第59話 左塔攻略(5F)
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
「フレイムス!」
ナコが魔杖銃を振りかざし、後続する兵隊たちの足を止めた。蒼白い閃光が螺旋階段を照らし、散り際に鉄の壁を赤く染める。
全員は荒い呼吸を整えながらも、左塔四階まで駆け上がってきていた。
「うっし! 次は五階か。そろそろじゃねぇか」
額の汗を乱暴に拭ったコルトが笑みを見せる。
「あぁ。今のところは順調にきている。妙に手薄なのが気になるけどな」
ロックが低く続けた声は、耳の奥に重く沈む。
「まぁいいじゃねえか。中央塔にいきゃ親玉をぶちのめせるんだろ。着いちまえばこっちのもんだろ」
軽快に答えるイクサ。その気楽さが、逆に不吉を呼ぶようにも思えた。
「よし、五階の扉だ!」
ミルトが前に出て、勢いよく扉を押し開けた。
そこに広がったのは、異様に広い空間だった。厚い石壁に囲まれたフロアの奥には、一本の通路が伸び、跳ね橋へと続いている。その向こうには中央塔の黒い影がそびえ、まるで獲物を待つ怪物の口のように見えた。
「跳ね橋だ! 操作盤を探して、橋を下ろすぞ!」
ロックの声が響いた瞬間、空間全体を震わせるような轟音が鳴り響いた。
まるで待ちわびていたかのように、跳ね橋が軋む音を立てながらゆっくりと降りてくると、重厚な鎖が唸りをあげ、やがて中央塔への道が静かに繋がる。
「おいおい、どういうこった?」
コルトが怪訝そうに眉を寄せる。
「……罠か? まるで私たちを待っていたかのようなタイミングだな」
ハリーがチャージガンを構え、鋭い視線で周囲を見回す。だが、あれほど押し寄せてきていた兵の姿は一人も見えない。
「橋を渡っている最中に橋ごと落として私たちを道連れにする……とか?」
ナコの声がわずかに震えを帯びた。
「いや……その可能性は低いだろう。見たところ相当しっかりとした作りの橋だ。破壊するにしても簡単にはいかないはずだ」
ミルトが冷静に分析する。
「誘いこまれてるってことか。上等じゃねぇか!」
イクサが拳を鳴らし、口角を吊り上げる。
「どちらにしろ道はひとつしかない。注意しながら迅速に中央塔まで抜けるぞ!」
ロックの号令に、全員が頷き、橋へと足を踏み入れた。
だが、その先は奇妙なほどに静かだった。
「ち、さっきまで兵隊がうじゃうじゃいたのに、気持ちが悪いぜ……」
先頭を走るイクサがぼそりと呟く。足音が石床に乾いた響きを残すたび、全員の緊張が一層研ぎ澄まされていく。
やがて中央塔の入り口が見えてきた。巨大な扉を蹴破ると、そこには天井の高い広間が広がっていた。中央には堂々と階段が伸び、最上階へと続いている。
「おっと……」
全員が思わず足を止める。
広間に至る前には、百メートルほどの細い通路が横たわっていた。道はまるで地獄へと伸びる悪魔の爪のように歪んでおり、両脇には底の見えぬ奈落が広がっている。幅は人が横並びで二人がやっと並べる程度だろう。
「落ちたら終わりじゃねぇか」
コルトが足下を覗き込み、思わず唾を飲む。
「底が見えない……もしかして地下の大穴に繋がっているのか」
ミルトが唸った。
「落ちなきゃいいんだろ! 見たところ兵隊の影もない、さっさと渡っちまおうぜ」
そう言うや否や、イクサが真っ先に駆け出した。
「待て! 不用意に進むな……!」
ロックの制止が届く前に、イクサは細い道へと飛び込んだ。
瞬間、通路の両端から重厚な格子扉が音を立てて飛び出し、入り口と出口を塞いだ。イクサひとりが閉じ込められる。
「うおっい! なんだよこいつは!」
イクサが怒鳴り、壁に拳を叩きつける。
「ち、やはりか! 待ってろ解除する方法を探す! 落ちるんじゃないぞ!」
ロックが声を張り上げる。
「ねぇ、あれ……」
ナコが震える指で通路の上空を差した。
そこにはコウモリのような影が浮かんでいた。だが次の瞬間、黒い影の体が異様に膨張し、骨が軋む音と共に人型へと変わっていく。翼を背に持つ二足歩行の獣人――蝙蝠獣が現れ、低い咆哮を放った。
「おい、まさか……イクサ! 複数同位体だ! 気をつけろ!」
ミルトの声が鋭く響く。
「キシェェェェェッ!!」
鼓膜を裂くような咆哮とともに、蝙蝠獣が翼を広げ、鋭い爪を振りかざしてイクサへ襲いかかった。
第60話『イクサ vs 蝙蝠獣』に続く。




