第68話 回想:古代レスポリア王国-二千年前- ②
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
二千年前。レスポリア王国の崩壊を目前に、暗黒物質を核とした『神器の杖』の開発は急ピッチで進められていた。
王都の地下深くに築かれた実験棟。その中心に置かれた黒く脈動する結晶体を前に、科学者たちはひたすら計算を重ね、装置を組み上げていった。
「……成功だ。これで神器にブラックホールのエネルギーを吸収できるようになるだろう」
シャクイガの声に、周囲の研究員たちは歓声を上げた。結晶体が杖の中央で禍々しい光を放ち、空間がわずかに歪んで見える。
その日からさらに幾度となく試験が繰り返され、神器はやがて完成へと至った。
だが時は無情に過ぎていった。
気づけば、銀河の崩壊まで残された時間は半年ほど。いくつもの星々が次々と飲み込まれ、宇宙の空白は日に日に広がっていた。
重要会議室にて。
「ノワリクト様、もはや時間がありませぬ。ご決断を!」
重臣のひとりが立ち上がり、声を張り上げた。
「時空間に歪みを発生できるのはほんの数十秒……転移できる範囲は小型の宇宙艇ほどの空間に限られましょう」
シャクイガの言葉に、室内は重苦しい沈黙に包まれる。
「王よ! 別にあんたが行かねぇってんなら構わねぇぜ。あんたの代わりに俺様が王をやってやるからよぉ!」
ギリガンが獰猛な笑みを浮かべ、拳で卓を叩いた。
「何も知らぬ国民を見捨てるというのか……」
ノワリクト王が俯く。
「王よ、仕方がないのです!」
「我らだけでも!」
「私は死にとうない! はよう転移を!」
重臣たちは次々に声を荒げ、王の決断を迫った。
やがて、ノワリクト王はゆっくりと立ち上がった。
「……仕方があるまい」
「決まりですね」シャクイガが淡々と告げる。「すぐに天空艇に移動いたしましょう。宇宙空間に転移するのであれば小型艇ごとにしなければ、転移した先の宇宙空間で死ぬだけですからね」
天空艇――神器の開発と並行して建造された、転移専用の小型宇宙艇。
収容人数は二十名程度だが、内部には暗黒物質を用いた殺戮兵器と、レスポリアの膨大な技術を収めたアーカイブが搭載されていた。
「……行くぞ」ノワリクト王の命令と共に、一行は天空艇へと乗り込んだ。
漆黒の宇宙空間に艇が浮かび上がると、眼下には深淵の闇が広がる。
星々の光は失われ、まるで虚無そのものを覗き込んでいるようだった。
シャクイガが杖を掲げる。神器が脈打つたびに空間が揺れ、やがて裂け目が生じ始めた。
歪む宇宙。光のない暗闇に、ぽっかりと口を開けた虚無の穴。
「今だ! 突っ込め!」ギリガンが吠える。
天空艇はその裂け目へと突入していく。最後に目に映ったのは、レスポリアの惑星がゆっくりと、だが確実にブラックホールに呑まれていく光景だった。
闇がすべてを覆い尽くすと同時に、艇は別の銀河へと転移した。
「……終わった、のか」
ノワリクト王はおそるおそる窓の外を見た。
そこには、美しく輝く星々の群れが広がっていた。幾千もの光が宝石のように瞬き、闇を彩っている。
「ぐはははは! どうやらうまくいったみてぇだな!」ギリガンが高笑いを響かせる。「おい、シャクイガ! ここはどこだ?」
シャクイガは端末を操作し、目を細めた。
「……天の川銀河。近くに……青い惑星がひとつ。文明レベルは低い惑星のようです。名は……『地球』」
「ほぉ、なかなか良さそうな星じゃねぇか!」
ギリガンが牙を剥くように笑った。
「さっさと侵略しちまおうぜ! 俺ぁ暴れたくて仕方がねぇんでな!」
第69話『回想:古代レスポリア王国-二千年前- ③』に続く。




