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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

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第78話 再びストラトバティスへ(前編)

最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編

 白キ戦艦の医療施設には、独特の静けさと熱気が同居していた。冷たい金属の壁に囲まれた広い病室には、負傷者たちのうめき声、器具のかすかな駆動音、そして慌ただしく動く医療スタッフの靴音が混じり合う。


 その中で、ナコとハリーは一心不乱に看病を続けていた。手には湯気を立てるお粥の皿、包帯、消毒液。あれほど壮絶な戦いを経てなお、生き残った仲間たちの命を繋ぎとめるために、彼女たちは昼夜を問わず動いている。


 重傷を負って療養していたアゲハの姿もそこにあった。彼女の身体はほとんどの傷が癒え、包帯の下から覗く肌には生気が戻っていた。今はむしろナコと並んで、傷ついた仲間たちを支える立場にいた。


 イクサの病床、ミルトの横たわるベッド、そしてバルエクスから戻った無数の兵士たち。アゲハはその間を走り回り、励ましの声をかけ、タオルを替え、傷口の様子を確かめている。


 ナコは彼女の横顔を見つめながら、胸に重いものを抱えたままだった。 


――まだ伝えていない。


 ジャコウが死んだことを。そして彼がシャクイガだったという真実を。二千年前から続いてきた結晶体の実験のすべてを。


 言葉にすれば、アゲハの心を切り裂くことは間違いなかった。ナコ自身、まだその全容を受け止め切れていない。頭の奥で真実が重く沈殿し、どうしても口にはできなかった。

 だから必死に怪我人の看病に没頭した。働いている間だけは、少しだけその事実を忘れられるような気がして。


「うんめぇぇ!! おかわり!」


 病室に突然響き渡る声。イクサが食堂から運ばれた昼食を豪快にかき込み、口いっぱいに飯粒を残したまま叫んでいた。


「おいっ! 何杯食べるんだよお前は!」ハリーが思わず声を荒げる。

「はいはい、まだあるから焦らないで」ナコは苦笑しながら、イクサの皿に山盛りのご飯を盛り付ける。


「怪我を直すにはやっぱ食うに限るだろ! ほら、まだまだイケるぜ!」


 イクサは骨折も裂傷もものともせず、あれだけの重傷を負ったはずなのに今は笑いながら箸を動かしていた。


「……運び込まれた時は、本当に死にかけてたのにな」ハリーが呟くと、近くで患者を診ていたドクターが白衣の袖を押さえながら口を開いた。


「彼が人造の人間だというのは本当みたいだね。僕も驚いたよ。限りなく人間に近いのに、細胞の回復力は常識を超えている。こうやってバクバク食べていると、とてもそうは見えないけれどね」


 ドクターは肩をすくめ、微笑を浮かべる。


「ま、じいちゃんはグリムジャガー一番の天才科学者だったからな」イクサは一瞬だけ箸を止め、真剣な目で言った。「じいちゃんが俺を生かしてくれた理由……俺はグリムジャガーを昔のような幸せな星に戻したい。そのためには、たかが腹を貫かれた程度でくたばってらんねぇんだよ」


 そして再び豪快に飯をかき込む。


「そうだぜ! 早く治してまた俺と訓練しよう!」

 にこやかな声が病室の入口から響いた。振り向けば、そこにはトックスが立っていた。


「おうおう! まかしとけトックス! すぐに復活してやる!」イクサは満面の笑みで親指を立てる。


「ちょっとー、隣でそんなに騒がれたらミルトが……」アゲハがカーテンをかき分けて顔を出す。その奥、まだ横たわっているミルトが低い声をあげた。


「いや、大丈夫だ。むしろ元気をもらえる。辛気臭いよりは、ずっといい」

 そして少し笑みを浮かべ、「俺も……おかわりをくれ」と続けた。


「おうおう、いいじゃねぇか!」


 扉を勢いよく開けて入ってきたのはコルトだった。頬に薄い笑みを浮かべ、全員を見渡す。

「これからエリムスの野郎をぶっ飛ばす最後の戦いが始まるんだ。気合い入れて、さっさと終わらせて、日常に戻ろうぜ」


 その言葉と同時に、コルトの視線がナコに向けられる。

「ナコ……お前は大丈夫か?」


 バルエクスでエリムスから語られたすべてを知るのは、コルトとナコだけ。ナコは唇をきゅっと結び、やがて小さく頷いた。


「……うん。今はただ、エリムスを倒して日常に戻ることだけを考えてる。悩むのは、全部が終わってからにしたいから」

 その声は少しだけ震えを含んでいたが、強い意志を感じさせる力強さがあった。


「やつに対抗する手段は決まった。少し寄り道をするが、その先でノワリクトに向かって、すべての決着をつける」


 コルトの低い声に、病室にいた仲間たちは一斉に真剣な顔つきで頷いた。


「まずは……再びストラトバティスに上陸だ」


「ストラトバティス!?」

 仲間たちの驚きの声が響き、空気が一瞬張り詰める。


「スト……なに?」イクサは口を半開きにして首を傾げている。


「俺たちの最後の希望について話をさせてくれ」

 コルトは深呼吸し、ブリーフィングルームで決まったすべてを仲間たちに語り始めた。


 その言葉を受け止めながら、仲間たちの表情には次第に決意の光が宿っていく。


 白キ戦艦は希望を乗せ、再び惑星ストラトバティスへの宙路を進んでいた。

第79話『再びストラトバティスへ(中編)』に続く。

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