甲板で覆われた巨大な壁が現れる。壁の中央には、搬入口のシャッターが鎮座していた。複雑なケーブル群がその周囲を這い、表面には数十個の監視センサーが小さな赤い光を瞬かせている。
列車がゆっくりと減速する。運転席から降りてきたコルトが、腰のツールポーチから端末を引き抜いた。「——よし、ここからだ」
ナコは耳元に通信型のイヤリングを付け、スタンバイする。
彼の指が端末のパネルを叩くたび、画面上に走るコードが渦を巻き、館内システムへの侵入経路をこじ開けていく。
耳の奥でハリーの声が響く。
「外に人影はないわ。警備はドローンとロボット兵、それとセンサーのみ」
ミルトが肩をすくめる。
「こりゃあ楽勝だな。夜間の搬入口は眠ってるも同然だ」
コルトが端末を閉じ、ナコに振り返る。
「アゲハの生体反応、確認した。場所は“”——No.23留置室。そこまで行ったら、俺が遠隔でセキュリティキーを解除する。中からアゲハを引っ張り出して、すぐ戻れ」
ナコは頷き、中央車両の扉から館内へと飛び出した。心臓が一度強く打つ。
ハリーの声が再びイヤリング越しに響く。
『ルート送るわ。左の通路をまっすぐ——ロボット兵は制御下にあるから、気にせず通り抜けて』
搬入口のゲートが無音で開いた。冷たい空気が流れ込み、金属の匂いが鼻を刺す。ナコは一歩、二歩と足を踏み入れた。
通路脇に立つロボット兵の関節が、わずかに駆動音を漏らす。だがそれ以上の反応はない。ナコはその肩すれすれを通り過ぎ、床下のセンサーの帯を飛び越え、頭上を横切る警備ドローンを見上げながら歩を進めた。
——おかしいほど、うまく行く。
イヤリングから聞こえるハリーの指示は途切れず、コルトの制御下のセキュリティは完璧に沈黙している。
『あと二十メートルでNo.23留置室』
ハリーの声が耳元で囁く。
灰色の鋼鉄扉が視界に現れた。扉の脇のパネルには青い光が脈動している。ナコが立ち止まると、コルトの低い声が通信に入った。
『セキュリティキー解除する……よし、入れ』
ナコは扉に手をかけ、静かに押し開いた。冷気が顔を撫でる。室内の暗がりに、アゲハの横顔が浮かび上がった。
「え、なんで……何、どうなってるの?」
突然の親友の登場に驚きを隠せないアゲハの手を掴む。再会を喜んでいる時間はない。
「説明は後、逃げるよ! アゲハ!」
その瞬間——
けたたましい警報音が館内全域に響き渡った。
第9話『決死の逃亡劇(前編)』に続く。




