第7話 第五層侵入作戦(前編)
第一章: 『ノワリクト』脱出編
銀河環内線の貨物専用ルートを走る非正規鉄道は、都市の底層をくぐり抜けるようにして滑る。車輪の軋みひとつすら抑え込んだ静寂の中、外壁のすぐ向こうを、光を撒き散らす巨大配管や動力炉の冷却管が通り過ぎていく。壁面の赤錆色が、非常灯の薄い朱色に滲み、列車の影と溶け合っていく。
中央車両の円卓には、ナコ、コルト、ハリー、ミルトの四人が腰を下ろしていた。円卓の上には小型ホログラム投影機が置かれ、淡い青の光がふわりと広がる。その中心に、銀河中央図書館第五層『留置の間』の三次元構造が現れた。複雑に絡み合った通路、搬入口、監視ルートが網目のように浮かび上がる。
コルトは腕を組んだまま、低く言った。
「作戦の流れは確認しておこう。貨物専用ルートは、都市の心臓みたいなもんだ。食料も書物も燃料も、全部ここを通って運ばれる。当然、重要施設には個別のセキュリティがある」
ホログラムが切り替わり、赤くマークされた二箇所のゲートと、その周囲を巡回するドローンの軌跡が示される。
「銀河中央図書館第五層の場合、最初に立ちはだかるのは二箇所の生体認証ゲートだ。それと、監視ドローンの巡回エリア。この二つについては、今俺たちが乗ってる列車のステルス機能が効いてる限り問題ない。奴らのセンサーには、この車両は“存在しない”」
ミルトが頷き、椅子を回転させながら言葉を足した。
「ただし、搬入口に着いたら話は別だ。そこにも認証ゲートがある。昼間は警備員が詰めてるが、夜間はゼロ——コルトが図書館技師だった頃から変わってないはずだ」
ハリーが指先でホログラムの搬入口を拡大する。
「ここから先は時間との勝負。搬入口に到着した瞬間、コルトが図書館のシステムにハッキングをかける。セキュリティのプロトコルは把握済み、多少の更新なら対応できるはずよ」
ナコは黙ってその言葉を聞きながら、膝の上に置いていた拳を握った。緊張から少しの汗が滲んでいる。
「システム制御を奪ったら、おまえの出番だ」
コルトがナコに視線を向ける。
「館内のデータルートからアゲハの居場所を割り出し、最短ルートで行ってもらう。そのために——」
ミルトが懐から小さな銀色のイヤリングを取り出し、ナコの掌に乗せた。冷たい金属の感触と、内部で微かに震える動力の脈動。
「通信型だ。館内を進む間、ハリーが安全なルートを逐一指示する。耳元で声がするから、迷うことはない」
ナコは頷き、イヤリングを握りしめた。
「……わかりました」
ハリーが淡々と言った。
「ただし、『留置の間』内では深夜でも人間の警備が配備されている可能性がある。ドローンやロボット兵ならシステムで抑えられるけど、人間は無理。異変に気付かれたら、即刻警報が走るわ」
コルトの声が鋭くなる。
「使える時間は、ハッキング開始からおよそ十分程度が限界だろう。五分でアゲハのいる場所に到達、五分で戻る。それ以上は——逃げ切れないと思え」
列車はなおも静かに進む。外壁をかすめる光の流れが、ナコの横顔を淡く照らす。心臓の鼓動は高鳴っていたが、その奥底には、冷たい決意が沈んでいた。
——絶対に、アゲハを連れ戻す。
第8話『第五層侵入作戦(後編)』に続く。




