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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第一章: 『ノワリクト』脱出編

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第5話 アゲハ救出計画(中編)

第一章: 『ノワリクト』脱出編

 コウダから名前を聞かされた翌日、ナコは銀河都市の上層区に足を踏み入れていた。

 高層ビル群が整然と並び、その隙間を銀色の軌道レールが縫うように走っている。頭上を走り抜けるのは、銀河軌道線――星と星を結ぶ超高速鉄道だ。ガラス張りの車両が光を反射し、尾を引くように滑っていく様は、まるで都市そのものが呼吸しているように見える。


 駅前の大通りを抜けると、目的の建物が見えてきた。

『銀河軌道線システム管理局』


 外壁は滑らかな白い合金で覆われ、入り口には数名の警備ドローンがゆっくりと巡回している。コウダから渡された一時通行許可証をセンサーにかざすと、緑色のランプが灯り、扉が開いた。


 内部は静まり返っていた。壁一面に張り巡らされたホログラムパネルが、路線の状態や列車位置情報をリアルタイムで映し出している。青と白の光が、まるで水中にいるような感覚を与える。

 受付ロボットに名前を告げると、無言で通路の奥を指し示された。


 案内されたのは小さな休憩ラウンジのような部屋だった。

 中にいたのは三人――背中を丸め、端末を操作している壮年の男がコルトだろう。少し長めで無造作な灰色の髪、片目に古い型の情報補助レンズをつけている。その横では、ショートカットの女性技師が端末を抱え、もう一人、長身でがっしりとした体格をしながらも聡明な雰囲気のある男性が分厚い配線図を広げていた。


「お前が……ナコだな」


 コルトは顔を上げ、低い声で言った。

「ふん、こんな女に秘密を洩らしやがって! コウダから話は聞いている。座れ」


 促されるまま、ナコは対面の椅子に腰を下ろす。


「ここにいる三人、俺とハリー、ミルト、それにコウダも含めて……表向きはただの市民だ。他にもまだいるがな」


「ただの……」


「あぁ。だが裏では、銀河政府が隠し続けている何かを暴こうとしている。そういう組織だ。聞いてるんだろ?」

「いえ、詳しくは……その反政府組織……ということですか?」

「チっ! そう言われればそうだが、俺たちはテロリストじゃない。武器も極力使わない。ただ事実を知り、広める。それだけだ」


 コルトの目は、光を反射して鋭く輝いた。

「まぁ、今回のジャコウとアゲハの件も、裏で何かが動いているのは確実だな。あいつらはただの職員と学生だ。それが『禁書盗難』なんて大義名分で捕まる……ありえない」


「よっぽど政府様に都合の悪い何かを……偶然にでも見ちまったんだろう」


 隣で女性技師のハリーが指を鳴らしながら答えた。


「禁書盗難なんて事件が全くのでっちあげで、政府にとって不都合な情報か、秘密か、それを知ってしまったジャコウを一刻も早く拘束したい。そんなとこだろうな」長身の男性、ミルトが続く。


「その……どういう……」


 遠慮がちに声を出すナコに、コルトが鋭い声で言った。


「わかんねぇか? 禁書盗難なんて大罪をかけたのも、見つけたら即殺す。捜索中に間違って殺しちまっても言いようにだろう。世間からしたら禁書盗難なんて銀河一の重罪だ。その主犯とされている人物が殺されたって一般市民は何とも思わないさ。胸糞悪りぃがな!」


「じゃあ、禁書は……」


「十中八九、盗まれてなんていねぇだろう。簡単に言えば、それに匹敵する何かを知ってしまったジャコウを、是が非でも拘束、排除したいってことだろうよ。そもそも、禁書を盗み出すなんてシステム的にも物理的にもほぼ不可能だ。ま、本当に盗まれている可能性もゼロじゃないがな」


 コルトの説明は、的を得ているように思えた。禁書盗難から、犯人の断定までのスピードの速さ、この銀河で最も堅牢な場所とされている『神格の間(メイデン・ルーム)』からの最高機密の持ち出し。どう考えてもジャコウひとりでは不可能だろう。協力者がいた可能性は捨てきれないが。


「アゲハを……助けることは、できるんですか?」

「あん、助けるさ。お前はその為にここに来たんだろ! それに、いい機会かもしれない……政府が隠している秘密を、暴くためのな」

 コルトは端末を操作し、壁のホログラムに新たな図面を映し出した。


 それは、銀河中央図書館の内部構造図だった。


 高層塔のような形状の中に、螺旋状に階層が連なり、一般閲覧フロアの一層から三層、四層の管理層、そして――。

 コルトは端末から五層を拡大した。

「第五層、『留置の間(ジェイル・ルーム)』。ここがアゲハのいる場所だ。銀河図書館の中でも、もっとも厳重な区画のひとつ。ただ、六層七層と違って穴もある」


 ハリーが説明を補足する。


「侵入ルートは一つ。星と星を繋ぐ銀河軌道線でもなく、都市を繋ぐ銀河環内線でもない、外縁部を結ぶ貨物専用のルートを通って図書館の上層に直接アクセスする方法だ。ただし、通常は高位職員の許可がないと通れない」

 ミルトが配線図を指でなぞりながら口を開いた。

「しかも、そこには複数の生体認証ゲートと監視ドローンがある。突破には図書館の旧セキュリティプロトコルを知ってる奴が必要になる。幸い、それを知ってるのが俺とコルトだ」


 コルトはナコを見据えた。


「今さら聞くこともねぇとは思うが……失敗すれば、お前もアゲハも、二度と戻れない。無論、俺たちもな」

 ナコは迷わず頷いた。

「それでも行きます。アゲハは……私の、大事な友達だから」


 その瞬間、コルトはほんのわずかに笑った。


「いいねぇ。肝が据わってるじゃねぇの……気に入ったぜ、決まりだ。決行は明日の夜から朝にかけて。各自、準備を進めておけ」


 ホログラムに映し出された第五層の図面が、青い光に包まれて揺れていた。

第6話『アゲハ救出計画(後編)』に続く。

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