第79話 再びストラトバティスへ(中編)
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編
白キ戦艦はゆるやかな弧を描きながら、ストラトバティス宙域へと滑りこんでいった。船体をかすめるプラズマの光が筋となって虚空を流れていく。やがて機体が振動を止め、小型艇が切り離された。大気圏を抜け、ナコたちは再びストラトバティスの大地へと足を下ろした。
空を仰げば、赤色矮星の直射が容赦なく降りそそぎ、砂丘のうねりを鈍く光らせている。足もとで舞う砂は、つい先日に踏みしめたものと変わらないはずなのに、不思議と懐かしさを運んでくる。
「そんなに時間は経ってねぇはずなのに、なんか懐かしいな」
コルトが目を細め、砂を踏みしめながら言った。
「うん。ソギ―さんたちは元気かな」
ナコの声には、どこか柔らかい響きが混じっていた。
「ま、元気にやってんだろ。鬼は消えたんだし、俺らは目的のポイントゼロ、結晶体が鎮座していた遺跡に向かうぞ」
コルトはそう言って歩を進めた。
「ポイント近くに着陸したはずだ。少し歩けばすぐに目的地が見えてくるだろう」
身体をルクスに支えられながら、松葉杖をつくヒューベルトが低く答える。その声は乾いた空気に溶け、砂丘に吸い込まれていった。
「ええ。あちらの方角に……おそらく三十分もかからずに目的地が見えてくるでしょう」
イリナは小型端末を操作し、立体地図を映し出す。その蒼い光が彼女の横顔を一瞬だけ照らし、道を先導する。
赤色矮星の直射を背に、砂のうねりを抜けて歩を進めると、やがて大地の向こうに影が立ち上がった。四方を切り立った壁に囲まれた巨大な崖。その底には、時代の流れから切り離されたかのように、ピラミッド型の建造物が鎮座していた。砂漠のただ中で、それだけが不自然に静まり返り、存在を主張している。
「ここがそうか?」
ヒューベルトの声には、驚きと確信が入り混じっていた。
「ねぇ、でもあそこ……入り口まわりに人がたくさんいるよ。この星の人たち?」
ルクスが軽快な調子で言ったが、その眼差しは鋭く光っていた。
建物の周囲では槍を構えた見張りが立ち、別の者たちは石材を運び、壁面に刻まれた文様を調べていた。砂漠の静けさの中で、そこだけが小さな営みの音に満ちていた。
「大丈夫だろう。俺とハリー、ナコはこの星の人たちに以前世話になってる。ソギ―がいれば問題ないだろうし、最悪ソギ―の名前を出せばなんとかなるだろうよ」
コルトはそう言い残し、崖下へと歩き出した。砂を踏む音が、緊張を帯びた一行の心音と重なる。
やがて入り口前にたどり着いた瞬間、槍を構えた見張りが素早く近づき、声を張り上げた。
「お前たち、何者だ? 見ない顔だが……」
その声に呼応するように、周囲で作業していた者たちが動きを止め、ナコたちに視線を注いだ。沈黙が、砂漠よりも重く広がる。
「待て待て待て! 俺たちの顔に見覚えあるやつはいないか? あやしい人間じゃねぇよ!」
コルトが声を張り上げ、周囲をぐるりと見渡した。
しかし、返ってくるのは沈黙ばかり。誰もが警戒を解かぬまま、彼らを値踏みするように眺めていた。
「あやしいな。こいつらを捕らえるぞ!」
見張りの一人が槍を突き出し、砂の地面を鳴らす。
「ちょ、ちょっと待って!」
ナコの声が緊張を裂いたその時、奥の闇からひとりの男が姿を現した。
「やめろ! こいつらは俺の知り合いだ」
低く力のある声。たちまち、周囲の人々の表情が揺れ、警戒がほどけていく。
「ソギ―!! いてくれたか!」
コルトが叫んだ。その声には安堵がにじんでいた。
「久しぶりだな。なんでまたこの星にいる? それに……顔ぶれが少々変わったようだが」
ソギ―の鋭い眼差しが、ヒューベルト、ルクス、イリナに向けられる。
「ちょっとした理由があって……」
ナコがためらいがちに声を出した。
「安心しろ。こいつらは仲間だ。それに、ここにいないがミルトやアゲハも元気にしてる」
ハリーが穏やかに言葉を添えた。
「……全てが終わって様子を見に来てくれたってわけじゃなさそうだな」
ソギ―の視線が鋭さを増す。
「あぁ。話が速くて助かるぜ」
コルトは簡潔に事情を説明した。
ソギ―はしばし無言で考え込み、それから重い息を吐いた。
「なるほど……最奥の空間は触っていない。案内しよう」
その声には、かすかな懐かしさと、再会の温もりが同居していた。
第80話『再びストラトバティスへ(後編)』に続く。




