第60話 イクサ vs 蝙蝠獣
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
「キシェェェェェ!!」
鼓膜を裂く咆哮とともに、蝙蝠獣の鋭い爪がイクサへと襲い掛かる。
「待て待て待て! マジかよ!」
イクサは反射的に身体を反らし、狭い通路で後方へとバク転した。爪が彼の髪をかすめ、火花のような痛覚が頭皮を走る。だが蝙蝠獣は追撃の手を緩めない。羽ばたきによる突風とともに、次の爪撃が雨あられと降り注いだ。
狭い通路では逃げ場が限られている。受け流し、身を捻り、回転しながらかわすイクサだったが、空を縦横無尽に舞う蝙蝠獣の攻撃はあまりに苛烈だった。
鋭い爪が肩を裂き、脇腹を掠め、イクサの腕や身体には次々と鮮血が刻まれていく。
「くそったれが!」
血に濡れた拳を握りしめ、イクサが吠えた。次の瞬間、蝙蝠獣の爪を右手で弾き飛ばし、すぐさま左手を地面につけて全身を軸に回転。その勢いのまま背後へ回り込み、強烈な左足を蝙蝠獣の背に叩き込んだ。
「キシェェェェェ!!」
獣が悲鳴をあげ、羽ばたきとともに空中へ退く。しかしその瞳は狂気に燃え、体勢を立て直すやいなや、さらに速度を上げて滑空してくる。
「ちぃっ!」
イクサはかろうじて身を捻ってその爪をかわしたが、勢い余ってバランスを崩し、通路の外へと滑り落ちる。
「イクサ!!」
仲間たちの絶叫が響いた。
だが、落下の直前にイクサは両腕を振り回し、ぎりぎりのところで通路の縁を掴む。身体を捻り、回転しながら強引に通路へ戻った。息が荒く、血で滑る手のひらがきしむ。
ハリーが咄嗟にチャージガンを構えるが通路外からでは的を捉えることはできない。
「ここからじゃ無理だ! ミルト、扉は破壊できないか?」
コルトが叫んだ。
「既にやっている!」
ミルトは手甲を赤熱させ、瞬間ブーストで格子扉を叩きつけていた。だが扉はびくともしない。
「くそ、特殊金属か……どうする」
ロックが唸る。
その間にも、イクサと蝙蝠獣の死闘は続いていた。通路を蹴って跳び、拳を振るっては反撃する。しかし獣はすぐさま上空へ逃れ、次の一撃を仕掛けてくる。
「くそ、ちょこまかと空に逃げやがって……!」
歯を食いしばりながら、イクサが血の滲む唇を拭った。
「羽を捥ぐしかねぇか……うっし!」
拳を叩き合わせ、イクサは仁王立ちした。目を閉じ、静かに息を整える。
「おい、イクサ!」
「何してる! あきらめるな!」
仲間たちの声が響く。
だがイクサの耳にはもう届いていなかった。空気の震え、羽ばたきの乱流、獣の気配――すべてが闇に溶け、ただ一点に意識が集まっていく。
「キシェェェェェ!!」
蝙蝠獣が絶叫とともに滑空し、爪を振り下ろす。
「見えたぜっ!!」
イクサの目が開かれ、鋭く閃いた。
「奥義・斬鉄手刀!!」
次の瞬間、彼の姿は獣の背後にあった。鋭い手刀が振り下ろされ、羽の付け根に突き刺さる。
「キィィィィィィッ!!」
断末魔とともに、両の羽が鮮血を撒き散らしながら断たれた。蝙蝠獣の巨体は空をもがくも支えを失い、奈落の底へと落ちていった。
「うっしゃぁぁぁ! うまくいったぜ!!」
イクサが高らかに叫ぶ。
直後、通路の両端を塞いでいた重厚な格子扉が軋む音を立て、ゆっくりと沈んでいった。
「……どうやら、決着がつけば解除される仕組みだったみたいだな」
ミルトが息を吐く。
「道は開いたぜ! 行こうぜ、中央塔!」
イクサが血まみれの拳を突き上げる。
「ふ、やるじゃねーか。目を瞑った時はあきらめたのかと思ったぜ」
ロックが皮肉を口にする。
「心眼だよ。余計な情報を遮断して、やつの羽の気配だけに集中した。ま、やったのは初めてだけどな」
イクサが笑い、肩をすくめる。
「余裕かましてんなよ! 死にそうだったじゃねぇか」
コルトが拳で肩をこずいた。
「うるせーよ。結果オーライだろ!」
「よし、いよいよ中央塔だ。ヒューたちの右塔はどうなってるかは分からないが、向かうぞ! ここからが正念場だ」
ロックの声が全員を鼓舞する。
「あぁ。まだジャコウやエリムスの姿が見えねぇ。注意していくぞ」
コルトが真剣な眼差しで言った。
仲間たちは再び隊列を整え、中央塔の階段へと駆け上がった。
第61話『中央塔リリークス戦(前編)』に続く。




