第54話 決戦前夜(後編)
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
ブリーフィングルームに入ると、すでに数名が席に着いていた。
ヒューベルト、ルクス、ミカエル、ロック、イリナ。そして見慣れぬ新顔の男が静かに腕を組んでいる。
「こいつはムラマサ。刃の長い得物を得意とする十士の一人だ。まぁ、まだ十士は他にもいるんだが、紹介はその都度でいいだろう」
ヒューベルトが紹介すると、ムラマサは軽く顎を引き、無駄のない所作で一礼した。
中央のホログラム映像に、バルエクスの監獄塔を中心とした宙域の立体映像が浮かぶ。
全員が席に着くと、ミカエルがゆっくりと立ち上がり、声を発した。
「先行視察隊の話では、バルエクス宙域にはすでに銀河政府の迎撃艦隊が控えているとの情報だ。宙域に入り次第、交戦が始まるのは避けられないだろう」
その言葉に、自然とコルトたちの背筋が伸びる。
「まず――」ミカエルがホログラムを操作し、戦艦群の配置を拡大する。
「艦隊戦は我々白キ戦艦が引き受ける。戦艦本隊と小型艇に十士の数名を分け、敵の主力を一気に叩く。数ではこちらが不利になるだろうが、機動力と的確な狙いで司令系統を潰せば、後は恐れるには足らんだろう」
「艦隊戦の統括はミカエルに任し、俺たちは別動隊でその隙をついてバルエクス内に侵入する。目的は三つだ」
ヒューベルトが言葉を継ぎ、ホログラムを切り替える。赤い印が監獄塔の中枢に重なった。
「一つ、囚われている複数同位体化していない人間の解放。二つ、結晶体実験施設の破壊。そして三つ……リリークスおよび、指揮系統の殲滅だ」
「そこに俺たちの目的である結晶体と、ジャコウの確保が入る形だな」コルトが低く唸る。
「あぁ。だが、単独で動いているエリムス、そして姿を見せないジャコウの動きには最善の注意が必要だ。どう動いて来るかの予想がつかないからな」ミルトが冷静に続けた。
「監獄塔の内部の地形は、ある程度俺が把握している。大きくは十五年前と変わっていないはずだ」
ヒューベルトが言うと、ムラマサが腕を組んだまま声を出した。
「我々は精鋭部隊を編成し、監獄塔のA地点からJ地点に分かれて塔の内部を制圧。研究施設の破壊と、囚われている人間の解放は任せてもらおう」
ヒューベルトが頷く。
「結晶体は中央塔の最上階。リリークスもそこにいるだろう。それに……ジャコウやエリムスもここに向かうはずだ。だが、中央塔最上階に直接下りることは難しい。おそらく塔を足で上ることになるだろう」
「もちろん、リリークスのもとにはあんたが行くんだろ? ヒューベルト」コルトが言った。
「あぁ。ただし、中央塔最上に行くには左右の塔から続く跳ね橋を使うしかない。左右の塔を同時攻略し、リリークスを追い詰める必要がある」
「なるほど。そういうことか」ミルトが頷く。
「俺が指揮を取るヒューベルト班が右塔を叩く。お前たちが左塔を叩いてくれ。そちらにはロックをつける」
「わかった。いいだろう」コルトが短く返した。
「よっしゃぁぁ! 単純明快! 俺らは左塔を叩いて中央でリリークスって野郎をぶっ飛ばせばいいんだな」イクサが叫んだ。
「その通りだ。だが気を付けろ。どこでどうイレギュラーが起きるかもわからない。それにリリークスは両手を複数同位体化している。簡単には倒せないと思っておけ」ヒューベルトが釘を刺す。
「ねぇ。監獄塔は手に負えない複数同位体を収監してるんでしょ。その獣たちが放たれるってことはないの?」ナコが不安そうに尋ねた。
「大丈夫だ。あくまで投入してくるのは制御が効く複数同位体だけだろう。それに、制御不可の怪物は監獄塔の地下大穴の深くに封印され収監されている。今回の戦いにそれが出てくることはないと思っていいだろう」ヒューベルトが断言する。
「オーケーだ」ミルトが声を出した。
「ルクスとイリナを艦本体に残し、連絡役とする。目的を果たしたらすぐにバルエクスを離脱する。覚悟を決めろ。明日からは一秒ごとに命のやり取りだ」
その言葉に応えるように、全員が互いの顔を見合った。
迷いはある。恐怖もある。だがその奥に燃えるのは、確かな決意だった。
「……よし」コルトが口を開いた。「作戦はわかった。やるしかねぇんだ。だったら俺たちで必ずやり遂げてやろうぜ」
「頼りにしている」ヒューベルトがわずかに口元を緩める。
バルエクス決戦前夜――。
緊張と静かな熱が、ブリーフィングルームを満たしていった。
第55話『宙域艦隊戦(バルエクス戦争の始まり)』に続く。




