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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第五章:禁止惑星『バルエクス』戦争編

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第70話 回想:古代レスポリア王国-二千年前- ④

第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編

 非道な実験は、シャクイガの指揮のもと即座に開始された。

 冷たい拘束具に縛られた人間たちが、ひとり、またひとりと地下の研究施設に連れ込まれていく。暗黒物質(ダークマター)で造られた壁は音を吸い、悲鳴さえ外に漏れることはなかった。結晶核と人体の融合は、当初から失敗の連続であった。肉体は拒絶反応を起こし、皮膚が裂け、骨が砕け、血と臓物が床に広がる。数多の人間がただの屍へと変わり果て、腐臭だけを残して処分されていった。


 だが、シャクイガの執念は止まらなかった。

 人間だけではなく、地上に残る獣までも捕獲され、結晶核と掛け合わされた。獰猛な牙を持つ狼や、翼を持つ猛禽。あるいは海の底から引き揚げられた異形の魚すらも、結晶核の力と強制的に融合されていく。やがて、言葉も持たぬ混沌の生物兵器が数多く誕生した。


 しかし、それらは制御を受け入れず、暴れ狂い、研究所の檻を破壊して逃げ出すこともあった。シャクイガはその暴走した兵器を無理やり鎮圧するのではなく、意図的に他の惑星へと送り込んだ。低い文明を持つ星々は、次々とその恐怖に屈した。黒い翼の怪物が空を裂き、結晶の棘を生やした獣が都市を喰らい、やがて文明そのものを地に叩き落としていく。レスポリアの名は、銀河の辺境においても恐怖の代名詞となった。


 実験の積み重ねは、やがて「制御可能な個体」の誕生へとつながる。従順に命令を聞き、軍団のように整列する生物兵器が少しずつ増えていった。その頃には、長い年月が流れていた。


 シャクイガは六十四歳。

 ノワリクト王は八十を超え、老いさらばえた姿で車椅子に身を預けている。天空艇で地球に降り立ったレスポリア人二十四名のうち、既に半数以上が寿命を迎え、亡くなっていた。純粋なレスポリアの血を持つ者は、いまや十二名にすぎなかった。


「シャクイガよ……まだできぬのか」


 老王の声は掠れ、かつての威厳の残滓すら薄れていた。

「我が身を朽ちることなき身体に変え、永遠の生を得る実験は……」


 シャクイガは目を伏せたまま、低く答えた。

「結晶核の力と、我ら自身の肉体を融合させれば、複数同位体(ケルベロス)のように不老の躯を得られるやもしれません。しかし、今の段階では自我が結晶核に喰われる危険が大きすぎます……。もう少し、時間が必要です」


「は……はよう、するのだ……。我が命が、尽きぬうちに……」


 シャクイガは深く頭を垂れた。


 もはや生物兵器の量産は可能となりつつある。次に求められるのは、自らの永遠の命。研究所の最深部では、己らの身体を結晶核で永遠に保つ方法が最重要課題として進められていた。



 ――そして、ある日。

 突如として警報が研究施設全域に鳴り響いた。赤色の光が明滅し、研究員たちが悲鳴を上げる。


「くそっ、どうなっている!」


 シャクイガは端末に指を叩きつけながら、額に滝のような汗を流した。

「結晶核のエネルギーが……止まらん! 膨張していく……こんな反応、今まで一度も……!」


 暗黒物質(ダークマター)で造られた特殊円柱。その内部に収められている神器の杖が、異様な脈動を放っていた。結晶核は黒く光りながら肥大化を続け、内部の力が暴発寸前にまで高まりつつある。


「くそがっ、このままでは円柱がもたん! 暴発すれば、この星ごと消し飛びかねないぞ!」


 制御は完全に失われていた。今まで安定して抽出できていた結晶核の力は、逆に暴走を始め、銀河すら震わせるほどのエネルギーを膨張させていく。


「くそっ……だめだ……!」


「シャクイガよ……どうなっておる……」

「せ、制御できるのだろうな!」


 研究所の奥に現れたのは、車椅子に乗ったノワリクト王。そして白髪を振り乱した七十四歳のギリガン。重臣たちの顔にも恐怖が浮かび、口々に叫び散らしていた。


 結晶核は円柱の中でさらに膨張し、光が亀裂となって迸る。暴発は目前。


「……仕方がない。試作段階だが……」


 シャクイガは奥のケースから、漆黒の結晶体を取り出した。それは彼が密かに造り上げていた第二の神器。暗黒物質(ダークマター)をもって形成された器である。


 膨張する神器の杖のエネルギーを吸収させようと、彼は結晶体を円柱の中へ投入した。黒光が絡み合い、激しい共鳴を起こす。結晶体が力を吸い上げることで、肥大化していた杖の結晶核は徐々に圧縮されていった。


 だが、異常なエネルギーの流れは予想を超えていた。神器の結晶核には、ついに深い亀裂が走る。


「くっ――無理か! 地下シェルターを開けます! 今すぐ退避を!」


 シャクイガの叫びと同時に、研究員たちが扉を開放。レスポリアの重臣たちは我先にとシェルターへ飛び込み、シャクイガもその後を追った。扉が閉まる刹那、耳をつんざく轟音が研究所を貫いた。


 神器の結晶核は砕け、凄まじい爆発が惑星を揺るがす。地表はえぐり取られ、レスポリアの半分は死の大地へと変わった。


 ――しばしの沈黙のあと。


 シェルターの扉が軋みを上げて開かれた。


 そこに広がっていたのは、灰と化した大地。かつての研究所の影もなく、ただ無惨な荒野が果てしなく続いていた。


 その中央には、四つの結晶核の欠片と、神器の杖、そして漆黒の結晶体が転がっていた。


「なんということだ……」

 ノワリクト王が乾いた声で呟いた。


 シャクイガは膝を折り、欠片を拾い上げる。

「……実験施設を、他の惑星に移しましょう。この四つの欠片は、それぞれ別の惑星に保管し、研究を続けるべきです。同じ惨禍が再び起きても、レスポリアそのものを失わずに済むように」


「……よいだろう。だが、暴発した神器の杖は……」


「別の惑星に移送します。器としての漆黒の結晶体は、いざという時の為にこの星で保管しましょう」


 ノワリクト王は小さく頷いた。

「急ぎ取り掛かれ……複数同位体(ケルベロス)を使い、支配を広げるのだ」


「おおせのままに」


 シャクイガはギリガンに視線を向ける。

「ギリガン、再びその腕が必要だ。力を貸してくれ」


「フハハ! この老骨とてまだ錆びちゃいねぇ。暴れてやろうじゃないか!」


 こうして、新たな支配の標的が定められた。


 ――ストラトバティス。リムスタング。グリムジャガー。バルエクス。


 漆黒の歴史は、銀河にさらに深い影を落とし始めたのだった。

第71話『真実(前編)』に続く。

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