第74話 バルエクス脱出(前編)
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
「カマイタチ!」
ナコの声が鋭く響き渡る。同時に生まれた風の刃が床を裂き、三人の身体を包むように疾走した。ジャコウとエリムスが血煙と魔力の渦の中で死闘を繰り広げるその背後、コルト、ナコ、オスカーは風に乗り、結晶体が収められている円柱群のひとつへと駆け抜けた。
「あいつらが戦いに集中している間に、どうにか白色の結晶体を奪い去るぞ!」コルトの声は震えを隠しながらも鋭い。
「でも、あの円柱のドーム……特殊金属で覆われてる。そう簡単に壊せないんじゃ」ナコが息を荒げて言う。
「いや、どんな金属でも完璧ではない。我がレイピアの刺突――小さな穴のひとつでも空けられれば、そこからどうにかなるだろう」オスカーの瞳が鋭く光った。
その時、空間全体が震えた。ジャコウの呻き声が響き、その直後、エリムスの狂気に満ちた高笑いがこだました。
「ジャコウさん!!」ナコが反射的に叫んでしまう。
「ち、決着が着いちまったか! オスカー、いけるか!」コルトが振り返る。
オスカーは一歩踏み込み、深く息を吸った。
「一点刺突刃千――!」
閃光のような刺突が繰り出され、ドームを覆う金属に火花が散った。刹那、小さな穴が穿たれた。
甲高い金属音に、エリムスの顔がこちらを振り向いた。表情が瞬時に歪む。
「ちぃ。虫の如き分際で、白色の結晶体は渡しませんことよ!」
振り抜かれた神器の杖から、水の刃が生まれ、竜となって襲いかかる。
「フレイムス!」
「カマイタチ!」
ナコが叫び、炎の壁を形成する。だが竜の勢いは圧倒的で、炎を引き裂き、そのままドームに叩きつけた。
轟音。特殊金属のドームが裂け、砕けた破片と共に、眩く白き結晶体が宙を舞った。
「しめた!」
コルトが飛び込み、瓦礫に押し潰されそうになりながらも手を伸ばした。
「掴んだ!」
転がりながらも白色の結晶体を掌に収め、すぐに態勢を立て直す。
「すぐに出口へ向かえ。逃げるぞ!」
その声を合図に、三人は跳ね橋へと続く扉へ全力で駆けだした。
だが、その前に鬼神の如き速さで、エリムスの影が立ち塞がる。
「虫けらがぁぁぁぁぁ!!」
掌から光弾が放たれようとした瞬間――。
閃光のように踏み込んだオスカーの剣が、エリムスへ突き立てられた。
「ちぃ!」
エリムスはひらりとかわす。しかし、オスカーの動きは止まらない。
「跳ね橋まで走れ! 今頃ルクスたちが小型艇をつけているはずだ! なんとしてもそこまで走り抜けろ!」
「お前は!?」コルトが振り返り叫ぶ。
「すぐに追いつく!」
その言葉を皮切りに、コルトとナコは全力で扉へと走り抜けた。
「させませんことよ!」
エリムスが漆黒の結晶体を掲げる。だが次の瞬間――。
「痛つっ!」
強大すぎる力を扱いきれず、手にした漆黒の結晶体が灼けるように暴れ、彼女の動きを阻害する。
「すぐには無理みたいですわね。ですが……逃がしませんことよ!」
血に濡れた腕で杖を掲げ、水の刃を再び形成する。
「させぬっ!」
オスカーの超速の刺突が、今度はエリムスの胸元を貫かんと迫った。
「先ほどの戦いの傷……思ったより効いているようだな。動きが落ちているぞ!」
突き、突き、突き。嵐のような連撃が繰り出される。
しかし、血を振り乱しながらも、エリムスは狂気に笑い、オスカーの懐に潜り込む。
「邪魔だぁ! ゴミ虫めぇぇぇぇ!!!」
歪み切ったその顔から迸る狂気。次の瞬間、水の竜がオスカーを呑み込んだ。
刃の群れが肉を裂き、骨を砕き、血の雨が宙に舞った。
「ぐふあぁぁあ!」
オスカーの身体が崩れ落ちる。
「た……頼んだ……ぞ。必ず……」
最後の言葉を紡ぎきる前に、命の灯火は潰えた。
なおも歪んだ表情のまま、エリムスは狂ったように叫んだ。
「やつら、どこへ行った!! すぐに殺してやる! ワタクシがこの世界の神となるのです!!」
その声を背に、コルトとナコは扉を蹴破り、階段を駆け下りる。跳ね橋までの道、悪魔の爪の如き細い通路を走る、眼下には奈落の闇が張り出していた。
「行ける! このまま抜けるぞ、ナコ!」コルトが振り返り叫ぶ。
だが次の瞬間。
轟音と共に背後の扉が砕け散り、血に濡れた鬼神の如きエリムスが姿を現した。
「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その眼は狂気に染まり、獲物を喰らわんとする獣のごとき光を放っていた。
第75話『バルエクス脱出(後編)』に続く。




