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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第五章:禁止惑星『バルエクス』戦争編

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第50話 ヒューベルトの過去ー十五年前ー(前編)

第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編

 十五年前――惑星マテレキャ。


 「おい、なんだーあれ?」

 「なにがよ、そんなことよりもうすぐ昼なんだから畑仕事切り上げて。ヒューも今日は午前授業だけって言っとったし」


 「なんーか空に光の点みたいなのがたくさん見えるんだよなぁ」

 「父さん、母さん、ただいま。まだ畑にいるの? お昼にしようや……」


 その時だった。遠くの空に瞬いていた無数の光が、点ではなく飛行体であることに気づいた。見たこともない数の飛行体が迫ってくる。畑の人々や家から出てきた人たちが口々にざわめき、空を指差した。


 やがて光は輪郭を帯び、鋭い機影となる。先端が一斉に煌めいた瞬間、耳をつんざく轟音とともに近くの家も田畑も爆ぜ飛んだ。大地が揺れ、炎が空を裂いた。


 誰もが撃ち込まれたのだと理解した。理解した瞬間に、全身を恐怖が支配した。


 燃え盛る炎、次々に撃ち込まれる砲弾。爆音と火の海が地上を飲み込む。俺たちは必死に逃げた。父さんと母さんと一緒に。だが、やつらは追撃を緩めない。獣のような怪物を地上に解き放ったのだ。


 その異形たちは、逃げ惑う人々に一瞬で追いつき、喰いちぎり、鮮血で畑を赤く染めた。絶叫が重なり合い、空の爆音と混ざって響く。いつの間にか、父さんとも母さんともはぐれていた。


 数時間の間、爆炎と悲鳴が途切れることはなかった。やがて、地獄と化した惑星マテレキャに、ひときわ異質な存在が降り立つ。司令官らしき姿。鋭い装甲と威圧を纏ったその男は、兵に向かって命令を放った。


 「生き残った人間どもを捕らえろ」


 それがドギガイズだった。


 十四歳の俺は、死体に埋もれながらも生き残っていた。やがて兵に腕を掴まれ、抵抗もできず飛行体の中へと放り込まれた。そこには数十人の生き残りが押し込められていたが、父さんも母さんも、知り合いの顔もなかった。目の前が真っ暗になり、意識は途切れた。


 次に目覚めた時、俺は研究施設の中にいた。手足を拘束され、透明のカプセルの中。訪れたのは、死ぬほどの……だが死ねないほどの苦痛だった。焼かれるような電流、内側から砕かれるような衝撃。気絶しても目覚めればまた同じ。実験が終われば、ゴミのように狭い部屋へ投げ込まれる。


 その繰り返しの日々。部屋には俺を含め五人の同年代がいた。


 実験の最中、微かに白衣の男たちの声が聞こえる。

 「結晶体の力……人に取り込む……怪物とは別、自我を制御……」


 日が経つにつれ、部屋の人数は減っていった。声を交わす暇もなく、気づけば五人は三人に、三人は二人に。最後に残ったのは俺と、ひとりの少女だけだった。


 あの日も、俺と少女は別々のカプセルに入れられ、実験が始まろうとしていた。だが、いつまで経っても苦痛は訪れない。代わりに、研究員たちが怯えたようにざわついていた。


 爆発音が遠くから響く。研究所が揺れていた。白衣の男たちは慌てふためき、何かを叫んでいる。突然、俺の前にひとりの研究員が走り寄り、操作盤に手をかけた。スイッチが押される。


 流れ込む苦痛――だが、出力は明らかに異常だった。脳が焼け、内臓が裂け、血管が破裂する。死ぬ。今度こそ死ぬ。


 そう思った瞬間、カプセルが轟音とともに砕け散った。


 「大丈夫か? 今すぐ自由にしてやる。走れるか?」


 声の主は、海賊帽子を被り、眼帯に立派な髭を蓄えた男だった。

 隣で同じように苦しんでいた少女も、別の仲間らしき人物に助け出されていた。


 全てが燃え尽きていた俺に、初めて生の火が戻った瞬間だった。死を受け入れていた俺が、もう一度前に進みたいと願ったきっかけ。


 「…………」声は出なかった。ただ、全身で痛みに震えながらも、俺はゆっくりと頷いた。

第51話『ヒューベルトの過去ー十五年前ー(中編)』に続く。

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