第57話 ムラマサ vs エリムス
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
女の表情が歪んだ一瞬、目にも止まらぬ速さで距離を詰めてきた。
一瞬で間合いに入られ、女の手のひらがムラマサの腹部に突きつけられる。眩い閃光が奔った。
「なっ! 早い!」
咄嗟に身を捻り、横へ転がるムラマサ。光弾は僅かに掠め、石床を穿ち爆ぜる。すぐに体勢を立て直し、長大な槍を回転させて構え、女へと斬りかかった。
「あら、なかなかお早いじゃありませんの」
余裕の笑みを浮かべながら、一刀を難なく避ける女。
「まだまだだぁ!!」
ムラマサは叫び、矢継ぎ早に槍を突き出す。鋭く、速く、目にも止まらぬ手数。しかしその全てを女は紙一重で回避した。
横からはムラマサ隊の仲間たちも攻撃に加わる。剣が閃き、銃弾が火花を散らす。だが女の影は掠りもしない。
「うーん。ちょっと数が多いですわねぇ。めんどくさいですわ」
動きを止めた女。その瞬間を狙って仲間たちが一斉に斬りかかった。
「待て! お前ら! 下がれ!」
ムラマサの制止が飛ぶより早く、女はにやりと笑った。
「あなたたち、ちょーっと注意力が足りませんことよ。うふっ」
刹那、地面から光の柱が噴き上がり、仲間たちを貫いた。悲鳴が重なり、続けざまに上空から光の矢が雨のように降り注ぐ。
瞬きする間もなく、仲間たちは次々に絶命した。
「な……なんということだ」
「うふふ。後はあなただけになりましたわね」
女は冷たく笑みを浮かべる。
「き、貴様、一体何者だ……」
問いに、女は首を傾げ、楽しげに答えた。
「あぁ、そういえばまだ名乗っていませんでしたわね。名も知らない女に殺されるのも可哀そうですので、名前くらいは教えてあげましょうか」
「くっ!」
ムラマサが槍を構え直す。
「ワタクシは、ノワリクト政府銀河科学部門統括責任博士・エリムスと申しますの。あ、今は指名手配されているようなので『元』とつけた方がいいのかしらね」
「き、貴様が……あの、エリムスか……なるほど、ヒューベルトの言っていたイレギュラー因子か。噂に違わぬ悪魔だな」
「まぁ、あなたはなかなかワイルドでいい男ですけど、ワタクシの邪魔をするのなら……仕方がありませんね。このまま退くのなら、見逃してあげなくもありませんわよ」
「ふざけるな! 仲間たちをやられて将の俺が逃げ帰るわけにはいかない。それに、イレギュラー因子は潰しておかないとな」
エリムスの表情が再び歪む。
「うふ。戦場での判断の間違いは死に直結いたしますわよっ」
言うや否や、一瞬で間合いを詰めてきた。ムラマサは槍を振り抜きつつ、腰の小太刀を三本抜きざまに投げ放つ。
エリムスは光の壁を張り、それを弾き飛ばす。だがその隙を突いてムラマサが間合いを詰め、槍が唸りを上げて襲いかかる。
変幻自在の太刀筋。鋭い突きが空気を裂いた。
「うふ」
エリムスは見切り、華麗に避けると、地に着地しながら光弾を連射。
上空から迫るムラマサは槍を高速回転させてそれを弾き飛ばし、そのまま斬りかかる。だが刃は届かない。
「うふふ。なるほどなるほど……さすがは隊長クラスですわね。いい動きですわ」
エリムスは愉快そうにパチパチと手を叩く。
「くそ! なんなんだこの女……動きが人間離れしている。それに武器や機械を通さずになぜ光弾を自在に操れる……」
「まぁ、楽しいのですけれど……ごめんなさい。ワタクシもまだやらなければならないことがございますの。そろそろ終わりにさせてもらってもいいかしら?」
「ふ、ふざけてるのか! お前が何をしようとしているのかは知らないが、ここで見逃すわけにはいかない。倒せなくとも、足止めくらいはさせてもらうぞ!」
ムラマサは一歩踏み込み、槍を超回転させた。竜巻のような気流が渦を巻き、そこに腰の小太刀を放ち込む。嵐のごとき連続突きが叩き込まれる。
「逃げ場はないぞ! 竜巻長槍!!」
「くたばり……やがぁ……あがぁっ……」
一瞬だった。
目の前にいたはずのエリムスは掻き消え、次の瞬間にはムラマサの背後。
無数の光の環が現れ、彼の身体を容赦なく切り裂いた。
「あがぁっ……いつ、いつの、間……にぃ!!」
鮮血が散り、ムラマサは地に崩れ落ちた。
「なかなかに楽しめましたわよ。うふ。ごきげんよう」
エリムスは余裕の笑みを崩さぬまま、静かに奥の地下へ続く大穴へと歩を進めた。封印を解除し、制御不能の複数同位体を収監している牢獄へと静かに下りていった。
第58話『右塔攻略(4F)』に続く。




