第77話 最後の希望
最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編
白キ戦艦のブリーフィングルーム。
スクリーンに映し出されたのは、ノワリクトの統治の間で、優雅に玉座に座り演説をしている狂気そのものの女――エリムス。
「ノワリクトは……墜ちたか」
映像を見つめながら、コルトが低く唸った。
その場にはミカエルを中心に、コルト、ルキ、ルクス、イリナ、そしてクレイグとマリウスが座していた。重苦しい空気が全員を圧し潰す。そこにキャプテン、ヒューベルトの姿はない。
「本当の地獄の始まりか……」ミカエルが呟く。
「ねぇ。どうするの。このままじゃ……」普段なら冗談を飛ばして空気を和ませるルクスだが、今は声を震わせ俯いていた。
「……バケモンだったぜ。いくらヒューが回復したとしても、もうどうしようもないだろう」
バルエクスで血の戦場を経験したルキの声は失意に沈んでいた。
「俺たちはあの戦いで、サイクス、オスカー、ロック、ムラマサを亡くしてる。これ以上戦っても犠牲を増やすだけだ」
ルキは椅子に背を預け、すでに戦意をなくしている。
重い沈黙の後、コルトが口を開いた。
「だが、この白色の結晶体を俺らが持っている限り、エリムスはいずれ必ず牙を剥いてくるだろう。やはり宇宙空間に捨てるべきか……」
コルトはテーブルの上に白色の結晶体を置いた。脈打つような光が、なおも存在を主張している。
「我ら白キ戦艦には住民区画の民もいる。犠牲を増やすわけにはいかない。白色の結晶体は宇宙に捨て、我らは身をひそめ銀河の影で暮らすのが最善の策だろう……」
ミカエルの声も沈痛だった。
――そのとき。
「いや、それはダメだ!」
ブリーフィングルームの扉が荒々しく開き、全員が振り返る。
そこに立っていたのは、身体を包帯で覆い、腹には厚く巻かれた止血布。松葉杖に身体を預け、傷だらけの姿で歩み入るヒューベルトの姿だった。
「キャプテン!」
「ヒュー!」
一斉に声が上がる。ルクスが駆け寄り、彼の身体を支えた。
「キャプテン! だめだよ! まだ安静にしてなきゃ!」
だがヒューベルトはその制止を振り切り、堂々とキャプテンズシートに腰を下ろした。
「白色の結晶体を捨てれば、俺たちは完全にあの女に抗う力を失う。もはや誰も止められなくなるだろう」
低く、しかし鋭い声が響く。
「だけどヒュー! 相手は三つの結晶体を持ってる。こっちに一つ力があったとしてももうどうしようもないだろ!」
ルキが声を荒げる。
「それに器がふたつともエリムスに渡ってる以上、結晶体の力を引き出す方法がねぇ。無駄な犠牲を増やすだけだ……」
コルトも苦々しく言い放つ。
ヒューベルトは彼らを見渡し、強い眼差しで答えた。
「だが、一つでも力を持つ俺たちが戦わなければ、この銀河は混沌の地獄と化すだろう」
その言葉に誰もが口をつぐむ。コルトが俯き、低く呟く。
「……そりゃ、わかってるけどよ」
「イリナ。白キ戦艦は今どこにルートを取っている」
ヒューベルトの問いに、イリナが顔を上げる。
「一応はノワリクトに進路を取っていたけれど……」
「ルートを変更する。目的地は――ストラトバティスだ!」
「ストラトバティスだと!」コルトが驚愕の声を上げる。
「コルト、ストラトバティスの結晶体のあった場所へ案内しろ」
「いや、待て! ストラトバティスの赤色の結晶体の力はもう吸収されてる。抜け殻の結晶体は俺が持ってるんだぞ……もうあそこには何も……」
「ストラトバティスでお前たちが見たという過去の映像。それはおそらく結晶体のエネルギー残滓がひきおこした時間逆行現象。簡単に言えば時間の逆再生、巻き戻しだ」
ブリーフィングルームがざわつく。
「強大なエネルギーが一気に吸収され、放出された影響で空間が歪み、その場所の何かを介して瞬間的に時間の逆行現象が起きた。言うなれば、お前たちは二千年分の時間をその一瞬で遡って体験したということだろう」
コルトが目を見開く。
「時間の逆再生……だとしたらなんだってんだ? そこに何かあるのか?」
「ストラトバティスの結晶体があった場所に……何か特徴的なところはなかったか?」
「特徴的って……確か、小さな空間で……そうだ。無数のクリスタルが壁や天井を覆っていて、異様な雰囲気だったのを覚えてる。その中央の祭壇に赤色の結晶体が鎮座していたんだ」
ヒューベルトはにやりと笑った。
「希少鉱物だ!」
「希少鉱物!?」
「ああ。思い出せ。リムスタングの大空洞では、黄色の結晶体が生み出す無尽蔵のエネルギーが、希少鉱物を生成していた。そしてその希少鉱物を材料として作られていた武器は、結晶体から力を抽出する媒介として使われていただろう。ドギガイズの剣だ……」
「つまりどういうことだよ?」
その場の全員が耳を傾ける中、ヒューベルトは淡々と続けた。
「希少鉱物製の武器を使えば、結晶体の力の一部を取り込み、誰もが力として使用することができるってことだ。簡易的な神器のような役目を果たすと言っても過言ではない。機能制限付きだがな」
「意識を喰われて……怪物になるんじゃないのか? ドギガイズのように」
「程度問題だ。過剰すぎるエネルギーは自我を壊す。だが、ある程度ならば問題ない。ドギガイズもそうだっただろう」
「……だけどよ、リムスタングからは結晶体の力が失われて希少鉱物は一切取れなくなっている……どうやって……。だからストラトバティスか……」
「ああ。赤色の結晶体が鎮座していた空間。そのまわりを覆っていたクリスタルこそが、希少鉱物だ。それに、空間が狭い分その純度はリムスタングの比じゃないだろう。それを手に入れて、武器へと加工し、白色の結晶体の力を取り込むことができれば……」
「……結晶体の力を持った武器がある程度量産できるってことか」
その提案に、全員が息を呑んだ。
「だけどよ、ドギガイズはをノワリクトにも希少鉱物卸していたんだろ……同じことがエリムス側でもできるってことじゃねぇのか」
コルトが問う。
「ああ。だから先手を打つ。おそらく純粋な希少鉱物が取れる場所はもうそこしかないだろうからな。それに、絶対的な力を過信しているエリムスが、兵隊たちにその力の恩恵を与えるとは思えない」
「……やってみる価値はありそうだな」
ミカエルが言葉を挟んだ。
「なら、リムスタングでドギガイズが使っていた武器も回収しておこうよ。きっと保管されてるんじゃないかな」
ルクスがいつもの調子に戻り、少しだけくだけた口調で話す。
「了解しました……そこに希望があるのなら。進路をノワリクトからストラトバティスに変更します!」イリナの指がコンソールを操作する。
「よし……反撃開始だ! この地獄の連鎖を断ち切るためにな!」
ヒューベルトの叫びに、ブリーフィングルームの空気が一変した。
沈んでいた心に、再び戦意の炎が宿る。
白キ戦艦は進む。運命を変えるために――。
第78話『再びストラトバティスへ(前編)』に続く。




