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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第五章:禁止惑星『バルエクス』戦争編

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第75話 バルエクス脱出(後編)

第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編


 狂気に満ちた咆哮とともに、エリムスが振り抜いた神器の杖。その先端から解き放たれた水刃は、蒼白い光をまといながら蛇の群れのようにうねり、コルトとナコが駆け抜ける悪魔の爪の如き細道を縦断した。


 耳を裂く轟音とともに、通路の石床が爆ぜ、支柱が砕ける。瞬く間に足場は崩れ、眼下には底知れぬ奈落の闇が口を開ける。


「まじかよっ! 飛べぇぇぇぇ! ナコ!」


 コルトの声は、絶望を振り払う檄のように響いた。


 二人は躊躇う暇もなく跳んだ。崩れ落ちる床を蹴り、全身を投げ出す。跳ね橋へと至るわずかな空間を飛び越えるその瞬間、耳元を冷たい風が裂く。奈落の暗黒が背後から迫り、落ちれば二度と帰れぬ終わりが待つ。


 コルトの指先が、跳ね橋の端をかすめた。ごろりと転がり、肩を強打する。すぐにナコの体も横に転がり込む。二人は咳き込みながらも、倒れたままに立ち上がり、揺れる足で走り出した。


「返せぇぇぇぇ! 返せぇぇぇぇ!」


 背後から迫る気配は、まさに死神。エリムスが人ならざる速度で迫る。血に塗れた髪が乱れ、瞳には狂気が燃えていた。


「今すぐお前らを殺して、ワタクシが白色の結晶体をぉぉぉ!!!」


 その絶叫と同時に神器の杖が振り下ろされ、空気が裂ける。


 だがその刹那――


 跳ね橋上空に浮遊していた白キ戦艦の小型艇から、無数の閃光が降り注いだ。光線の雨は矢の如く一直線に走り、エリムスを包囲する。


「小賢しいぃぃぃわ!!!」


 エリムスは瞬時に水流の壁を張り巡らせた。奔流が竜巻のように巻き上がり、光線の奔流を防ぐ。蒸気と水煙が爆ぜ、視界は白く塗り潰された。


 その混濁の一瞬、小型艇の腹部から梯子が垂れ下りる。


「コルト! ナコ! 今よ!」


 イリナの怒声が空を震わせた。二人は迷わず梯子に飛びつき、必死で足を掛ける。


「キャプテンと仲間たちの恨みだぁぁぁ!!!」


 操縦席から聞こえるルクスの絶叫とともに、小型艇の砲口が中央塔へと火を吹いた。轟音が宇宙を震わせ、塔の半分が粉砕される。


 崩壊した瓦礫が、小型艇を追うエリムスの頭上に豪雨のように降り注いだ。


「殺すぅぅ殺すぅぅううう!!! 小賢しきゴミ虫どもめぇぇぇ!!」


 エリムスの姿が瓦礫と煙に呑まれる中、小型艇は急上昇を始める。梯子をよじ登り切ったコルトとナコは、転がるように艇内へと飛び込んだ。


「おい! まだあそこにはオスカーが!」


 荒く息を吐きながらコルトが叫ぶ。


 だが、横にいたイリナが俯いたまま小さく呟いた。


「オスカーは……もう……」


 その言葉は、刃より鋭く胸を抉った。


「ち、ちっくしょがぁぁぁぁぁ!!!」


 コルトは壁を殴りつけ、血を散らす。ナコもその場に座り込み、肩を震わせた。


「ジャコウ……さん。オスカーさん……」


 小型艇は急速に上昇し、瓦礫と炎の海を離脱。やがてバルエクスの大気圏を突き抜け、白キ戦艦本艦の影に帰還する。


 バルエクス戦争――それは真実を暴き、多くを失わせた。


 ムラマサ、ロック、サイクス、オスカー。白キ戦艦の十士(じゅっし)のうち四名が殉職。

 ヒューベルト、イクサ、ミルトは重傷。

 ジャコウは、本当の名をシャクイガと明かし、アゲハとの偽りの血縁、そして二千年以上前に結晶体研究を始めた科学者としての真実を残し、命を散らした。


 白色の結晶体は彼らの手に残った。だが同時に、赤・青・黄の結晶体と、それらを束ねる禁書――漆黒の結晶体。そして神器の杖を手にした悪魔、エリムス。


 戦いはなお、激しさを増すことを予感させていた。


 ――


 崩壊した中央塔。血と腐臭、そして硝煙が混じり合う地獄の中で、エリムスは立っていた。


 瓦礫に埋もれながらも、その手には神器の杖と漆黒の結晶体がしっかりと握られている。


「うふ。あはははははは」


 笑い声が崩壊した星に響く。不気味な笑み、濁った瞳。その足元には血に濡れた瓦礫と、屍が折り重なっていた。


「よろしいでしょう。この銀河の支配者となるワタクシに牙を剥いたことを、地獄の底まで後悔させてあげましょう」


 闇の中で、エリムスは血と炎を背に、狂気の女帝のごとく立っていた。


「計画は最終段階。うふ。ノワリクトに戻りましょうかね。ワタクシの星となる――エストリプス銀河最大の惑星。古くはレスポリア、そのさらに昔には地球と呼ばれていた星に……うふ」


 不気味な笑いが再び夜を裂いた。

 ■最終章:エストリプス銀河最大惑星『ノワリクト』最終決戦編■


        第76話『地獄の始まり』に続く。

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