第69話 回想:古代レスポリア王国-二千年前- ③
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
天空艇はゆっくりと宇宙空間を進んでいく。古代レスポリア王国の重臣たちは、天の川銀河の青き惑星――地球の大地に悠然と降り立ち、その目に映る光景を支配の対象として冷徹に見下ろした。
侵略はあまりに呆気なかった。天空艇に搭載された殺戮兵器は、地球の大国を一瞬にして焼き払い、都市を崩壊させ、大地を裂いた。人類が必死に抗うため放った兵器の弾丸や火薬の火は、まるで幼児の悪戯のように通じることなく、ただただ炎に呑み込まれていった。
人類の総人口は瞬く間に半分以下へと減り、青き星は血と煙に覆われる。やがて、ノワリクト王は堂々とその地上に降り立ち、静かに言葉を紡いだ。
「この星の名を今日よりレスポリアと改める。ここに新しき王国の建国を宣言する。今後、地球という言葉を発したものには国家反逆罪として極刑を処す」
こうして、地球はその名を奪われ、新たな古代レスポリア王国の礎と化した。生き残った人々は、誰もが『地球』という言葉を禁句とし、レスポリアへの忠誠を誓わされた。
――暫定レスポリア王国重要拠点、軍事会議室。
「ぐははは! 簡単だったなぁシャクイガよ! これでまた俺様が暴れることができそうだぜ!」
豪快に笑うギリガンの声が、重厚な石造りの会議室に反響する。
「あぁ。我々が中心となり、この新生レスポリア王国を銀河の支配国家としていこうぞ」ノワリクト王が高らかに宣言した。
「我らレスポリアの人間に栄光を!」
「この星は美しい。笑いが止まりませんなぁ」
「資源も豊富だ。文明力さえ我々の知識で引き上げれば、旧レスポリアを超える大国にするのも夢ではない」
重臣たちはそれぞれに興奮し、酔いしれるように声を上げた。
だが、その熱狂を冷ますように、シャクイガの冷静な声が割って入った。
「ところが、そう簡単にはいきそうもありませんね」
彼は手元の端末を操作し、会議室中央のモニターに天の川銀河周辺の略図を映し出す。星々を示す点が輝き、そのいくつかには警告色が灯った。
「ざっと調べただけでも、この銀河には文明惑星がいくつも存在している。文明レベルはまちまちですが、それなりに進んでいる星も見受けられる。惑星間の干渉はないようですが、もし我々が油断し力を失えば、いずれ脅威と変わるのは明白でしょう」
「なるほど……今のままでは、他の文明惑星と戦争になった時に、我らは敗れる可能性があるということか」ノワリクト王は小さく頷いた。
「軍事力の強化が最優先事項だな」重臣のひとりがそう叫ぶと、会議室に再びざわめきが広がる。
ギリガンが大きな体を揺らして唸った。
「だが、この星の人間は弱く脆い。文明力も低い。俺様が鍛えあげても、ゴミはゴミにしかならんだろう」
「ふむ……では、シャクイガよ。何か考えがあるのだな?」ノワリクト王が視線を向ける。
その問いに、シャクイガの唇がわずかに吊り上がった。
「ええ。もちろんありますとも」
彼の目が妖しく光る。
「人間と結晶核の力を融合させ、従順な兵隊を作り上げる――複数同位体化計画がね」
「なに……人間と結晶核を掛け合わせるだと?」重臣たちが一斉に騒めいた。
「はい。この星の人間は弱い。ならば無理やり強くしてやればいい。人体実験を繰り返し、強靭な力と従順な知能を持つ兵を量産するのです。獣を掛け合わせるのもいいかもしれません。結晶核の力があれば簡単な話でしょう」
ノワリクト王は椅子から立ち上がり、両手を広げるようにして声を張り上げた。
「すぐさまその実験を開始せよ! シャクイガ! 我々はこの銀河の支配者とならねばならぬ。星の民はいくらでも使うがよい!」
「おおせのままに」
冷ややかな笑みを浮かべたシャクイガの瞳には、既に地球人を素材とした恐るべき未来図が描かれていた。
第70話『回想:古代レスポリア王国-二千年前- ④』に続く。




